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二人とも脱走の常習犯であることが判明した。



 第二王子は世にも稀な力がある。

 古の英雄と同じ、精霊の祝福…×四属性分。

 精霊の祝福自体は、珍しくはあれどそこまでのものではない。田舎の高校でも学校に一人くらいは所持者がいるレベルだ。しかしそれが二属性を併せ持つとなれば希少さはぐんと跳ね上がる。三属性ならばもはや国宝級。四属性ともなれば伝説級の域だった。

 第一王子も決して無能ではなかったが、周囲の人間は第二王子を注視した。

 英雄と同じ要素を持つ王子。なれば第二王子であろうとも、彼こそが次の玉座に相応しい。

「…などという勝手な話を耳にしましてね。噂の元がどこなのか突き止めることは難しいし、いちいち諌めるのも面倒なので、はっきりさせたいと思います」

 齢七つの誕生日に、彼は王に願い出た。

「私には、兄の補佐としてできる限りの教育をしてほしい。どうにも私は他人の心の機微には疎いようなので、民を真に案じる兄と要らぬ諍いを起こさぬためにも、早いうちに住み分けたいと思うのですよ。私の誕生日プレゼントはそれにしてもらえませんか?」

 第二王子の健気な言葉を、表立って批判するものはいなかった。口にすればそれこそ、痛くもない腹を探られかねない。

 危惧された継承位争いは、そうして荒立つことなく幕を閉じた。


「だから私は、弟に対して感謝こそすれ否定的な感情など持っていない。最近では何事にも一歩引いたところから見るようなディーエスが、真っ向から庇ったという異世界人に興味を持っただけなのだよ。すっかり自分を隠すことが板についてしまったと心配していたのだが、元々ディーエスはまどろっこしいことが不得意な子だったのだから」

 にこにこと笑うケー王子に、不機嫌そうなディー。引きつった顔で、そうですかと呟くよりない僕。

 ディーはエリートです、みたいな話になってきたんだけど解せない。彼は僕と同レベルのどうしようもなさを併せ持っているはずなのに、この格差は何なんだ。

 昔話はいいんだけど、一度は仕事に向かったはずの二人が二時間もしないうちに連れ立って戻ってきたのは良くないと思う。ちゃんと働けよ…勤務時間中は好き嫌いを基準に行動してはいけないんだぞ。世の社畜に謝れ。

 そして、どうして僕は金髪碧眼に挟まれているのかな…オセロだったら引っ繰り返っちゃう。金髪にしてカラコン入れてこないといけなくなる。そして完全に黒歴史となる。

「兄上は来賓の対応があるだろう。戻られたほうがいい」

「私だって異世界に興味があるぞ。自分だけうまく世界を繋ぐだなんてずるいじゃないか。私の部屋の窓も繋げてくれ」

「意図して繋がるものではないと…」

 …うん。だから、僕を挟んだ会話やめて。思わず首を竦めてしまう。

 ソファに三人並んで腰掛ける意味もわからなければ、頭上で会話される意味もわからない。まるで僕の背が異様に低いような気になってくるから、早急にやめるんだ。

 間が持たなくて出された紅茶に手を伸ばすと、揃って両側から同じようにテーブルに手が伸びる。また。君らの気が合うのはわかったから、やめなさい、コントが始まる気配しかしないから。何も面白いことは起きていないのに、僕はなぜか既に紅茶を吹きそうになっている。雰囲気負けしてる。

 別に双子じゃなくて、ただの兄弟のはずなんだけれど。まあ、よく似ていらっしゃること。

 少しだけ、お兄ちゃんのほうが穏やかそうに見えるかもしれませんね。

 笑いを噛み殺している僕の様子なんて、彼らはお構いなし。

「あっ、まずいぞ、ディーエス。裏庭を通って戻ろう」

「来たか。ではな。後を頼む」

 さっと二人は立ち上がり、素早いくせに優雅という理不尽な動作を取り入れながら部屋から出て行った。あまりの唐突さに、残された僕が呆然とする。えっ、今、僕に後を頼んで行った?

 二人が出て行ったのとは別な扉から、ノックの音。戦慄する僕の前に、しかし滑り込んだのは隊長だ。二人のカップも素早く片付け、扉を開けに向かう。

 あれ、そういえば隊長、ずっといたんだよね。長いこと壁際で鎧の置物のように立っていたから、なんか存在を忘れてた。

「マロック殿か。どうなされた」

「…ふむ、逃げられたか。やはり二人一緒におられるな…。いやいや、隠し立てせずとも良い、諦めも肝心。ディーエシルトーラ様だけならば目立つ故に捕まえられるが、ケイアシェラト様の探知があるのなら、わしでも追いつくのは無理じゃよ」

 ヒゲをファッサ~と靡かせて、マロックじーさんが歩み寄る。知らない顔じゃないから、片手を振って挨拶した。

「マサヒロ。もしまた王子達が見えたら、こちらへ戻られるように伝えておいておくれ」

「それは構わないけど、今さっき裏庭から戻るって言ってたよ」

「おぉ、ならば安心じゃな。…全く、才能豊かなのは結構なのだが、年寄りを労わってほしいもんじゃよ…」

 言われてみれば若干疲れている様子。二人の王子の脱走に、じーさん一人しか追っ手がつかないって。捕まえる気あるのかな。

 思ったままを口にしてみると、マロックじーさんは苦笑する。

「探せるのが、わしくらいしかおらんのじゃ」

「魔法で探すから?」

「そうじゃな。他にも魔導師はおるが、個人を探す魔法というのが難しくてな。余程条件を絞り込んでやらないと特定ができない。ディーエシルトーラ様は特殊なオーラを纏っておられるゆえ、わしはそれを追っているのじゃが…。兄君のケイアシェラト様がおるとスイスイ逃げていきよる。兄君も少々変わったオーラゆえ、本来なら探すことはできるのじゃが…生憎と魔法の扱いに長けておられてな。己の身を隠蔽できる上に、わしを探知できるのじゃ。居場所がわかろうとも、お二人が一緒ならばまず捕まえられんよ」

 溜息をついて項垂れる様は、ちょっと可哀想にも見える。見えるけれども、ヒゲが。ヒゲがシリアスを壊すのだよ。

 隊長はそうは思わなかったようで、純粋にマロックを労い、お茶を入れてあげている。

 それはいいんだけど…ソファは別に一つじゃないんだから、向かいに座ればいいじゃない。どうしてまた僕の横に並ぶのさ…。

「マサヒロにも用事があったのじゃ、ちょうど良かった」

 編みたい…視界の隅でチラチラするあのヒゲ、三つ編みにしたい…。

「陛下に謁見する際には、もうちょっと良い格好をしてほしいのじゃが正装かそれに近い服はあるか? もし持っていなければ…仕立てる時間はないからの、誰か体型の合う者を探して借りてこねばならんのだよ」

 いっそ固めてみるのはどうだろう。逆モヒカンみたいな形状に。

「マサヒロ。おい、聞いておるのか?」

「あ、うん…えぇと、ふ…服ね。礼服あるから大丈夫」

「そうか。それは良かった」

 思わず答えたけど、スーツって奇異に映ったりしないのかな。最悪、日本男児の正装として着物を着る手もあるけど…一人でも着れるかな…えっらい時間かかりそうだし、どちらにしても着られてる間が半端なさそうだな…。



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