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謁見の間は理不尽の応酬。



 スーツ着て、革靴履いて、謁見の間。(字余り)

 僕は理不尽な気持ちで玉座を見つめていた。

「…まあ、良い。異世界人なのだからな」

 面白そうに目を細めた金髪碧眼その三。聞かなくてもわかる。顔立ちが似ている。ディーとケー王子のパパさんだ。

 若干空気が呆れムードなのは、僕が跪かなかったせいらしい。言ってよ。諸注意は最初に言ってよ。僕にエアリーディングの技能はないよ。せめて他の人をつけて真似できるようにしておいてよ。知らないから、礼服着てきたのに膝付こうなんて思わないし、言われなきゃ異国のマナーなんてわからないよ…。

 ちらりと辺りを見渡せば、王子達は王様から少し離れたところで並んでいる。ヒューゼルトと隊長も控えている。あと数人立っているいい服は知らない顔だ。その側にも近衛制服の兵士が数人いる。マロックじーさんは不在ですか。用事は特にないけど。

「申し訳ありません、王様。僕の国には王様というものはいないですし、僕は平民で田舎育ちなのでマナーもなっておりません。至らぬ部分が多すぎるものですから、寛大な王子様達にはお許しをいただいておりました。王様にもご寛恕いただけたら幸いです」

 にっこりと笑って言ってみる。周囲がどよめいた。あれ、また失敗した?

 ディーは面白そうな目で見ている。片頬を膨らませてそちらを睨むと、堪えきれないように破顔した。

「ははは、良いだろう。王子は寛大で余は狭量だと異世界に伝わるのも困りものだ。それにしても、王がいないとはどういうことだ? 意味がわからないのだが」

 異世界には王国しかないのかな…。あんまり興味ないや、地理も歴史も政治も経済も社会科は全般苦手です。

 …あ、周りに睨まれている。王がいないことについて答えないといけないのか。苦手なのに…。

「えっと…一応、国家の象徴として天皇陛下がいるけど、象徴だから政治はしなくて。うぅん、まず、うちの国は前に戦争で大負けしていて。戦勝国からもう天皇陛下崇めちゃダメって禁止されて…。処刑は国民が手に負えなくなるから見逃されたという噂です。とはいえ他国に戦後の教育や常識を大きく塗り替えられましたし、国民は己の国の象徴とされた人物が何をしているのかも知らない世代が多いのです。知らなくても、政治は別の人が行っているので、国は回っています」

 むしろ政治家自体もどこから来てどこへ行くのか全くわからない。

 ハッとして途中から言葉を直そうと気をつけたつもりだけど、正しい言葉遣いを使用しつつ僕も知らない天皇について語るなんてのは無理そうだ。知らない世代が多いと言ってみたけど、僕も含まれていることを明確に意思表示したほうが良かっただろうか。

 ん? でも皇族は外国の偉い人と交流してた気もするぞ。それって何て言うの? 外遊…かな、外交かな。でも交渉してるわけじゃない気もする。え、あれ、なんて言うの?

 ダメだ、一時「年末年始に天皇陛下は祈ってるよ」みたいなTV番組を見たから、何してるかと問われたら「多分、祈ってます」と答えるしかない。

 僕はものすごく不敬なんだなということは、わかる。かといって知識がないので皇族に対する印象やらが変化するわけでもないし…変に崇めるのもやたらと貶すのも、馴染めない。

 よし、諦めよう。無知は恥だが、恥では死なない。

「…それでは、今は属国だということか? 他国の者が政治を指示していると…」

 ぱちくりさせた目で王様が言う。そんな顔をするとディーにとても似ているので、なんか笑える。親しみ湧いた。

「一応属国ではないですが、まぁ…他国が随分上から目線ではありますね。すぐ財布扱いされるし。僕の国は負けたあと軍隊も持てず国民も平和ボケしてますから、余計に扱いやすそうに見えるんでしょうね」

 戦争を知らない世代の僕としては、他国がうるせぇ、みたいに感じるところがあります。うるさいから鎖国してもいいんじゃないのかな。もっと国内を何とかしてから他国と交流すればいいよ。あ、いや、別に僕が引きこもり属性だからってわけでは…。

「軍もないのか!」

「あ。攻められたら守るというものはあるにはあります。でも、今のところ軍ではないです。前の戦争では結果的にもう世界vsうちの国みたいになっちゃったので、軍を持つのは許せないらしいです。その後の復興して平和な状態が今なんですが、今後は何もわからないですね」

「…せ…世界と戦争とは…? どういう…ことだ?」

 僕にもわからないよ。というか、いつの間にかまた口調が取り繕えてなかったよ。もういいや。ですますを心がけるから許してくれ。

「いや、結果的にですよ。最終的には…四十七カ国…だったかな、敵対したのが。最後は負けたよって言ってみた後も領土取られる、みたいな感じになってましたね。敵が多すぎるとどうしようもないですから。まぁ、相手の文化レベル見たって元々勝てる戦じゃなかったのに先人達が凄すぎて善戦したようですけど…僕は、うちの国が悪者ですっていう教育を受けてる世代だから、真実はよくわかりません」

 悪の枢軸を教科書で習って強制労働地の跡を見学させられながら、ネットやらでは欧米からの植民地支配解放だのと情報が飛び交って、もはや何が何だかわからない。大戦に関してだけじゃない。歴史上の人物として教科書で教わったのに、今更違う人の肖像かもとか言われたり。社会科って奴は全然何も信用できない。人間は信じたいものを信じる生き物なんだよね、と思って一歩引くことしかできない。

 あと、地理は皆同じに見える。オーストラリアと四国の形も見分けつかない。っていうか四国どころか本当に何もかも見分けつかない。単品で抜き出す意味がわからない。まとめて日本でいいじゃない。どこの農作物の収穫が一番とか本当にどうでもいい。テストに書けなくても、食べれたらいいじゃない。歴史も人の名前が似過ぎてて覚えられない。徳川ナニガシが多すぎて混乱した結果、お犬様しかわからなくなった。家康すら記憶から消えた。

「とにかくです。僕は軍もない平和ボケした国の、田舎の平民ということで、危険性だけはないですから。窓が繋がった時だって、僕は言葉が通じないからこれは無理だなと思って窓を閉めようとしたのに、貴方の息子がこっちの窓までこじ開けたんですよ。僕が怒られる謂れはないです。叱るなら人の窓こじ開けちゃいけませんってディーを叱ってくださいね、お父さんなんですから」

 僕は悪くない。そこだ。僕が強調したいのは。

 言い放った途端に唖然とした周囲と。爆笑した一名。

「ディーエシルトーラ」

 憮然として王様が呼ぶのに「ちょっと待ってください」とまさかのライトな対応を取るディー。呼吸を落ち着け、目元を拭う様に周囲の視線が集中している。僕なら空気重すぎて逃走を図ると思う。意に介さないらしいディーは大物だな。

「…はぁ、申し訳ない。父上、このようにマサヒロは常識外れで大変面白い。しかしながら異世界には魔法もなく、彼自身は恐ろしいほど非力なので危害を加えられる可能性はまずありません。こちらで私が守ってやる必要はあっても、あちらで私自身が危機に陥ることはないでしょう」

「…ふむ」

 失礼だよ、常識外れてないよ。確かに非力だけど恐ろしいほどではないよ。

「王よ、発言を許しください!」

 怒り心頭といった顔の…誰だろうね、この人。見知らぬ人です。僕を睨む目力がすごい。でも怖いかというと、そうでもない。判断に困る人材だな。

「許す」

「このような無礼は異世界人であっても許されません、即刻、処罰すべきです!」

 えぇ~…。面倒な人来ちゃったな。

 僕も負けじと片手を上げた。

「はいっ、王様!」

「何だ」

「王様が最初に寛大だから良いって言いました。この国の民でありながら王様の決定に文句をつける彼こそ処罰対象だと思います!」

「何だと!」

「僕は初めから無理だって言ってるのにマナー訓練も所作の指導もありませんでした。なのに怒られるのは理不尽です。職務怠慢です。この事態が困るなら初めから王様に謁見するための注意事項くらい仕込んでおくべきです。異世界人のそのままが見たいから珍獣のごとくただ御前に出したんでしょう、それを棚に上げて王様の言葉より自分の感情を優先する臣下は良くないと思いますっ」

 僕は空気が読めない社会不適合者ゆえに、かような理不尽には屈さぬ。強者の陰からチクチク敵を切って見せる。

「あと、言いたいこと言っといて何ですけど、痛いのとか怖いのとか嫌なんですよね。危なさそうなんで、もう帰ってもいいですか? 別に僕、呼ばれないとこっちに出て来る予定とかないですから」

 しかし微妙に小心なので保身も図ってみる。スネオポジション、柾宏です。

 ぶふぅ、と音を立てたディーが腹を押さえて俯いている。くふぅ、とそれに隠れた小さい音の出所を探したところ、明らかに頬の内側を噛んでる顔をしたケー王子だった。仲良し兄弟め。



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