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12 ホウライ


「刀を知ってるなんて珍しいですね。お客さん、ホウライの人なんです?」



 展示用の刀を見つめていると、店員が驚いたように尋ねてきた。



「ホウライ?」


「あれ、知らないんです? 東の海の方に浮かぶ島国なんですけど」


「いや、俺は流れ人なので」


「そうでしたか、すみません。でも、知ってる人が来てくれて嬉しいですよ」



 ニコニコと微笑む店員に、俺はそうかと頷く。


 ……ホウライって、漢字で書くと「蓬莱」なんだろうな。


 かつて、元の世界での日本は交易をしていた諸外国から「蓬莱島」や「黄金の国」なんて呼ばれていたんだ。

 その呼び方がされているっていう事は、この世界にも日本式の文化が少なからず存在しているって事だ。知識にあるにはあるが、可能ならばこの目でしかと見たい。



「ここにある売り物は、全部あなたが打った物だと言ってたね。これも?」


「そうです。製法も鉄の鍛錬法も一から調べて、現物と見比べながら打った物です」


「……抜いて見ても?」


「どうぞ。刀を知ってる人なら雑に扱わないでしょうし」



 了解を得て、鞘から抜く。


 僅かに反りはあるがスッと真っ直ぐ伸びた刀身。刀身の長さは60cmといった所か。

 専門家ではないので詳しい事は分からないが、粗悪な造りではないのは確かだと言える。


 刷り上げて磨かれた刃は鏡のように光を反射して、見つめる俺の顔を映してくれる。


 そこに映る俺は……確かに、エルクゥに頼んだ通りのゲームのキャラクターになっていた。

 けれど、顔をまじまじと見るのはまた今度だ。



「その作業は、全て一人で?」


「えぇ。自分だけなら誰にも迷惑はかけませんし、やる作業も間違えなくて済みますんで」



 確かに、息の合わない複数人でバラバラになってやるよりは、その方がいい。

 もちろん、息を合わせられるのであれば服数人でやった方が上質な物が出来るのは間違いないが。



「それで、お客さんは冒険者ですよね。何を買いに?」


「新しい武器を買おうと思ってね。認定試験に向けて装備を整えたいんだ」


「なるほど、確かにその装備じゃきついかもしれないですね」



 俺の今の装備を見て、店員は苦笑いを浮かべる。

 今までが弱い相手が対象の納品クエストばかりだったから、これでも充分だっただけなんだが。



「どういうのがご希望ですか? 予算もあるのなら、その範囲で見繕いますけど」


「選んでくれるのならありがたい。それなら……」



 店員の申し出に、俺は壁に飾られている数多の武器を眺めて見回す。


 身の丈を超すレベルの西洋剣に、武闘用の手甲。

 農具だったものを大きくしたような鎌に、宇宙世紀に出てくるようなハンマーなど、展示用に造られたものだとは言えどもそれぞれがちゃんと「武器として」使えるように鍛えられている。


 称号の《百の武器を扱う者》のおかげで、どの武器を選んだとしても十二分に使いこなせるだろう。

 普通なら扱いを習熟するまでに数年かかるような多節棍も、軽く手に馴染ませるだけで達人の域に達するっていうんだからこの称号がどれだけチートなのかっていうレベルだ。


 けれど――この店に来る前に。

 正確には、ウィルマキアに来てから。


 使いたい武器は、既に決まっていたりする。



「――こいつを、頂こう」



 握った『刀』を店員に差し出し、俺の意思を示した。



「……それで良いんですか? お客さんなら、他の武器の方がいいと思いますが」


「いや、これでいい」


「風の噂に聞く、ホウライのカタナマイスターでも目指すんです?」


「さぁね。俺も思いつきだからどうなるかは分からんよ」



 呆れたような店員の視線に、俺も肩を竦めて返す。

 思惑なんて深くは考えていない。ただ、自分のやりたい事に素直になろうと考えただけだ。



「とりあえず、代金は2万ゼニーです」


「意外に安いな、もう少しかかると思ってたんだが」


「本職ではないですし、それは学んだ技術の確認のために作ったものですから。ちゃんとした刀鍛冶の人が造れば、一振りで100万とかは普通の世界ですよ」



 提示された金額を支払い、そのまま腰のベルトに刀を差した。


 昔はこうして模造刀を下げてはカタナマイスター……つまりは『侍』の真似事もしたな、と昔に思いを馳せる。

 だが、感傷に浸っている暇は無い。

 チート技能はあるとはいえ、この刀を使いこなせなければ待っているのは「死」なのだから。



「それじゃ、武器の事で相談があったら来ますよ」


「えぇ。またお越しください」



 頭を下げる店員に礼を告げて、俺は歩いてきた道を辿り直す。


 今日だけでも、知識を改めて調べなくてはいけない事が多く出てきた。


 極東の島国、ホウライ。

 刀の製造技術。

 向かうにしても、そのための手段。


 ひとまずの、旅の目的が出来た訳だ。



「……楽しみになってきたな」



 そう考えると、自然と浮かぶ笑みは止められない。

 やりたい事が次々と浮かんできて、それを想像するのが楽しくて仕方ないのだ。


 特に、今の俺に扱える【異世界の知識】から成る【閃き】の技能を創る事は、やってみたかった技の再現と言ってもいい。それが可能だと分かった時の心の高揚感は何とも伝えがたい。



「試すにしても、場所と時間に都合をつけないとなッ!」



 実際に発動させるとなれば、周囲にはあまり建物が無い場所の方がいい。

 更には、あまり人の目に触れない場所がいい。


 ……であれば、俺は理想的な場所を知っているのかもしれない。



(エルクゥ!)


 ――ダメですからね、それは。あくまで、あれは神との謁見を果たす為のスキルなんですから。



 尋ねようとしたら、先手を打たれてしまった。

 あの空間だったら何をしても問題なさそうだったのだが……残念だ。



(……やっぱり、地道に街の外で試すしかないのか)


 ――楽はさせてあげるとは言いましたが、極端な事はさせてあげませんからねー。


(チートは極端な事じゃねぇのかよ)


 ――さぁて、私には何も聞こえませんねー。



 白々しくとぼける創造神様は放っておいて、俺は真剣に思考を回す。


 防具を買うのはまた今度。

 今は、技能の開発が優先されるべきだ。


 異世界の知識には、戦う為の技能もあれば、生きる為の技能もある。

 その技能を活かせるよう、防具も調整しなければならないだろう。



「やるしかねぇなら、やるしかねぇ……よな」



 元の世界に居た頃、時間も忘れて読み耽っていた物語の主人公の口癖を呟く。


 喉の傷で声を失い、薬で人間の姿に成った竜の少女と恋仲になった狩人の物語だったが、結末は最後まで読めずに作品そのものが消えてしまった。

 読む事が出来なかった事は今も心残りだが、主人公が口癖にしていたこの言葉だけは、ハッキリと覚えている。


 今では、自分を奮い立たせる時に呟く魔法の言葉となって、自分に受け継がれている程に。



「……さぁ、やってみるかッ!」



 自分にどれだけの事が出来るか分からない。

 だからこそ、やってみる価値がある。


 心が疼く高揚感に身を突き動かされて、俺はいつしか街を駆け出していた。



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