30 新たなる力を手に
翌朝、その足で武具屋に向かい、店員に亀裂の入る打刀を見せる。
そして、刃の状態を見た店員は――静かに首を横に振った。
「……これは無理ですね」
「磨り直しをしても?」
「外を見ただけでは判断出来ませんけど、これは中の方まで亀裂が入ってると思います。だから、一度熔かして一から打ち直しをしないといけませんね」
「そんな状態なのか……」
「自分も、武器がこんな状態になってるのを見るのは初めてです」
武器の知識や構造に関しては、俺よりも理解の深い店員が言うのだからそうなのだろう。
武器として使えないだろう、という事は素人目の俺でも分かってはいたが……磨り直して刃を整えたとしても、刀身の芯鉄――人間で例えるなら、骨に該当する重要な部分だ――にまで亀裂が走っていては、武器としては致命的な傷だ。
改めて、あの時に発動した自分のスキルの威力に震えが走る。
これでは、スキルを選んだり威力を抑えなくては、まともに武器を扱えないではないか。
「……けど、大丈夫。この刀はまだ『生きてます』よ」
苦悩していると、店員は僅かに微笑んでこちらを見た。
鞘に戻し、静かに撫でるその手付きは、まるで刀に対して労をねぎらうかのようにも見える。
「分かるのか?」
「土の精霊を舐めないで下さい。素材に使われた鉱石の声を聞く事くらいは出来ますよ」
彼が言うには、この刀は俺が買い取るまで誰も手に取ろうとしなかった「売れ残り」だったのだという。
確かに、ホウライの人間でなければ扱わないであろう特異な剣ではあるし、知名度も元の世界のように知られているかも怪しいところだ。
切れ味に関しては、同じ素材で作られた武器の中では群を抜くだろう。
しかし、製造にかかるコストや手間を考えると、簡単に量産出来る西洋剣の方に軍配が上がる。
そういう訳で、刀も。
そして、鍛造した店員自身も売れる事に関しては「諦めていた」のだとか。
……だが、そこに一人の客が来た。
ホウライの人間ではない。
だが、刀の事を知っていて、他の武器を薦めてもなお――これでいい、と言い切った。
その声に、刀は「応えよう」と決めたのだと。
「この刀は、打ち直せばまだ貴方の役に立てます。数日は時間を貰いますし、元の形にはなりませんが……それでもよければ」
「……お願いします」
頭を下げ、俺は礼を示す。
まだ短い付き合いだとはいえ、初めて使うと決めた武器だし、それなりに愛着の湧いた武器だ。こんな形で手放すのはもったいない。
可能ならば、素材の持つ限界まで使い果たしてみたい。
「分かりました。俺の持てる技術を全て注ぎ込むつもりで取り掛からせて貰いますよ」
胸をドンと叩き、屈託のない笑みで笑う店員に、俺は好感が持てた。
この人なら、やってくれるだろうと。
「それで、打ち直しをする間の武器はあるんですか?」
「とりあえず、あるにはあるんだが……」
腰に差してある短剣は、小回りが利くが一撃が弱い。
新たな相棒である大太刀のフローライトは間合いも一撃も大きいが、懐に潜り込まれると対処が難しい。
両極端なこの装備では、これからの戦いには不安要素しかない。
「だから、その穴を補える装備を探したいんだ」
「なるほど。それでしたら……」
「……ふむ。君の新しい『装い』はそれかい?」
「一旦は、って所ですけどね」
1時間後。
俺はEランク用の新しいギルドカードの受け取りをしにギルドを訪れ、カタリナに見つかっていた。
部屋に連れ込まれたうえに、上から下へとじっくりと見られるのは、その、非常に困る。
困るといっても、男としてではなく、無理矢理連れ込まれたから周りの視線が痛かった、という意味で。
奥にいた冒険者達なんか、指笛なんか吹いて囃し立ててたぞ。いいのか、あれで。
「その装備でまだ途上だと言うのかい?」
「自分の戦術を色々試してる段階ですから」
そう言って頭を掻く俺の手は、鉄の手甲に覆われていた。
覆われているのは、手だけではない。
足も膝まで覆われた脚甲を身に付け、身体は動きを阻害しない程度に胴体を覆うプレートベストを装着。
そのベストの上からガンベルトやホルスターのように収納空間のある革のベストを着込み、数本の投擲用短剣を差し込んでいる。
腰には初期装備の短剣。
背中には、自身の背を超える身丈の大太刀、フローライト。
一見すればごちゃごちゃしているようだが、これらの装備にはちゃんと目的がある。
手の届かない距離に相手に対しては、魔術と投擲用短剣で牽制。
近付いてくるのであれば、フローライトで迎え撃てる。
至近距離や動きの素早い相手に対しては、手甲と脚甲による格闘術と短剣で受け流しつつの対処が可能。
今のスキルとステータスを踏まえて、出来るであろう戦術を可能とする装備が、これなのだ。
……ついでに言うと、普段通りに動くために装備の重量がこれ以上増やせなかった、というのもあるが。
「魔族との戦闘を考えれば、これだけあったとしても足りなさそうですし」
「確かにそうかもしれないな」
謎の多いスキル『ライフ・サクリファイスブースト』が都合よく発動してくれるとは思っていない。
だからこそ、常に「そのスキルが無くても」対抗出来る策を考えておかなくては。
「……しかし、それを全て扱いきれるのかい?」
「そのための準備段階なんですよ。今は」
「完成したら末恐ろしいな、君は」
クスクスと笑うカタリナ。
その表情は、ギルド長としてではなく――冒険者としての期待の眼差しだった。




