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異国の姫つばさ  作者: 砂糖 桃子
はじまりの月夜
8/10

つかの間の夜

 お十世がいれてくれたお茶を飲み、茶菓子ちゃがしを食べながら縁側えんがわに座って中庭の椿(つばき)を見ているつばさ。

「お十世さん、ありがとう。たすかりました」

「お十世とお呼びください、姫様」

「それじゃあ、わたしのことはつばさって呼んで、お十世」

 屈託(くったく)なく見つめてくるつばさに、お十世は(めん)(くら)ったらしい。

「それでは、つばさ様と呼ばせていただきます」

「敬語もやめない? 」

「それはいけません」

「命令でも? 」

「いけません。十四代目がつけいる(すき)を与えてしまいます」

 月の光りに照らされた椿の木は、つやつやと赤く、ぽってりした花をつけている。

「ねぇ、お十世。十四代目のかぐや姫がいるなら、わたしは必要ないんじゃない? 」

「いいえ。それはちがいます。珠姫は血をえらびます。霊力をもってその妖刀の中の鬼を(おのれ)に従えさせるのです。それができるのは、正当な後継者だけなのです」

「わたし、自信ない……。戦うなんて……」

「姫様。十四代目は、三代目かぐや姫様の従姉妹にあたる、四代目かぐや姫様のご子孫しそん。珠姫には触れることもかないません。しかし十四代目かぐや姫様は、お生まれになったときから十四代目になるためだけに育てられ、生きてこられました。ほんとうであれば、還暦(かんれき)を迎えるまでは後継者に地位となまえを(ゆず)りません。しかし、十四代目は十七歳でその地位となまえをわたさねばならなくなったのです」

「そう、なんだ……」

「ですぎたことを申しました……」

「ううん。教えてくれてありがとう。腹立ってたけど、彼女にしてみれば、わたしのほうが悪者だね」

「そんな……悪者などと……。姫様は輝夜国の希望の光りでございます」

 さぁ、春の夜風は身体を冷やしますから……とお十世はつばさの背中に白い羽織はおりをかけ、寝室へうながした。


 広い部屋の真ん中に布団が()かれている。あまりにも広いので、つばさは心細くなった。

「こんな広い部屋に一人で寝るの怖い……、お十世、一緒に寝ようよ……」

「大丈夫ですよ、青藍様がいらっしゃいますから」

「青藍!? どこに!? 」

「うるせぇ、はやく寝ろ」

 (ふすま)の向こう、となりの部屋から青藍の声がした。

「なんであんたがそこにいるのよ!! 」

「つばさ様、青藍様は護衛(ごえい)として、一晩中お守りしてくださいますよ」

 ほほ笑みながら、お十世は仕事があると言って部屋をでて行った。

「おい、火、消しわすれるなよ」

「わかってるわよ」

つばさは燈台(とうだい)の火をき消す。憎まれ口をたたきながらも、青藍がいてくれて、内心ほっとしていた。

 布団にもぐりこみ、青藍も(だま)ってしまうと、つばさは暗闇の中で急にさみしさがおしよせてきて、涙がこぼれた。帰りたい、帰りたい。つぶやくたびに涙が一粒、また一粒あふれて、(ほほ)透明(とうめい)な筋が走った。

「おい、寝たのか? 」

 青藍の呼びかけに、つばさは嗚咽(おえつ)をぐっと()みこむ。

「寝た」

「なんだ、まためそめそしてたのか」

「してない」

「声が震えてるぞ」

「……」

 つばさは聞こえないふりをしようと、頭の上まで布団を引き上げた。隙間(すきま)から外を見る。障子(しょうじ)()しの月の白い光り。襖が開いて、閉まる音。素足が(たたみ)の上を歩いてくる音。座ろうとしている衣擦(きぬず)れの音。

「よくも毎晩毎晩、そんなに泣けるな、おまえ」

「泣いてない」

 青藍のおおきな手のひらが、布団の中にもぐりこんできて、つばさの頬に触れる。

「濡れてるぞ」

「よだれよ」

「汚ねぇな」

「あっち行って」

 青藍の手が布団のそとへもどって行く。つばさは、引き止めたがっている自分の右手を左手でにぎって(こら)えた。

「はやく寝ろ」

「うるさい」

 そのまま、つばさは目を閉じた。青藍の気配はすぐそばにとどまっている。涙は止まり、眠気がやってきた。青藍の手に、安心したのだった。

 

 




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