表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巨怪  作者: 佐竹
8/15

二の一 電話

 住家と全財産を一度に失った二人の男は、都合良く女の家に上がり込んだ。

「そっちの部屋、二人で好きに使っていいから」

 ヒロミが鍵付きのドアをさして言った。

 ヒロミの部屋は、いわゆるルームシェア用のアパートだダイニングから二つの個室と玄関へのドアがある。なんでも、ルームメイトが出ていってしまい、新たなルームメイトを探していたところらしい。

 当然、大石と深水も始めは断っていたが、二人ともツテも金も無いので、最後にはヒロミの好意を受けることにした。

「風呂とか食事とか細かいことはあとで考えよう。とりあえず、どうする?」

 ヒロミの質問には俺が答えた。深水はさっきからコーヒーを啜りながら何かを考えている。

「今月のバイト代が入ったら直ぐに出ていくよ」

「そうじゃないでしょ? もう少しで死ぬところだよ? オベリスクには秘密があるし、それを知りかけた私たちはずっと監視されるよ?」

 ヒロミの言っていることは正しい。確かにやばい。だがどこか、楽しそうに、興奮しているように見える。横を見ると、深水はコーヒーカップを凝視している。

「深水さん、何考えてんの?」

「いつ爆弾を仕掛けたのかな? 俺が部屋を出てたのは取材を受けてたとき一回だけだし、その時も部屋の前にいたのに……」

「きっとその時にベランダから入って仕掛けたんだよ!」

 ヒロミは得意げに言うが、深水は顔を曇らせたままだ。

「だとすればタイミングが良すぎないか? いつ取材が俺の部屋でってなりかねないのに……」

 深水とヒロミは黙ってしまった。

「それに、爆発の瞬間も取材の予定時間だったんですよね? だけど遅刻していた……」

 大石の言葉に、二人は目を丸くする。

「まさか……全部やつらが仕組んだ……?」

 深水は搾り出すように呟く。

「深水さん、取材してきたテレビ局ってどこですか?」

 ヒロミは焦った表情で早口に聞く。

「どこだったかな? あんまり聞いたことがないとこだったけど……。駄目だ。二つとも思い出せない」

 ヒロミは大きく溜息をつく。

「ヒロ。テレビ点けていいか?」

「……え? あ、いいよ」

 大石の問いに一拍子遅れてヒロミは答えた。

 ほとんどのチャンネルでオベリスクの特番をやっている。しかし深水の取材はどこも放送していない。それどころか、全ての番組が遠くからのオベリスクの映像を流すだけで、現地近辺の撮影が全くない。まるで、当局に封鎖された事件、事故の現場を遠目に取材しているかのようだ。

「あれは偽物だった?」

 ヒロミの呟きに大石が答える。

「みたいだな。俺の携帯番号も知ってたし、もしかしたらここも危ないかもな」

「あてはないんだろ?」

 深水が大石に聞く。

「ない。深水さんもでしょ?」

「ないな……」

 二人は完全に黙ってしまった。

「うちに来る?」

 ヒロミが意を決したように言った。

 大石は眉間にしわを寄せ、怪訝そうに聞き返す。

「うちって、ここだろ?」

「そうじゃなくて、実家」

「流石にそれはまずいだろ」

「まだそんなこと言って。深水さん、今はそれどころじゃないでしょ?」

 本当に今はどういう状況なんだろうと、大石は何となく考え、思いついた質問を何となく聞いた。

「どこなんだ?」

「赤坂……」

 深水が大袈裟に驚く。

「すごいとこだな! 金持ちなんだ?」

「……うん、まあ。本当は喧嘩して家出てきたから、帰りづらいんだけど、そうも言ってらんないし……」

 大石も感心して言う。

「だからルームメイト無しでこんな部屋住めるのか」

 ヒロミはばつが悪そうに答えた。

「うん、まあ。お祖父ちゃんに相談したら何とかしてやるって……」

「いや、でもなあ……」

 深水はまだ渋っている。それはそうだ。危なかったとはいえ、ヒロミ自身は安全かも知れないのだ。大石もそこまで巻き込んでしまうのに抵抗を感じていた。

 何の前触れもなく、流行りの歌手の歌声がダイニングに響く。ヒロミは慌てて電話に出た。

「あ、お祖父ちゃん? ちょうどいいや。ちょっと相談があったの……え? テレビ? ……大石、ちょっとテレビ点けて。5チャン」

 大石がテレビを点けると、自分のアパートの火事のニュースをやっていた。相変わらず遠目からの撮影だ。

『……繰り返します。警察は、このアパート住人の、大石嵩、深水千尋、そして大石と同じ大学に通う宇高浩美を放火と殺人未遂の容疑で指名手配しました。なお……』

テレビを、信じられないという顔で凝視したまま、ヒロミは力無く電話の相手に答える。

「……うん。見てる。……わかった。直ぐに行く」

 ヒロミが電話切った、まさにその瞬間だった。テレビアナウンサーの声がむなしく響いているダイニングに、インターホンがこだました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ