8 次なる目標は
――レベルアップですぜ、流れ人の旦那。
あんたもますます強く成長するってもんだ!
「――誰だお前ッ!?」
ファンファーレの後に聞こえてきたシステムメッセージに、俺は思わず突っ込みを入れる。
世代的に聞き覚えがあるし、はたして使っていい台詞なのかも分からないんだけどさぁ、それェ!
「……まぁいいや。確認しよ」
突っ込んだ所でどうしようもないから、諦めてステータスの確認に入ろう。
更新されて見覚えのありすぎる『リングコマンド式』に変更されていたメニューは溜め息と一緒にスルーして、とりあえずステータスを開く。
名前:ムミョウ・ナナキ
種族:人間・男
職業:なし
年齢:15歳
Lv.2 +1LvUP!
HP:400 → 650
MP:1500 → 1660
筋力:60 → 88
耐久:55 → 75
敏捷:75 → 95
精神:600 → 635
魔力:『表示不能』
知力:800 → 840
「……やっぱ、増え方がおかしいわ」
流石のチートだ、成長率が違いますよ。
早熟型の成長タイプだったら納得の伸び幅もあるのだが、明らかにHPの伸びがおかしい。成長率強化の恩恵は伊達ではないらしい。
スキルに関しては増えたり変化したりしているところは無いので、割愛する。
「それに、魔力だけは『表示不能』のままかよ」
レベルが上がって数値が動けば、少しは変化があるだろうと思っていただけに残念だ。
ただ、ちゃんと「加算」されている感覚があるから、魔力の数値は元から0だという事はなさそうである。
ならば、色々と試行錯誤をしたいところだ。
せっかく、スキルに【適性魔術・全】があるのだから、魔法は使ってみたい。独学で覚えるのも面白そうだが、可能ならちゃんとした師に教えを請いたい。武器ももちろんそうだ。
後は、元の世界の知識――【異世界の知識】を活用して、新しい技能も身に付けたい。
これからの冒険者生活に使えそうなものが【異世界の知識】にはたくさん存在しているのだから、これは優先的に行いたい。
「そのためにも、まずは……だ」
依頼書の写しを開き、納品に必要な個数を確認する。
メニューに出ている現在の時刻は、昼にはまだまだ早い。
サーチマップをグッと拡大させてみると、敵を示す赤い光点が少しずつ広範囲に表示され始める。町から遠く離れていかなければ、討伐出来ない魔物に襲われる、なんて不測の事態に出会う事も無いだろう。
最後に、初期装備の短剣を見る。
刃こぼれはしていないが、いつまでもこの剣一本でやっていけるはずも無い。
出来るだけ早い内に新しい武器も必要だ。
「レべリングと資金集めをしないとな」
やるべき事が明確と成った。
ならば、と敵に向かって走り出す。
作業感があったとしても、行う目的とその理由がちゃんと決まっていれば苦痛ではない。
その証拠に――俺の口元は、楽しそうにつり上がっていたのだから。
「……っと。このくらいでいいか?」
数匹のスライムを仕留め、ドロップされたスライムゼリーを回収する。
持って来ていた道具袋が一杯になるほどの収穫に、メニューの時計機能は昼前を指している。
フィオとの約束もあるし、納品ついでに戻る頃合だろう。
「レベルもそれなりに上がったし、何か閃けるかねぇ」
町の方向に足を向けながら、俺はステータスを開いた。
チートで経験値も成長率も増加しているのだから、こうなるのは自明之理だったのかもしれないが。
名前:ムミョウ・ナナキ
種族:人間・男
職業:なし
年齢:15歳
Lv.8
HP:1350
MP:2170
筋力:146
耐久:106
敏捷:165
精神:876
魔力:『表示不能』
知力:1380
やはりというかなんというか、チートの恐ろしさを身を持って体験したと言える代物になっていた訳である。
「……お前のような低レベルの冒険者がいるか、って感じだよな。どうすりゃいいんだ、コレ」
――でしたら、私の出番ですねッ!
どうしようか、と悩んでいた所にエルクゥからの通信が飛び込んでくる。
この神様はタイミングが良いというか、割り込む機会を狙っているんじゃないかと思うくらいに間が良いよな、本当に。
「あー……エルクゥ、何か良い手でもあるのか?」
――お任せくださいってね。えーと、これをちょちょいと追加してやれば……っと。
また新しいスキルでも追加されるのか。
とりあえず、変な厄介事に巻き込まれずに済むんであればもうどうでもいいや、という諦めの境地に達した俺としては、スキルをあれやこれやと付け足される事に対して気にならなくなってしまっている。
それでいいのか、とは自分でも思うのだが、
(何だかんだで、エルクゥのやり方に順応しちまってるよなぁ、俺)
ほんの少し、どんなスキルを付け足されるんだろうか、と期待している自分もいるのは否定しない。
まぁ、とんでもないスキルを付け足された時は断固として拒否するし、謁見の時にぶん殴るだけだが。
――はいっ! 新しいスキルを足しましたのでこれで大丈夫なはずですよ!
ピコン、とスキル情報の更新がアナウンスされたので、俺はメニューを開いて新しく増えたスキルを確認する。
・スキル・New!
―【情報隠蔽】―
自身にとって不利益となる情報を他人から隠す事が可能となり、偽りの情報を表示する事で欺く事も出来る。
このスキルは常時発動し、所持者の意思で部分的に隠蔽を解除する事も出来る。
「……おぉ。俺が今欲しいと思ってたスキルだ」
――これなら、ナナキさんの高過ぎるステータスも、謎なスキルのアレコレも隠せますからね!
確かに、こういうスキルは転移するまでは考え付かなかった。
そして、この【情報隠蔽】を手に入れた事によってステータスにも変化が起きていた。
名前:ムミョウ・ナナキ
種族:人間・男
職業:なし
年齢:15歳
Lv.8
HP:350(1350)
MP:170(2170)
筋力:46(146)
耐久:38(106)
敏捷:62(165)
精神:81(876)
魔力:105(『表示不能』)
知力:106(1380)
*()は隠蔽された本来のステータス
「……魔力に数値が付いた」
――隠蔽用についた、偽りの数値ですけどね。
「それでも、表示不能よりはずっとマシだよ」
実態が分からなかった数値が、嘘だとはいえ『表記されている』事が普通に嬉しいのだ。
嬉し過ぎて、地味に泣きそうだ。
「……ありがとう、エルクゥ。今回ばかりは、普通に感謝できるわ」
――それって、普段は迷惑してたって事ですかー?
「事前に相談してくれれば文句はいわねーよ」
勝手にスキルを追加されてたり仕様を変更されていたりするのが、問題なのだ。
俺だって、先に相談なり連絡なりしてくれるのであれば、ここまで文句を言ったりしないのだが。
「でも、いつもありがとうな。少しは、この世界で生きてくのが楽しく思えてきたよ」
これは本音だ。
エルクゥのチート祭りに感化されて、色々な意味で考え込むのを放棄したからだと言えばいいのかもしれない。
少なくとも、楽しもう、という気持ちが湧いたのは確かなのだから。
――そうですか! なら、私も頑張っちゃいますからね!
「いや、お前は頑張らなくていいから」
――えーっ!?
更にチートだらけにして俺をどうするつもりだ、こいつは。
神託として文句を言いまくる創造神様のお言葉を右から左に受け流して、俺はそんな事を思いながらも町の入口へと足を急がせたのだった。




