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23 群青の翼王

今後の話の展開を考えていたのと、参考になりそうな作品を読んでいたら軽く失踪状態になってました。

お待ちしてた皆さんには申し訳ないです。


 ――人は、不測の事態に出会うとどうなるんだろうか。


 ある人は悲鳴を上げ。

 ある人は反射的に攻撃を行う。


 腰を抜かして動けなくなるものもいるだろうし、自らの命を守ったり、そこから離れようとしたりするものもいるだろう。

 それは生存本能としては自然な反応だ。


 ……では何故、急にそんな事を俺が言い出しているのかというと、だ。




『――ふははははははっ!』




 目の前で口を開けて高らかに笑うのは、先程まで見ていた巨大な竜。

 それほどまでに可笑しかったのか、笑い声に合わせて動く翼はバタバタと服をはためかせる風を巻き起こす。



『まさか、我の姿を見て「立ったまま気絶するもの」がいるとはな! 実に面白い!』



 ……つまりは、そういう事である。

 そして、俺が今いる場所はコルフェ山の四合目ではない。


 マップで現在地を確認すると、ここは蒼竜山脈の中でも中枢に存在し、最も険しく高い位置に存在する『霊峰ラケスタ』の山頂部。

 サーチマップに映る周囲の赤い光点は、今の俺ではどう足掻いても敵わないような敵がいる事を教えてくれている。


 それもそうだ。

 この霊峰に辿り着くにはコルフェ山を含めた周囲の山々をいくつか踏破し、霊峰を二つの意味で守る『守護門』を潜り抜けなければならないのだ。

 レベル的な意味でもここまで辿り着くのは不可能だし、そもそもどんなに急いだとしても日数的に時間がかかる距離でもある。


 ……しかし、俺は気絶してから目覚めるまでの数分間で、この霊峰に運ばれてしまっている訳だ。

 その原因――というか、運んだ張本人が『目の前にいる』のだから「そうだ」と納得するしかないのだが。



「お気に召しましたかね? 『群青の翼王』殿」


『人が我を畏れて付けた名で呼ぶでない』



 笑われた仕返しに嫌味を込めて言ってみせると、群青の巨竜はうんざりとした表情で答え、



『それに、我の事は「フランディール」と呼べ、と赦したではないか』


「それが畏れ多いと何度言えば分かってくれますかね」



 ここに来てから何度も繰り返した押し問答に、今度は俺がうんざりする。


 こっちは創造神との繋がりはあるけれど、ウィルマキアという世界から見れば、ただの流れ人。

 対する相手は、俺が小悪魔達と変態白衣から守った子竜の親にして、この『蒼竜山脈の主』なんだ。


 その主に対して『名前で呼べ』だの『友人として接しよ』だのと言われて、すぐに「はいそうですか」と頷けるほど俺は心が図太い訳でも度胸がある訳でもない。

 関わり合いになりたくなかったのか、と言われると「そうじゃない」と返したいんだが、まさかシナリオ的に言えばこんな序盤で知り合いになるとは思っていなかったのだ。


 あとでエルクゥに文句言ってやる。

 このパターンだと、あと数回くらい同じ事がありそうな気がするし。



「俺がこの子を助けられたのは、ただの偶然ですよ。その偶然で、名前を渡されても俺としては困るんですが」


『偶然であろうと、息子を助けて貰った事には違いあるまい。それに対しての礼をするのは当然であろう?』


「それはそうですけど」



 防寒着が必要なレベルの標高にも関わらず、身に付けた装備のままで居られる謎の空間仕様なのは目の前の彼が何らかの働きかけをしているからに違いないだろう。

 そうでなければ、少し振り向いた先にある「氷結した岩肌」と同じ状態になっているはずだ。俺が。



『それに、我の息子は汝に懐いてしまっているのだからな』


「恩義に感じてくれてるのはありがたいんですけどね……」



 視線の先。

 胡坐をかいて座る俺の膝元で、安心したように眠りこけてらっしゃるのは、件の子竜殿。

 所在のない両手でとりあえず頭や翼膜とかを撫でてやると気持ちいいのか、ゴロゴロと猫みたいに喉を鳴らしているのだけど。なにこれかわいい。



『竜が懐く者に悪しき者は居らぬ。故に、我は汝を信用に足る者だと認めたのだ』


「その対価が、名前の譲渡と『翼王の友人』という名誉ですか」


『然り』



 頷く相手に、俺は溜息を付きながら頭を掻く。

 恐らく、この先同じ問答を繰り返しても彼は折れないだろう。言葉の節々には「そうするのが当然だ」という意思が見え隠れしているし、何よりも『子供の命の恩人』だという理由もある。


 ……参ったな。

 ウィルマキアで普通に生きる、っていう目的から遠く離れてしまってる気がする。


 そもそも、エルクゥ達と出会った時点で既にそのレールからも逸脱してると思うんだが、これだけは気のせいではないと思う。



「…………あぁもう、分かった。分かりましたよ。その名誉、ありがたく頂戴しますよ」



 そして、溜息と共に吐いた言葉に、巨竜――フランディールの目が細められる。



『そうか、そうしてくれると我もありがたい』


「断った所で、延々とループしそうな気がしたんで」


『ふふ、聡いな』



 やっぱりそうか。

 人生、何事も諦めが肝心かね。命がかかっている事以外で、だけど。



 ――新しい称号を獲得しました。



 そして、分かりきってはいたけれど脳内に響くシステムメッセージ。

 どんな内容かは後で確認するとしよう。内容的にはありきたりな感じがするんだが。



「……で、俺をここに連れてきたのはこれが理由だったりする訳かな?」


『息子の危機で怒り狂っていたとはいえ、流石に他の者の視線に及ぶであろう場所で我が人間に礼を言う訳にはいかぬのでな。ここまで連れ戻させて貰ったのだ。済まぬな、恩人よ』



 そういって頭を垂れるフランディール。

 上の立場に居る人間ほど、人の前で頭を下げにくくなるのはどの世界でも種族でも一緒だって事なのかね。



「言わんとする事は分からないでもないからいいよ。けど、俺って元の場所に帰れるの?」


『無論、我が送り届けよう。だがその前に、汝に渡しておくものがある』



 尾を使って器用に自分の背後にある空間から俺の前に運んできたのは、一振りの刀だ。

 ただ、その刀は――今の俺の背よりも遥かに大きく、刀身が長い。



『汝が持っているその「刀」を見て、我が宝に似たようなものがあるのを思い出してな。使わぬ宝など持っていても仕方あるまい、使ってはくれぬだろうか』


「貰えるなら貰っておくけど……これは「大太刀」か?」



 元の世界に居た頃に、興味があって調べていた事を思い出す。

 確か、今の定義では「刀身の長さが3尺以上のもの」だというのが大太刀の定義だったはずだ。


 その定義で言うと、目の前の刀は全体で6尺ほど。刀身だけで言うと5尺はある。

 1尺が約30cmなのだから、刃だけでも今の俺の身長を越えている代物だ。



『そうだ。これは昔、ホウライに渡りし鬼人族の鍛冶師が学んだ技術を元に鍛え上げた一品でな。製法はそのままに玉鋼以外の素材で創れはしないか、と様々な素材で試し打ちしたものだと聞いておる』



 鬼人族とは、身長が3mを超える人型の種族だ。

 見た目は……簡単に言うと、日本古来の伝承にある『鬼』の姿を思い浮かべてくれればいい。

 オーガやトロルといった魔物と同じ祖先を持つ種族で、良くも悪くも日本古来の伝承通りの性格をしている。人を喰らったりはしないが、人族と鬼人族との恋愛譚がある辺り、別の意味で喰らってはいるようだが。



「この世界でも、玉鋼は貴重なのか?」


『貴重と言う程ではないな。より手軽に精製出来るミスリルなどの魔法鋼が在るのだ、それに需要が奪われているだけであろう』


「確かにそうかもな」



 という事は、純粋な玉鋼製の刀は少ない、と見るべきか。

 流石は幻想の世界だ。何でもありだな、とここは素直に感心するべきところなんだろうか。


 ちなみに、然る手順を踏めば、現代でも真剣を持つ事は可能ではある。

 ただ、代物が代物なだけに購入しようとは思わなかったが、金額がとんでもない額だった事は確かである。


 加えて、模造刀でもそれなりの金額はするし、合金とはいえ本物の鉄を使って造られた物が殆どであり、真剣ではないので誰でも持つ事も可能だ。

 但し、刀を模しただけあって、先端は刺す事が可能なほどに鋭いし、刀身は研がれていないとはいえ鈍器とも取れる重量と頑丈さを誇る。もちろん、薄刃のものは扱い次第では皮を切るくらいの鋭さはあるので注意は必要だが。



「……で、これは何を原材料に使っているんだ?」


『魔力を糧に自己修復する特殊な魔鉱石を精製した『アルタネイト』を主原料に、我の鱗を少しばかり混ぜておる』


「えっ」



 にやりと笑うフランディールに、俺は言葉を失う。



『使ったのは、我の身体から剥がれ落ちた古物よ。何も生物を使った訳ではあるまいに、何故に汝が驚くのだ?』


「いや、誰だって最初はそう考えるって」



 元の世界では、干将・莫耶を筆頭に、人身御供の元に鍛造された武器の逸話があるのだからそう考えてしまうのは仕方ないと思うのだけど。



「というか、竜麟って熔けるの?」


『我の息吹で熔かしたのだ』



 まさかの、提供主が鍛造に協力していた件。



『故に、混ざり合いて鍛造に向く代物になるまで一月。形にするまで更に一月。磨きあげるまでに更に一月はかかったのだがな』


「でしょうねぇ……」



 金属に金属ではないものを馴染ませるなんて、元の世界でもなかなか出来ない技術である。


 更に言うと、竜麟は幻想譚でも並大抵の金属では歯が立たないほどに強固な代物だ。

 それを金属と混ぜ合わせるだけでも、技術的な意味でもとんでもない代物になるのが確定的に明らかなレベルである。



「……で、そんな3ヶ月の成果で恐らくは一点物であろうこの刀を、信頼に足るってだけで俺に『あげる』と言いますか」


『そうだが?』


「……そんなに担がれるほど、俺は出来た人間ではないですよ?」



 副原料として含まれたフランディールの蒼鱗を反映してか、やや蒼みかがった黒金に映る自分の顔は自虐に笑っている。

 チートで色々と賄われているとはいえ、本来はこういう場所に居られない存在なのだけど。



『汝が自らの事をどう思おうと、我には関係ない』



 フランディールの尾の先端で、ぐいと俺の手に刀が押し付けられる。



『我が認めた。その事実だけはしかと誇るがよい』


「……善処します」


『返事としては及第点だが、まぁ良かろう』



 さっきと同じように、ここで断り続けても意味はないんだろう。

 フランディールが言うように、彼が認めてくれたんだからそれを素直に受け取ろう。それが、彼のためでもあるんだから。



『……さて、我が友よ』


「何ですか?」


『これより、汝を元の場所に送り届けようと思うのだが……如何な方法が良いかと尋ねたくてな』


「……ちなみに、こっちに来た時の運び方は?」


『そのまま咥えてきたが?』


「帰りはもう少しまともな方法でお願いします」



 服がなんかべとべとしてたのはそのせいかよ!



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