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7 討伐、成長、そして憂鬱

「おはようございます、フィオさん」


「はい、おはようございますナナキさん。よく眠れましたか?」


「それはもう。昨日は色々あったので自分でも思っていた以上に疲れてたらしく、ぐっすりと」



 翌朝、俺は冒険の準備をしながらシスターと会話をしていた。

 フィオというのはシスターの名前で、昨日の食事の後に「良ければ名前で呼んで下さい」と頼まれたためにそう呼ぶ事にしているのでそれ以上の意味は無い。

 昨日の彼女の言葉を考えると、同じ家で生活するのに他人行儀なのはどうなんですか、という事だからだと思うけど。



「それで、今日はどちらへ?」


「ギルドで討伐依頼を受けて、今の自分の力を見極めようかと。昼頃とは一度戻りますよ」


「そうですか。でしたら、怪我に気をつけて下さいね?」


「はい、いってきます」



 礼拝堂で見送りをしてもらい、俺はその足でギルドに。

 自分が出来るレベルの討伐依頼をサッと確認して、メモ……を取るにもまだ文字を習っていないのだから、職員の人に頼んで写しを書いてもらった。本当は書けるけど。

 それを道具袋に入れて、次に向かったのは町に入った時に通った屯所。



「お、ギルドカード……という事は冒険者登録したんだね?」


「はい、色々と教えてくれてありがとうございます」


「冒険者となったのなら、全てが自己責任だ。お前はまだ若い、無理はするなよ」


「無理をするつもりなんて無いですよ。手に負えなさそうなら尻尾巻いて逃げます」


「……フッ、賢いな。長生きするぞ、お前は」



 そんな風に衛兵の人達と少しだけ会話を交わして、町の外へ。


 視界一杯に広がる大地や自然を目にすると、昨日以上に「異世界に来たんだ」という実感を覚える。

 その実感もいつかは日常と化して、ウィルマキアが自分の世界だと思う日が来るんだろうか。


 それは分からない。


 唯一つ、言える事があるとするのならば、それは「今日を生きるために今やるべき事をする」というシンプルな答えだけだ。



「……さて、と」



 昨日は人のいる場所を探して歩いていたが、今日は逆に、敵のいる場所を探して歩く。

 今日を生きるために、今やるべき事のために。



「討伐対象を確認するか」



 依頼書の写しを開き、頭に叩き込まれている知識と刷り合わせる。


 昨日も遭遇した、スライム。

 ファンタジー物では定番の敵キャラだといえる、ゴブリン。

 動きは遅いが数が集まると厄介な、グリーンキャタピラー。


 このイシュマの町付近にいる魔物で、今の俺が戦えるのはこの辺りだ。

 もちろん、討伐によるアイテムやどの辺りを好んで棲んでいるかも、完全適応によって得た知識で把握している。



「……ん?」



 辺りを見回していると、サーチマップにおかしな動きが見えた。

 自分が立っているのは、サーチマップの中心だ。そこから円状にソナーのような感じで探知がかけられているんだが……その探知に、のそのそと動く「赤い光点」が引っかかっているのだ。


 確かめようとスキルを確認すると、案の定である。




 ・スキル・New!


 ―【敵性情報解析】―

  サーチマップ上に敵となる存在の位置、情報などを表示させる。このスキルは常時発動する。




 要は、エネミーサーチである。


 いつの間にこんなものを付けてくれたのだろうか、あの女神は。

 俺が寝ている間にだろうか、だとしたら暇な事で。


 しかし、今のこの状況ではありがたいと言える。



「……よし」



 短剣を引き抜いて構える。

 経緯はどうあれ、敵の位置を知る事が出来るし、探している相手でなければ逃げ出せばいいのだ。活用しない手は無いだろう。


 足音を殺し、注意深く近付く。

 勝負は一瞬だ。二の太刀要らずの剣術などではないが、このステータスなら有利に戦えると思う。


 それでも、と注意深く進む。すると……



「……いたな」



 こちらに背を向けたような形で、グリーンキャタピラーがうろついている。

 相手からはこちらの姿が見えていない。何をしているのかは分からないが、それはこっちの知った事ではない。


 相手の動きを注意深く観察して……動きが止まった瞬間を、狙う!



(――今だ!)



 音を立てないように走り込み、周りに敵がいないと油断しているキャタピラーに飛び掛る。

 俺の存在に気付いたキャタピラーが振り向いて糸を吐こうと身構えるが、もう遅い。



「――ラァッ!」



 逆手に握った短剣を、振り向いたキャタピラーの頭に飛び掛った勢いのままに振り下ろした。

 ずぶり、と肉にめり込んだ感触を感じている暇も無く、そのまま突っ切るようにして振り抜ける。


 敵に躊躇はするな。

 やるなら、徹底的にやれ。


 まさか、元の世界での考え方が活きるとは思わなかったけどな。



「……流石に、開きにされれば死ぬだろ」



 振り返ると、体長が50cm程度もある大きな芋虫が、頭から胴体までを大きく切り開かれてビクビクと痙攣していた。これでまだ生きているとしたら、どんな化け物なのだろうかと思うがそれは無いらしい。

 飛び掛った時に少しだけ服が汚れてしまったが、こんなものは後で水で洗い流せばいいのだから放っておく。


 そして、痙攣が止んで完全に動きが止まると、キャタピラーの身体が淡い光を放って宝箱へと姿を変える。


 開けると、討伐証明でもあるアイテムの「芋虫の糸」が出て来た。

 ……既に糸として精製されていてすぐに使えるような状態になっているのは、もう考えない事にした。



「……お」



 唐突に頭の中にファンファーレのような音楽が鳴り響いた。

 こういうのは「お約束」の展開らしい。


 確かに、昨日はあれだけスライムを倒したというのにレベルが上がらなかったのは疑問に思っていたけど。



「経験値の増え方が悪かったのか?」



 そう考えるが、転移した時につけられていたチートスキルを思い出して、それはないな、と断言する。

 たまたま、レベルアップする直前で町に到着しただけなのだろう。



「……あぁ」



 そして、チートスキルの内容も思い出して、知らず知らずの内に気分が憂鬱になっていた。


 スキルの成長率強化。

 異世界適応による効果の増強。

 加えて、称号による効果の増強その2。


 どう考えても普通の増え方ではありません、本当にありがとうございました。



「本当、エルクゥは俺に何をさせたいんだ……」



 その場で蹲りたくなる衝動を堪えて、俺は頭に響くファンファーレをどこか他人事のように聞き流していた。


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