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千鳥鉄の女  作者: カキヒト・シラズ
弐 日光社参の惨劇
6/11

六の巻

 日本橋の日光街道に奇妙な行列があった。

 四人の駕籠持ちが、地味な駕籠を担いでいる。

 駕籠の前には二人の侍が歩いている。

 駕籠の後方には道具箱を持った茶坊主が三人。

 しんがりには柿色の忍者装束に身をまとった女。

 二人の侍は十兵衛と宗冬だった。

 しんがりの忍者はお蘭だった。

 お蘭はこの前の能面党との戦いで顔を隠す頭巾を失った。

 おかっぱ髪の額に鉢金入り鉢巻をしめ、黒い六尺手ぬぐいを巻いて口元を隠している。

 こちらが本物の日光社参の大名行列だった。

 江戸を抜けた後、途中、日光御成街道を歩いて来た行列と合流する手はずになっていた。 

「兄上」宗冬が言う。「これなら能面党に気づかれますまい」

「油断するな」十兵衛が言う。「やつらはわれらが思っているより手強い」

 能面党の五人の忍者が一行を襲撃したのは、それから間もなくだった。

 十兵衛は刀を抜いて駕籠の前に立ちはだかりる。

 奇声を発して向かってきた先頭の忍者に、十兵衛は大上段から刀を振り下ろす。

 能面が二つに割れ、額から血を吹き出しながら忍者が息絶える。

 血で汚れ、顔がよく見えない。

 十兵衛は刀を振り、血糊を落とす。

 駕籠の後方では、お蘭は懐から千鳥鉄を取り出し、分銅のついた鎖を振り回す。

 茶坊主を一人斬った忍者の背後から首筋を狙い、分銅を投げる。

 千鳥型の分銅の先は鋭利な刃が付いている。

 鮮血が飛び散り、忍者は大の字に倒れる。

 一方、宗冬は「御免」と言いながら駕籠の御簾を上げる。

 将軍、家光の茫然とした顔。体が小刻みに震えている。

「上様、お逃げください」

 宗冬は将軍の手を引き、後方へ逃げる。

 すると一人の忍者が先回りして、宗冬の行く手をふさぐ。

 宗冬は抜刀し、忍者と二合切り結んだ後、相手を斬る。

 その間、十兵衛は槍を持った背の高い忍者を倒すのにてこずっている。

「助けてくれ」

 宗冬が振り向くと、家光の首は忍者の刀で胴体から切断され、血を吹き出しながら宙を舞う。

「上様!」

 首のない将軍は数歩その場を歩いた後、おもむろに崩れ落ちる。

 家光を斬った忍者は家光の首を拾い、脇に抱えて走り去る。

 だが、お蘭がそうはさせまいと忍者の前に立ちふさがる。

「そこをどけ」忍者が言う。

「いやだ」お蘭が言う。

 お蘭は千鳥鉄の鎖を振り回す。

 ブゥゥゥーンというかすかな音が響く。

 千鳥型の分銅を投げると、忍者の刀に鎖が巻きつく。

 お蘭が「エイ」と叫んで鎖を引く。

 刀は忍者の手を離れ、刀を巻き付けたまま鎖は宙を舞って、お蘭のもとに戻ってくる。

 忍者は家光の首を抱えたまま、一瞬、茫然となる。

 お蘭は千鳥鉄ごと地面に投げ捨て、獣のように敏捷に飛び上がると、回し蹴りを忍者の側頭部に決める。

 忍者は仰向けに倒れ、泡を吹いて失神する。

 地面に家光の首が転がる。

 背の高い忍者をようやく仕留めた十兵衛が走り込んでくる。

「遅かったか・・」

 落胆した十兵衛に、お蘭は声をかけることも顔を合わせることもできない。

 十兵衛は失神している忍者の能面を取る。

 中年の男だが、顔に薄く白粉を塗り、唇に赤い紅をさしている。

 遠目には女にも見えなくもない。

 十兵衛は地面にしゃがむと、首だけになった家光の顔に能面を被せ、「南無・・」と唱えて合掌する。

「兄上」宗冬が言う。「こいつまだ生きてますよ」

 宗冬は茶坊主に命じて道具箱から縄を出させ、失神した忍者の手足を縛る。


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