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千鳥鉄の女  作者: カキヒト・シラズ
弐 日光社参の惨劇
5/11

五の巻

「そのほう、図が高い!」友矩が怒鳴る。「もそっと頭を下げよ」

「ははあ」

 町人は土下座の姿勢から、怯えて頭を下げる。

 日光御成街道は、大名行列とそれを見物せんとする野次馬でかまびすしい。

 羽織袴で馬に乗った友矩の手前には、三代将軍、徳川家光の載った駕籠がある。

 駕籠の近くにいる見物人に土下座を強要するのは、将軍への礼儀よりも保安上の理由があった。

 曲者が見物人に紛れ込んでいるかも知れぬ。

 曲者にしてみれば、土下座の姿勢からでは、立った状態に比べ、籠を襲撃するのは難しい。

 将軍が春に日光東照宮を参拝する行事を日光社参と呼ぶ。

 日光社参の大名行列は参勤交代のそれより規模が大きい。

 日光御成街道を北に進み、岩槻城で一泊。さらに幸手宿から日光街道に入り、古河城で一泊。最後に宇都宮城で一泊し、四日目で日光へ至る。日光で連泊した後、復路も往路を逆に巡るので、合計八泊九日の長旅となる。

 武士を乗せた騎馬百騎。鉄砲や弓で武装した足軽八百人。その他、道具箱や槍持ちの中間、近習、茶坊主、医師など千五百人余が、駕籠に乗った将軍と同行する。

 友矩は行列の最後尾、駕籠の後方を警護していた。

 自分の後ろには数名の槍持ちと押え箱持ちしかいない。


 本郷近辺の街道沿いには蕎麦屋や呉服屋などの民家が並んでいる。

 突然、両脇の民家の屋根から、十数人の黒い影が降ってくる。

 能面をかぶった黒装束の忍者――能面党だ。

 群衆にざわめきが起こる。側にいた野次馬たちは一目散に逃げる。

 茶坊主が背中を忍者の刀に斬られ、「ギャァァァァー」と一声叫んで息絶える。

 籠の周囲にいた近習たちは抜刀し、能面党の忍者たちに応戦する。

「槍じゃ」友矩が言う。「槍を貸せ」

 槍持ちから槍を手渡されると、友矩は近くにいた忍者の胸に槍を刺す。

 忍者は胸から血を吹き出しながら数歩後ずさり、ややあって仰向けに倒れる。

 倒れるとき能面が顔からはずれる。

 髭面の若者だった。

 忍者の一人が瓢箪に入れた油を駕籠にかける。

 別の忍者が火のついた松明を籠めがけて投げつける。

 駕籠に火がつく。

「上様!」友矩が叫ぶ。「お逃げください」 

 駕籠はたちまち火だるまになる。

 すると駕籠から一人の侍が飛び出す。

 侍は将軍、徳川家光ではない。

 兵法指南役にして友矩の父、柳生宗矩だ。

「父上・・・・」友矩がつぶやく。

 宗矩は抜刀すると機敏な身のこなしで、側にいた三人の忍者をたちまち斬り捨てる。

 松明を持っていた忍者が背中の刀を抜いて宗矩に襲い掛かろうとすると、そうはさせまいと友矩が背後から忍者の背中を槍で突く。

 忍者は燃えている駕籠の上にうつ伏せに倒れる。

 火が燃え移り、忍者の全身が炎に包まれる。

 他の忍者たちは駕籠に将軍が乗っていないことに気づくと、急いでその場を後にする。


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