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13 空想はいつしか現実となる



 再び街の外に出て、街の門からもそれほど離れていない森の中へ。

 【敵性情報解析】で周囲には敵がいない事も確認済み。


 後は【閃き】の発動条件を確認するだけだ。



「……フローチャート、オープン」



 ウインドウが開かれ、いくつものタブが付いたリストが表示される。

 剣技や格闘術、中には暗殺術なんて物騒な名前の付いたタブもあるが、それらはとりあえず無視しておく。


 色々あるタブの一つを選択してみれば、フローチャート式になった技能が全て灰色のままで表示されている。

 指先で触れてみると、習得するために必要なステータスや魔術などの技能、その技能に関わる技などが表示されているんだろうけど……残念ながら、まだ何も習得していないために虫食いの被害にあった書物のように検閲がされている。


 そんな状態の中、この時点で優先して解放するべき技能は……



「体術だな」



 戦うための技能ではなく、身体を効果的に動かすための技能だ。


 自分の被害を抑えつつも敵を倒すには、自分の身体の動作が「どこまで出来るか」を熟知していなければならない。更には、その動作が出来るかどうかで「技が発動出来るか」にも繋がる、重要な要素でもある。


 だからこそ、どんな動きが出来るかを把握しておかないと意味が無いのだ。



「……肢曲なんてあるのかよ。確かにあれは足運びによって相手を幻惑させる歩行術だけど」



 眺めるだけでも、他の技術に繋がっている技能が出てくるものだ。

 魔術と組み合わせる事で習得可能なものも確認出来たので、それは追々覚えていく事にしよう。


 ひとまずは、魔術も何も覚えていない状態の「今の自分」が覚えられる体術を試してみる。



「こういう時、訓練場や道場みたいな場所があればいいよな……」



 無いものを呟いたところで、無いのだから仕方ない。

 いつかは手に入れよう、と頭の片隅に走り書きでメモしながら、簡単なものから実行してみて習得していく。


 元々、武術を本格的に習った事もない人間なのだ。

 ちゃんとした場所で学ぶのも重要だろうが、こういったチートによるフォローがあってもいいと思う。正直、推奨はしないが。



「――で、覚えた基礎動作を元に、と」



 体術の基礎動作を習得した事で、他の武術系の技能から検閲されていた部分が一気に解放された。

 具体的に言うなら、この動作が出来る事で「その動作から始まる技」の習得条件が分かるようになった、というべきだろう。

 どの技と技の組み合わせで奥義になるのか、というニュアンスに近いか。


 試しに、刀を抜いて片手で素振りをしていると、キィンッ……と瞬間的に意識が研ぎ澄まされた感覚を覚えた。


 その瞬間だけ自分の動きが「ゆっくりと見えた」のだが、それはまるで「身体が勝手に動くのを見ている」ような感覚だった。

 自分が意識していない動作を、身体が「勝手に」行っていたのだから当然だと思う。



「……おぉ」



 そして、目の前にウインドウが現れて「切り返しを習得しました」というシステムメッセージが。

 意識が研ぎ澄まされた瞬間に、頭の上に電球でも現れたのだろうか。電球は本当にそういうイメージだが。



「あの感覚が技を閃いた瞬間なんだな……」



 俺の場合は、閃いたというよりも再現したという表現の方が正しいのだけども、正否はこの際投げ捨てておく。

 実際に技が「使えるようになった」事が、重要なのだから。



「それじゃ、次のステップだ」



 切り返しは、基本動作の延長線上にある初歩のような技だ。

 ここから、初段、皆伝、奥義……と、技能の難易度を上げていかなければならない。もちろん、今の段階で奥義なんて難易度の代物を閃いて再現する事なんて無茶にも程があるのだが。


 無難に、初段の辺りで手を打つのが今は得策だろう。



「…………」



 森の中、何も無い空間に向けて抜き身の刀を構える。

 イメージは、人型の魔物。今の自分が対応できるレベルの魔物は、オーク辺りだろうか。


 振り回す棍棒は、当たれば簡単に骨が砕ける程度の威力がある。

 頭に当たれば、それは問答無用で「死」に繋がる。それぐらいの威力があるのだから、接近戦は控えるべきだろう。


 ……では、仮に。

 逆に「接近戦をしなければならない」状況に置かれたとしたら?


 誰かを守るために。

 退路を塞がれた状態で。

 敵を惹きつけるために。


 様々な状況下を考えた上で、最善となる策を選び取る。

 それが結果として間違っていようとそうでなかろうと、出来なければ意味は無い。


 ……そう。意味が無いのだ。



(やらなければ、死ぬ。これからの依頼は、そういう戦場もあるんだ。いつまでも「狩る側」じゃないんだ)



 意識せよ。自覚せよ。



(お前は――「狩られる側」なんだ)



 如何にチートを持とうとも、本質は弱者なのだと認めろ。

 弱者ならば、足掻け。もがけ。苦しみ抜いて――そこから脱してみせろ。



(ならば――)



 意識を更に落としていく。

 そもそも、お前は……『どういう存在』だった?



「オレは……」



 想像上のオークが、棍棒を振りかぶった。

 その軌道から逃れるようにして、身を素早く切っては肉薄する。


 そうだ。

 オレは        存在なんだ。


 だからこそ――牙を剥け。


 ――足掻いて、生きてみせろ!



「オラァアアアアアアアアアアアッ!!」



 腹の底から噴き上がる様な雄叫びと共に刀を振り上げた。


 瞬間、意識が覚醒する。

 動きがゆっくりと進み、身体が「覚え込むように」動いていく。


 袈裟懸けに一閃して、突き。次いで、胴をなぎ払い。最後に相手の真上に飛び上がっての突き落としを――



「――やばっ!」



 そのまま突き刺すと、刀が折れる。

 そう思った俺は慌てて構えを解いて着地する。


 それでも、一連の流れは身体が覚えてくれたのか……頭にシステムメッセージが響く。




 ――剣技の発動条件を満たしました。

   剣技【デッドエンド】を習得します。




 システムメッセージを聞き終えてから、俺は深く息を吐く。



「あっぶねぇ……模擬戦でもないのに武器折りとか、阿呆がする事だぞ」



 紙で刃についたであろう汚れを篩い取ってから鞘に戻しつつ、俺は一人ごちた。

 実際、そういうのをやらかして騒ぎになった事のある物語を読んでいただけにその馬鹿らしさと絶望感は推し量る事は出来る。

 けれど、それだけの鍛錬をしていた、という事だ。それだけは認めなくてはなるまい。


 ……それに、俺もその轍の跡を進む直前だったが、思った以上の収穫があった訳だしな。



「いきなり皆伝技、か。相性がいいのかね……あの『思考』は」



 自分がこの世界に来る事を選んだ元凶ともいえる、自己犠牲と自己破壊に塗れた怨鎖思考。


 自分を卑下し、矮小な者だと追い詰め、自身を責め立てる事で底辺に近付け、生への渇望を焚き上がらせるものだ。

 もちろん、その渇望すらも燃えなければ更なる沼へと沈んでいく、諸刃の所業なんだが。



「だからと言って……止める訳にはいかないんだがな」



 染み付いた汚れが落ちにくいように、この思考も俺自身に根深く残っている。

 けれど、活用出来る術があるのなら……使わせて頂こう。


 どんな形であれ、生きるための力に違いないのだ。



「……帰るか」



 夕暮れが近い。

 フィオに心配される前にさっさと帰ってしまうとしよう。


 ただでさえ、今日は色々あった。

 考える事もなく、ゆっくりと眠れる毛布が恋しいと思うのは……自然な事なのだから。



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