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11 報酬の使い道

 俺は言葉を失っていた。


 どじゃりっ。


 音で例えるなら、そんな感じの響きがする重さの硬貨袋がカウンターに置かれたからだ。

 その音の響きに、奥で酒を飲んでいた冒険者達が何事だと気になってこちらを覗いているんだが……正直な所、こうもがっつりと見られていると恥ずかしくて仕方ない。

 それはこの硬貨袋を持ってきた受付嬢のアンナさんも同じなようで、肩で息をしながらもにっこりと微笑む。



「こ……これが、今回のナナキさんの報酬となります……」


「だ、大丈夫ですか?}


「これくらいやれなきゃ、受付嬢は務まりません……!」



 いや、こんなところでプロ根性を見せられても困るんだけども。



「とりあえず、報酬の総額は8万ゼニーです」


「そんなにあったんですか」


「端数分も買取しましたから。それでは、こちらをお受け取りください」



 そう言って差し出されたのは、元の世界でもよく見かけていたお金。

 偉人の代わりにウィルマキアの神々が描かれているそれは――間違いなく、元の世界と同じ「紙幣」だった。



「……えっ? じゃあ、この硬貨袋は何?」


「ただのパフォーマンスです」



 なんだよそれ!

 一瞬、これを受け取るんじゃないかって信じちゃったじゃないか!



「すみません。でも、これで自分がどれだけの価値の金額を稼いだのか、分かったかと思います」


「……確かに、驚いたっていう意味では価値が分かったけど」



 心に響くような驚きや感動が無ければ心が死ぬ、とは誰の言葉だったろうか。

 鶴っぽい何かだったかな、詳しい事はどうでもいいんだが。


 無駄に驚いて疲れた俺を見て、奥の冒険者達が笑っているのが聞こえた。

 俺も最初はあんな反応だったな、俺の時はもう少し稼いでたなー、なんて言葉も笑い声に混ざって聞こえる。


 ……あぁ、そうか。

 これ、冒険者になったら誰もが通る道なんだな。そりゃあ、懐かしいものを見るかのような目で見つめもするか。



「それでは、カードのご提示をお願いします」


「あ、はい」



 ギルドカードを渡し、依頼達成の情報をカードに記帳する。

 簡単な手続きの後に記帳が終わって返されたカードには、ランクと名前の下に「72」という数字が浮かび上がっている。説明の時に聞いていた「貢献度」を表す数字なんだろう。



「これだけの成果が出せれるなら、Eランクの認定試験でも大丈夫かと思いますよ」


「ギルド長も言ってたけど、認定試験って?」


「そうですね、さらっとではありますが説明致しますと『ギルドが提示した依頼を達成する事』ですね」



 テキストでもあるのか、それを読みながらアンナさんは答える。



「ただ、認定試験なので通常の依頼とは違います。難易度は昇格するランクの依頼のものに近いですし、内容もその都度変わります。過去には緊急依頼をそのまま認定試験に宛がったケースもあるので、どんな依頼でも即時対応出来るだけの地力が試されていると思ってください」


「わかりました」



 要は、共闘ゲームでよくあるような『緊急クエスト』をクリアすればランクアップ出来る、という事か。

 その手のゲームを色々やってきた俺としては分かりやすくて実に良い。



「……でも、その装備だとちょっと不安ですね」


「えぇ、それは自分でも思ってます」



 アンナさんが心配してくれたように、俺の装備はウィルマキアに転移してきた当時のままの装備だ。


 布製の旅人の服よりも少しばかり丈夫な気がする、デニム生地のジャケットとパンツ。

 そして、腰のベルトに差してあった短剣。


 これだけだと、確かに討伐系の依頼だったら目も当てられない結果になるのが手に取るように分かるな。

 自殺志願者かただの馬鹿か、と思えても仕方ない。



「……武具屋ってどこにありますかね」


「それでしたら、この大通りを西に抜けて……」



 観光案内用のパンフレットを地図代わりにして場所を教えて貰った俺は、報酬の8万ゼニーを受け取るとすぐにその場所へと向かった。

 情報は速度が命だ、とどこかの記者のような事を言うつもりはないが、新調した装備に慣れる時間は必要だ。


 そのための努力だったら、欠かす訳にはいかないだろう。

















「ここか……」



 商業区ともいえる区画を進んでいくと、その店はあった。


 外見は、普通の一般的な家だ。しかし、屋根の煙突は常に煙を吐いていて、常に中の熱気を出そうとしているのが外から見ても分かる。

 けれども物々しさは無く、中に入りやすそうな雰囲気が出ているのは、表に「冒険者歓迎、中へどうぞ」という看板が下がっているからだ。


 とりあえずは入ってみない事にはどうにもならないので、看板通りに中に入らせて貰おう。



「すみません」


「あ、はーい!」



 中に声をかけてから入ると、奥で作業をしていたらしい誰かの声がした。作業を中断してまで来てくれるようで、バタバタと足音がする。



「お待たせしました、武器の新調ですか?」


「え、えぇ……」



 そして現れたのは、俺よりも小さな背丈の男性だった。


 日焼けした肌の色……というよりも、それが元々の色なんだろう。浅黒い土色の肌をした彼との身長差はそれほどではないが、筋力という部分では確実に彼に軍配が上がる。

 日頃から鉄を叩いているのか、熱で日焼けた肌に引き締まった筋肉がよく似合う。



「……? 自分が気になりますか?」


「そうだね。ドワーフだと思ったら、違う種族の人が出てきたものだから」


「あー、よく言われます。別にドワーフだけが鍛冶やってる訳じゃないんですけど、そういうイメージが浸透してるのは否定できないんで」



 確かに、ドワーフは鍛冶屋というイメージが強い。

 それは屈強な身体と職人肌で融通の効かなさそうな考え方が原因の一つでもあるんだが、大体の原因は元の世界でも存在する「幻想譚の定番」というテンプレートだろう。


 エルフは美しく、魔法が得意で、森でひっそりと外界と関わりを持たずに生きている。

 ドワーフは地底で鉄を叩き、重装備で戦う戦士であるが、種族としては閉鎖的である。


 それらの中には、幻想譚を広げていく為に後から付加されていった「設定」が含まれていたりするのだ。


 現に、最も古く世界でも知られている「一つの指輪を巡る冒険の幻想譚」に登場するエルフは、昨今で知られているエルフの姿とは違う性質を持っている。


 それ故に時代の流れが森の守護者という新しい役割を彼らに与えた。それは、歴史としてはつい最近の出来事である。



「それじゃあ、あなたは……土の精霊ノームですか?」


「そうです。鉱石好きが高じて、自分で武具を作るようになったんですよ」



 鉱石を好む土の精霊、という種族特性を考えれば納得か。

 何事も例外はある、という事だな。



「よかったら、色々見ていってください。ここにあるのは全部、自分が打った物なんですよ」


「へぇ……」



 板金の鎧から鉄板のような巨大な剣まで、古今東西の幻想譚ではお馴染みな装備物が並んでいる。


 そんな中、俺の目に止まったのは――



「……こちらの世界で見るとは思わなかったな」



 美術品の域にまで高められた、日本独特の武器……「刀」であった。



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