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巨怪  作者: 佐竹
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三の一 昔之夢

 大石は夢を見ていた。昔から時々見る夢だ。

 自分の手の何倍もあるような大きな手が、大石の手を引いて行く。見上げると、そのあまりにも大きな人が、まるで山であるかのように錯覚する。大きな人は大石を見ようともしない。

 大石は顔を覗きこもうとする。しかし引きずられないようについていくのがやっとで、とても正面に回り込むなど出来なかった。

 だが、そんなことをするまでもなく、本当はその人が誰なのかわかっていた。これは父親だ。理解等の思考によってわかった訳ではない。ただ何となく――しかし確信を持って――父親であると、わかっていた。

 大石はただ父親の顔が見たかっただけだ。

 歩き続ける今はなき父親。幼い頃に亡くなった父親のことはあまり覚えていない。こうして時々夢に現れる父親のイメージは、ただただ大きく、顔や他の細かなことははっきりしない。

 父親が向かっているのは、大きな門だった。20メートルはあるように見える。その頂点には、人間など一飲みにしてしまいそうな大口を開けた獅子の像がある。

 半分覚醒した頭で大石は理解した。これは夢であり、父親との唯一の思い出である動物園に行った時の記憶だ。

 手を引かれて門をくぐる。中には、まるで高層ビルのような檻が並んでいる。

 大石は当時感じたことを、今もありありと感じた。大きな大きな父親の、そのまた何倍もあるような獣たちが、巨大な檻の中で、唸り、吠え、歩き、跳びはねている。大石は恐怖と感動がごちゃまぜになり、泣き出した。

 泣きながら動物園の奥へと進んでいく。いつの間にかビル群のごとき檻が姿を消した。振り向いても、何も見えない。正確に言えば、ただ漠とした何もない地と空が広がっているだけだ。

 正面に向き直り、大石は気付いた。今までの檻を遥かに上回る大きさの、山のような高さの柵に向かって歩いている。いつの間にかすぐ側まで来ていたが、大石はあと数歩、どうしても柵に近づけなかった。柵の中には千尋を思わせるような深い堀があり、獣はその先に悠然と立っている。

 柵の高さを越える程の、正に山という形容が相応しい巨大な象だ。

 象は大石を見もせず、微動だにしない。大石の存在に興味がなく、また気付いてすらいないだろう。微かな動きも見せない象は、一見生きていないようにも見える。

 ただ大石は、象の呼吸によって起こる大気のうねりを感じ、生き物が発する独特の存在感を確かに感じ取っていた。

 同じ空間、同じ時間にいながら、大石と象は全く違う世界にいた。

 象は大石から何の影響も受けず、存在にすら気がつかない。大石などいないも同然だった。

 大石は象の存在にすら圧倒され、象がそこにただ居るだけで大石はあらゆる影響を受けた。それは自然現象のようなものだった。

 いつの間にか、父親も柵も消え、あるのは大石と象だけになった。自分の意思とは関係なく、大石は象から目を離せなくなり、見つめ続けた。

 一瞬。本当に瞬きをするほどの時間。気がつくと象は姿を消し、そこにはオベリスクが立っていた。

 象と同じく存在感を放ち、ただあるだけで大石に影響する黒い塔は、徐々に高く、太くなっていった。

 大石は踵を返し、走り出した。夢だからだろう。後で見えないはずのオベリスクが迫ってきているのがわかった。どんどん、どんどん大きくなる。もはやただ一面の壁となり、大石の背に肉薄している。

 壁が確かにぶつかる感触を味わった。それはとても夢とは思えなかった。


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