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カニのお礼


 その日、王族は異世界のカニでフルコースを晩餐としたらしい。

 とはいえ消費者は王様と王子二人だという話だ。

 僕も剥かれたカニを1杯は持ち帰ったし、調理場でも1杯が味見扱いになったけど、3人で残り18杯も食べたの?

 うわぁ、食えても1人2杯くらいまでだろ…。1人6杯はカニが夢に出てしまうレベルだ。

 で、でも自分でプレゼントしておきながら、ドン引きするのは悪いだろうな。

 彼らが消費してくれなければ、それはそのまま自身に降りかかる災厄となったのだから。

 しかし聞いたことはなかったが、ディーのおかーさんというのはどうなっているのだろう。

 一切話題に出てこないし、王様に謁見したときも見かけることはなかった。

 離婚してても亡くなっててもアレな話題なので聞きづらい。

 大穴は、意外と武人で前線で戦っている説なのであるが。

「父が存外に気に入っていた。特に甲羅焼きを」

「あ、やってみたんだ。気に入ってくれて良かったよ」

 こんなもん食わせやがってとか言われたら不敬罪的ピンチかもしれないもんね。

 というか、僕と違ってディーはあんまり異世界食材に抵抗ないよね。

 真面目な顔して「カニは顔が怖いので食えなかった」とか言われるよりはいいけれども。

 僕なんて未だに牛鬼の全貌を知るのが怖いよ。

 肉の出所とか食材の名前とか、聞かずに積極的に無視して行こうと思ってる。

「それで、兄がお返しに何かこちらの特産も贈ってはどうかと言い出していてな」

「あ、いらないです」

 脊髄反射で返すが、ディーは全く動じない。

 どうせお前のところの特産なんか、スライムゼリーとかだろ。食わんぞ。

 舐め切った僕の脳内を読み取ったわけでもないだろうに、やれやれと言うように肩を竦められた。

「僕が大量の食べ物があって困ってるからって、ディーんちに押し付けたんだよ。そのお返しを貰っても困るよ」

 貰ってくれてありがとうと、こちらが言う立場なのだ。

 でなくば燃えるゴミの日までに、うちが腐海に沈んだ可能性は高い。

「ふむ。しかし、またいつかカニが欲しいらしいので対価として何かは出すようだぞ」

「馬ッ鹿言うな、あの質と量でなんて自腹では買ってはやれないぞ!」

 漫画何冊分になると思っているのか。

 お中元なんて上司にも送ってないっつうの。

「大丈夫だ、満喫したので次はあの量でなくとも。後半戦はきつかったからな」

 あ、やっぱりキツかったんですね。

 一応、余りそうなら一部取っといて後でカニチャーハンにでもすればって料理人チームには伝えたんだけど。

 それでもまた食べたいと思わせたという、カニの魔力か。

 …僕は決してタラバやズワイの話をしたりしないぞ。選択肢増やしてあげたりしない。

「それで、マサヒロはどんな食材が欲しいのだ? 肉か、野菜か?」

「要らないって。調理するの面倒だし」

 特産品どこ行った。なんで欲しいものくれようとしてる。

 ハイパーゴリ押しタイムの始まりである。

 どうしたら遠慮ではないことをご理解いただけるのか。

 ディーがどうしても退かないので、これは恐らく家族会議で決まってしまったことなのだろう。

 ならば、全力で和解案を考えねばならない。

 本当に要らないんだってのに。

 全く、金のあるヤツはすぐ品物を押し付ければいいと思ってるんだから困るよ。

 常識人のふりしながら、食ったことない人にカニを大量に押し付けた奴が通りますよ。

「マサヒロの食事の好みの傾向は肉だろう。それも焼いたものだ」

 肉か魚かと言われれば、確かに僕は肉派だ。

 勝ち誇ったように言うディーだが、そもそもベジタリアンでもなければ、焼いた肉が嫌いだという人をあまり僕は見たことがない。

 少なくとも生肉よりは一般人の守備範囲なんじゃないかな。

 あと、圧倒的に調理が楽。

「ディー。僕、肉は要らないからね」

「なぜだ」

 そっちは普通に魔物の肉とか食ってるからだよ。

 何を食わされるかわかんなくて怖いよ。

「肉も野菜もスーパーで買えるし、困ってない。むしろ勝手に冷蔵庫内の貯蔵を増やされるほうが困る」

 わいわいと互いの希望をぶつけ合った結果、僕らの本題は明らかに脱線した。

 僕はしばらく、ディーんちで晩御飯を用意してもらうことになったのである。

 楽だし節約にもなるけど、原材料不明だし他人巻き込むのもなんか悪い。

 それから、なんか知らないうちに高級食材をひっそりぶち込んできて清算してそうで怖い。

「普段マサヒロが自分で作るのが面倒くさい、そちらの料理でもいいのだぞ」

 そう言われると、カレーも自分で作らなかった僕には魅力的な提案に思えてきたぞ。


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