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31 今は力を蓄える時

「――はぁっ!」



 風を切り、フローライトが目の前の空間を「敵ごと」薙ぎ払った。

 魔力を与える事で修復され、切れ味を増した大太刀によって対峙していた討伐依頼の対象、マジックドールの胴体が上下に切り分けられていく。


 ……吹き飛ぶならまだしも、そのままぶった切るとかどんな切れ味してるんだよ、こいつは。


 まぁ、相手は「木製の人形が宿った魔力で動き出した事で魔物化した存在」だから、薪割りみたいな感覚をどうしても覚えてしまうんだが仕方ない。



「逃がす――かっ!」 



 振り切ったフローライトを慣性のままに片手持ちにして、革のベストから投擲用短剣を引き抜いた。

 そしてそれを投げつければ、投げた先にいた別の魔物の身体に連続して突き刺さっていく。


 同時に引き受けた、もう一つの討伐依頼の魔物――ギアバタフライだ。

 敵わないと悟って逃げようとしたそいつの木製の胴体と翅を、短剣の重量で地面に縫い付ける形で落としていく。


 短剣の回収は後だ。

 今は、目の前にいる敵に意識を集中する。


 擬似的にではあるが、今の俺は「一対多」という対多人数戦術を実践しているのだから。






 Eランクとしての最初の依頼は、討伐依頼だ。

 新しく購入した武具の扱いに慣れる意味もあるが……戦いに身を置く事で分かる事もある。


 そのために、多少は無茶を承知で「討伐依頼」を複数受注。

 それを同時に実行しているのだ。


 自分を追い込む事で「そうしなければいけない環境」を作り出し、成長を促させているのも理由の一つにはあるが……少なくとも、コルフェ山で起きた魔族との邂逅は、俺の中で危機感を芽生えさせるのには充分だった。


 本当に発動するかも分からないスキルに期待をしたり、激昂による魔力のリミッター外しやスキルの狂化を別にしても、どんな形であれ「そうしないと勝つ事もできない」という前例が出来てしまっている。

 それを覆すだけの実力を身に付けなければいけないだろう。


 敵の勢力と接触をすれば、さほど遠くない時期に相手からやってくる。


 ニチアサで定番となった英雄物では王道だとも言える展開だ。

 子竜の襲撃が誰かの意図で行われていたのだとすれば、あちら側で何らかの動きがあるに違いない。


 それに、これはゲームや物語のように『やらなかったからダメだった』では済まされない。


 生きるか死ぬか。

 文字通りに自分の命がかかっている。


 死の直前でその事に気付いて後悔する事だけは避けたい。

 そのためには、場数を強引にでも稼いで経験を積む必要があるのだ。


 普通なら魔物に遭遇するにも手間がかかるんだろうけど、俺には創造神エルクゥから与えられた『チート』という武器がある。

 エルクゥに上手く乗せられてる気がしなくもないが、活用出来るんであればしない訳にはいかないだろう。


 普段は視界の隅に配置されているサーチマップを視界の中心に動かし、半透明にして拡大表示させる。

 これで視界を確保すると同時に【敵性情報解析】で判別出来る魔物の位置が分かりやすくなった。


 あとは、その位置に向かって突撃していくだけ。


 掃討戦だとも、一人だけでは無茶だとも言えるやり方だ。


 でも、自分の新しい力を試している今は。

 目指す戦術の型を模索している今は、挑戦と改善が何度も行えてありがたいと思える。



「――これでっ!」



 遠心力を使って大太刀でマジックドールを袈裟斬りにすると、サーチマップに意識を集中させる。


 ……今の拡大率で表示されている範囲内には、赤い光点は存在していない。


 切り捨てたマジックドールも光となり、宝箱を残して消えていくのを見届けてから「はぁっ」と大きく息を吐く。

 ひとまず、落ち着いて休憩は出来るか。

 殆ど浅い呼吸になっていたからか、軽い息苦しさを感じてはいるが……それも、深く深呼吸をしていく内に消え去っていく。




 ――おっと。レベルアップですぜ、流れ人の旦那。あんたもますます強く成長するってもんだ!




「……そういや、何回かレベルアップしてたんだったな」



 聞き慣れたファンファーレと共に聞こえてくる、あの口上。

 最初は違和感でしかなかったが、今では普通に受け入れられている辺り、俺も慣れたというか何というか。


 フローライトの手入れをしながら、メニューを開いてステータスを表示させる。


 実は【情報隠蔽】を手に入れた後から確認をした事は無かったので、少しは楽しみだったりするのだが。





 名前:ムミョウ・ナナキ

 種族:人間・男

 職業:なし

 年齢:15歳


 Lv.17 Lv.1 UP!


 HP:750 → 784(6867)

 MP:310 → 336(10617)

 筋力:61 → 68 (891)

 耐久:57 → 61 (763)

 敏捷:86 → 90 (1065)

 精神:124 → 131(8767)

 魔力:148 → 154(『表示不能』)

 知力:152 → 159(10380)


 *()は隠蔽された本来のステータス





「……わーお」



 相変わらずの成長率に楽しみにしていた気分が一気に吹き飛んだ。

 一回、どこかでインフレ気味に跳ね上がって成長しただろ、と言わんばかりの上がり幅に目が白目になりかけたのは気のせいだと思いたい。


 10や20など、切りの良いレベルに上がった時だけであればいいが、これが毎回続くようであればエルクゥに抗議しに行くレベルである。

 普通に冒険者としてもこの世界を楽しんで生きたい俺としてはとんでもない事態な訳だし。


 ……しかし、今の自分が置かれている状況を考えてみると、これがある意味で最善策なのかもしれない。

 皮肉にも、チートで自分の首を絞めてもいるが、チートで助けられている訳でもある。



「全部終わったら、文句言ってやるからな……」



 愚痴りたくもなるが、それはそれ、だ。

 今は、自分の命を長く繋げるために努力するしかないのだ。



「短剣と討伐部位を回収しにいかないと」



 置きっ放しにする訳にもいかないし、誰かに持ち逃げされてタダ働きにされるのも癪だ。

 可能な限りで回収しつつ連鎖的に戦闘を繰り返してはいたが、出発点からはかなり遠い所にまで来ている。夢中になって奥まで来過ぎてしまったか。


 引き受けた討伐依頼の魔物達が多く棲むが故に、旅人も立ち寄らなくなった危険な森――「人掃いの森」の奥地には、この魔物達の原型となる人形を生み出したと言われている人形術師の館があるらしい。

 その館は住人を亡くした今も森の奥地にひっそりと残っていて、中には人形術師が遺した遺産がある……という話だそうだが。



「正直、興味はあっても……なぁ」



 ついこの間、エルクゥに「恋人候補との出会いが近い」と言われたのだから、それに関わる可能性は無くも無い。

 だが、その相手が「生物ではない」可能性だってある訳だから、俺としては何とも喜びにくい訳である。


 エルクゥにもその辺りを突っ込んで聞いてみても「楽しみにしてください」だの「それは秘密です」だのと押し問答だったので、回答は得られていない訳だが。



「行く機会があれば、かな」



 ……振り返った視界の奥の方に、チラリと見えた館を一瞥して。

 俺は、進んできた道を逆に辿り直していく。






 ……今は誰も住んでいないはずのその館の窓。


 そこから、遠ざかって行く冒険者の背中をジッと見つめている視線が存在している事に気付きもしないで。



また日刊更新が出来たら良いなと思いつつも、あれこれ模索してます

安定したペースで更新している方々にはただただ脱帽です

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