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10 思いもよらない福音

投稿がちょっと間に合わなかったけど、26日のロスタイムということでひとつ。

「……それで、具体的には君に何をしたらいいのかな? 私達は」


「便宜を取り計らって欲しいとは言いましたが、報酬に色をつけて欲しいとか、そういうのではないですよ」



 尋ねるギルド長に、俺は考えていた事を口にする。

 自分の境遇を話し、それについてどうにかしたいという説明をすれば引き受けてくれるだろうか。俺としては引き受けてくれた方が嬉しいのだが、無理は出来ない。



「お二人もご存知の通り、俺は流れ人です。それ故にこちらの世界に対して疎い所がかなりあります。この世界で生きていくには色々と不足しているものがあるので、それに対して便宜を計って貰いたいな、と」


「なるほど。して、その不足しているものとはなんだろう」


「こちらの世界の知識と文字の読み書き、ですね。異世界に転移した事でどうしてか言葉は分かるんですが、知識と文字まではどうにも出来なくて。どこかで学ぶ機会があればと思っています」



 完全適応によって、自分でも知らないうちに覚えさせられていた知識なのだ。二度手間かもしれないが、だからこそそれが本当に正しいのかを確かめておきたい。

 文字も書けはするのだが、教えて貰ってもいないのになぜ書けるのか、という疑問も自分で払拭したい。知識として身体に覚えさせられているのかもしれないが。



「確かに、それは必要な事ですね……」


「ちなみに、他に頼めそうな所にあては?」


「……今のところは、特に」



 首を横に振ると、ギルド長は「そうか」と考え込むような仕草をとる。

 フィオに頼めば教えてくれそうな気もするが、俺としては彼女以外の人からも交流を重ねて見聞を広く得たいと思っている。

 そう考えると、この出会いは千載一遇のチャンスなのかもしれない。



「なので、誰かを紹介して貰う事って出来ませんか?」


「紹介か。ギルド長に物を頼む新参の冒険者とは、見た事も聞いた事もないな」


「こちらの世界での常識を全く知らない流れ人なので」


「そして強かであり機知に富んでいる……と。面白いな、君は」



 考えるふりをしながら、俺を値踏みするように頭の先から脚の先まで見つめていたのだろうか。

 ギルド長はクスクスと笑いながらも小さく頷いて、こちらが良く分からないうちに好印象を持ってくれている様だった。



「……うん、気に入った。君の望む条件を飲もうじゃないか」


「本当ですか?」


「あぁ。それに相手もこちらで選んでおこう。君にとって損はないはずだ」


「ありがとうございます!」



 思いもよらぬ即断承諾に、俺はその場で深く頭を下げる。

 こうも話が上手く進み過ぎると逆に怖いと思ってしまうが、エルクゥの言葉を借りるなら「今までが不幸だったから、今になって幸運が来てる」んだろう。


 ……あの世話焼きなエルクゥが、この流れに一枚噛んでいる可能性は否定できないが。



「その人とは連絡をつけておくが、準備にも時間がかかる。一週間は待って貰う事になると思うけど、良いかな?」


「はい、無理を言って頼んでいるのはこちらですから大丈夫ですよ」


「そうか。なら、先方には『学ばせ甲斐のある生徒だ』と伝えておこう」



 そう言って、ギルド長はこちらに手を差し出す。

 俺もその手を握り返し、ここに交渉は成立した。



「実のある話が出来てよかったよ。これで私からの話は以上なんだが、君が持ってきた荷物は……」


「あぁ、これですね」



 がさりと袋から取り出したのは、討伐依頼の証明部位とも言えるアイテム群だ。

 それを納品するついでで相談しようと思っていたのだから、順序は逆になるし、人生は何が起きるか分からないものだ。



「これはまた凄い量だな……アンナ、先に計算しておいてあげてくれるかな?」


「は、はい」


「多過ぎましたかね?」


「いや、多過ぎて困るという事はないよ。むしろそれだけやれるのであれば、Fランクでの実力は証明されたようなものだ。次のランクに上がるための認定試験も問題ないかもしれないな」



 受付嬢の人が袋ごと回収していったので、部屋に残されたのは俺とギルド長だけ。

 そんな中、気になる話題が出たので俺は身を乗り出す。



「認定試験?」


「あぁ、最近登録したばかりだから知らないのも仕方ないか。ランクはFからSSの8段階が存在するが、そのランクによって受注出来る依頼の質や危険度も違うのは知っているだろう?」


「はい。ランクが上がれば上がるほど、危険な魔物の討伐依頼や貴重な物品の採取依頼があるとは聞いています」



 簡単に言えば、ドラゴンやワイバーンといった名高く有名な魔物を討伐するような依頼は高ランクの冒険者でなければ受注する事も見る事も叶わない、という事だ。

 これは無駄な犠牲を減らす事にも繋がっているし、冒険者に憧れただけの気持ちの柔な登録者を振るい落とす役目もあるのだとか。



「まぁ、それに似合うだけの実力があるかどうかを確かめるための試験だと思ってくれればいい。もちろん、君が今のランクのままで満足しているというのであれば、受けなくても何も問題は無い」


「そういうものなんですか?」


「そういうものだ。案外、世間は緻密なようで雑に出来ているのだよ。ランク付けの基準もね」



 そう言ってクスクスと笑うギルド長に、俺は苦笑いを浮かべるしかない。

 自分から内情をばらしていくギルド長ってどうなんだ。



「……それにしても、君は不思議だね」


「何がですか?」


「こういう部屋に通されたらうろたえるのが普通だからね。君を見るに、似たような経験を繰り返しているがために肝が据わっているのかな?」


「据わってなんかいませんよ。ただ、慣れただけです」


「慣れただけ、と言う君も相当に不思議なんだけど」



 ギルド長には呆れられたかもしれないが、事実としてそうとしか言えないのだ。



「……まぁ、君との約束は早めに果たすとしよう。準備が出来たら連絡をするから、拠点にしている宿の名前を言って貰えるかな?」


「あ、すみません。俺、宿が拠点じゃないんですよ」


「では、既に家持ちなのかい?」


「それとも違いますね。実は、教会の方で寝泊りをしていまして」


「教会で! それはまた、君も変わっているねぇ」


「宿が無かったんで、シスターにお願いし倒した感じですけどね。なので、何かあったら教会に連絡して貰えれば」


「ん、分かった」



 これ以上話す事は無くなったので、退席しようと立ち上がる。

 そんな俺に、ギルド長は微笑みかけた。



「君は面白そうだから、今後もこの部屋に遊びに来なさい。アンナには後で伝えておくよ」


「それは嬉しいですけど……どうしてですか?」



 首を捻る俺に、ギルド長は笑って答えた。



「なに。簡単な事だよ。未来の成長株に先行投資をするだけさ」



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