24 ツキヨニチカイテ
完全復活とはいきませんが、更新速度をあげられそうです。
三日に一度更新出来るよう頑張ります。
「……おぉ」
見上げれば、満天に広がる星空。
下を見れば、月の光に照らされて仄かに光る一面の月光草。
元の世界に居たならば見る事は到底叶わなかったであろう幻想的な光景に、自然と口から感動がこぼれる。
「こいつは、キャンプ用品を買った甲斐があるな」
月光草の群生地から少し離れた所にテントを組み立て、今夜の宿を準備しつつも時間を潰していたのは、この瞬間を見るためでもあった。
月光草は、月の光を受けて淡く光る。
しかし、光るのは全体ではなく、ましてや葉や茎でもない。
葉や茎にも含まれてはいるが、どの部分よりも薬効成分を多く含まれていて――月の光が届く夜にしか開かない「花」が、月の光を浴びる事で光を放つのだ。
そのため、月光草の花は「妖精のランタン」などという異名も持っていたりするのだが。
「一つだけ、持ち帰らせて頂きます」
小さなスコップと鉢植えを手元に用意して、群生地の外側でひっそりと咲いては淡く光っている月光草を採取。
周りの土ごと持っていくのは、育った環境の土が有るのと無いのとでは育ち方が違ってくるから。
そもそも、提出するのだからそういう気配りは必要ないのかもしれないが……まぁ、個人的な気分で「やりたいからやる」だけである。
「……さて」
当初の目的である『月光草の確保』は出来たし、安全の為に野営をして翌朝に降りる準備も出来た。
優先して行うべき事が無くなったので、自分の道具袋から「ある物」を取り出す。
「困った時に使えって言われてもな……どのタイミングで使えと」
自分の手で転がしているのは、群青色の小さな呼び笛。
金属質な光沢を持つそれは、今は座る自分の横に置かれている大太刀に使われているものと同じもので創られている。
つまりは竜鱗であり、それを渡した相手も想像がつくと思う。
この呼び笛を使う機会が早々に無いように願いたいものだ。
「……それにしても、本当に誰とも会わなかったよな」
人の目を避けるために、山頂ではなく霊峰側の山頂付近で降りる事になったのだが……そこからこの群生地に戻るまで、冒険者の一人はおろか、この付近に住む魔物の影も姿形も見なかったのだ。
怒り狂い、我を忘れていたフランディールの逆鱗に触れまいと魔物達は逃げ出していたのだろうし、冒険者達も天候を考えて降りたのだろうか。
どちらにしても推測でしかないのだが、今の状況においてはありがたくもある。
この幻想的な光景を、今だけは独り占め出来るのだから。
手元にスマホが残っていれば、この光景を写して残しておきたい所だ。
仮に残っていたとしても、最後に充電してから優に一週間が経っている。太陽充電式のツールなんて持っていないのだから、充電する手段なんてありはしないのだが。
それでももしかしたら、と期待してしまうのが人間で。
最初にこの世界に来た時に荷物をよく調べていなかったのを思い出して、光源となる『ライトウィスプ』を3つほど詠唱して創り出すと、自分の荷物をひっくり返してみる。
すると、画面の割れていないスマホが奥の方から出てきた。
「……マジか」
試しに電源を押してみると奇跡的な事に起動したので、二つの意味で驚いた。
バッテリーは流石に半分以下まで減っていたが、写真を撮る分には問題ない。
立ち位置を変えて、数枚撮っておく。
エルクゥに渡しておけば、元の世界に居る母親に手紙と一緒にどうにかして渡してくれるだろう。
「…………今日は色々あったな」
スマホの電源を落としつつ、今日一日で起きた出来事を振り返る。
命を狙われていたらしい子竜。
誰かから何らかの指示を受けていたような感じのあった魔族との遭遇。
その魔族とは関係ないんだろうが、どうしても記憶に残ってしまう変態白衣。
……何だかんだで「友」となった『群青の翼王』フランディール。
濃密過ぎる出来事のオンパレードに色々と頭が混乱しそうだが、少し離れた所でこの状況を見ている自分がいる。
そして、言っているのだ。
客観的に見れば――これは、冒険譚らしい冒険ではないか、と。
元の世界に居たままであれば経験する事の無い出来事ばかりなのは、言うまでもない。
流石に、魔族とエンカウントするのは俺としては予想外だったわけだが。
「何か、変な厄介事に巻き込まれてそうだしな……俺」
指示を受けていたような小悪魔は倒したから良いが、あの変態白衣が何かを言っていないか心配ではある。
そもそも、アレと関わった時点で既に厄介事に巻き込まれているのだろうが。
仮にそうだとしても、程々に回避はさせて貰うつもりだし、無理なら無理で迷惑料ぐらいはもぎ取るつもりではある。
「とりあえずは……強くならないとな」
自分を守るためには、まずは強くならなくてはならない。
自分の生存率を高める為にも、色々な方向から考えていかなければ。
チートもそうだが、俺には『戦う』という事の経験が足りないのだ。場合によってはこちらの世界の子供にも劣っているかもしれない経験値を、どうにかして高めていかないといけない。
「防具は……まぁ、優先しようか。今の俺には、こいつがあるわけだし」
すらり、と鞘から蒼い刀を抜き放つ。
称号のおかげでそれなりに扱えてはいるが、転移補正で身体が若返った為に、十日ほど経った今でも身体自体がまだ思うように扱いきれていない。
慣らす事も目的だが、刀以外の攻撃手段もそろそろ考えないとな。
この大太刀だけだと、懐に潜り込まれた時に対応が後手に廻ってしまいそうだし。
加えて、スキルによる「閃き」の再現だ。
武器とステータス次第だが、有用なスキルが元の世界の知識に眠っているのは間違いない。それを少しでも再現できるようにしなくては、いざというときに自分を守れない。
そのためには、自分の限界を知る必要もあるのだけど。
「その辺りは、追々考えるとするか」
今は、そういった事を考えないで目の前の風景に注視していよう。
こんな幻想的な風景を肴にしないなんて、自然に対して無礼だというもんだ。
「酒が飲めればいいんだろうけど、そういうわけにもいかないよなー」
元の世界でいうところの『元服』がウィルマキアにもあるらしく、こちらでは15歳で一人前の大人として認められている。
というわけで、世界の定義としては俺も飲酒しても構わないらしい。
転移する前の肉体年齢を考えると、飲酒は十二分に可能なんだが……どうにも、前の世界での常識に引っ張られている部分があるようで手を伸ばしたいとは思えない。
その違和感も、こちらで過ごしている内に薄れていくんだろうけど、こればかりは仕方ないか。
「……そういえば」
大太刀と呼び笛を見て、ギルドカードに追加された称号の事を思い出す。
後で見よう、と考えてはいたが、今の感じだと確認するのはこのタイミングしかない気がする。
「さてと、そんな内容になってるんだか……」
内容に不安を感じながらも、ステータスの『称号』を覗き見る。
・称号・New!
―【翼王の友人】―
群青の翼王『フランディール』より信頼を得て、友人となったもの。
竜に対しての理解が広がり、信頼を得やすくなる。
「……意外と無難だ」
ステータスに影響を与える系の恩恵があるかと思っていただけに、肩透かしではあったけども……よく考えろ。
エルクゥが俺に与えたスキルや称号の方が、とんでもないチートなんだと。
そう考えると、この程度の称号なんて普通なのかもしれない。
「チートなんだから当たり前だよな……ふぁ」
改めて、俺が得たチートスキルや称号のありえなさを再確認した所で、眠気に抗えなくなってきた。
野営用に準備したテントに潜り込み、光源としていた魔術を消す。
明日は山から下りて、ギルドに採取した月光草を提出しないと。
強くなるためにも……今は、目の前の事をやるしかないのだから。




