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 薄れたようで今でもありありと思い出せるあの「処分」発言に背筋を寒くしていると、少女はフンと強気に鼻を鳴らします。

 この世界はわりと精神年齢が高い子が多いのですが、この子もこの年でなかなか情緒が発達していますね。でも、もうちょっと周りを見てほしいところ。はふんと溜息を吐いて止めようとしますが、彼女はツンと顎を上げます。


「そうやって命令すれば誰でも言うこと聞くと思ったら、」

「セラフィーナ様! お久しぶりでございます、貴女のネヴィル・カーターです。いつもお美しいのは存じていますが、華やかな装いがいつもと違う愛らしさを引き立てていますね! 叶うなら本日のエスコートも全て私が引き受けたかった!」


 出た。


 スッと挨拶にしては近すぎる、苦言を呈するには離れた絶妙な距離で、胸に手を当て紳士的な礼をするネヴィル。

 いつもの従僕のそれとは違う、繊細な刺繍の施された深緑の正装がよく似合っています。

 知り合いの少女を庇いに来たのでしょうか、と、その背に隠れる形になって嬉しそうに「ネヴィル!」と声を上げる彼女をわたしはちらりと見やります。が、ネヴィルはその視線を一度として同じ方向にそらさず、鮮やかな緑色をいっそう濃くしていました。


「ああ、本日の空のような装いがとても良くお似合いで、到着が遅れたせいで貴女を見られる時間が減ったことが恨めしい。貴女の神々しさに薔薇たちも見惚れているようです。」

「ネヴィル?」

「このような形で隣に立つことができて、私は心から神に感謝致します。神といえば、この薔薇園には薔薇の女神像があることをご存知ですか? もちろんセラフィーナ様の美しさには及びませんが、よろしければ私と」

「ネヴィルッ!」


 ぐいっと彼の腕を引いたのは、かのご令嬢。わたしはまだ一言も発していません。よくもこう口が回るものだな、と、いつもの聞き流しモードに入っていました。

 言葉を切られたことにネヴィルは柳眉を寄せ、後ろを振り向きます。そこでようやく彼女に気付いたのか、天使顔をあどけなくさせ、ぱちぱち目を瞬かせました。


「ネヴィルったら! そんな女に気を使わなくてもいいのよ!」

「……メリー? なんでここに」

「あなたを助けに来たの! ソクバクされなくたっていいんだから!」

 

 にっこり。

 わたしには見せてくれない彼女の満面の笑みは、やはり自信に満ちたような晴れやかさです。反してネヴィルは、驚きをひっこめると徐々に不機嫌な顔に変化させていきました。


「一応聞いておきますが、そんな女、というのは? それから離してください」

「決まってるじゃない、そこの地味な女よ!」

「地味な女性など居ませんが?」

「無理しないで、あたしが守るから! そこの、セラフィーナ・アーチボルドから!」


 彼の眉間にはハッキリ皺ができているのに、メリーと呼ばれた彼女は気づかないようです。

 本人が来たのですから、わたしが彼を無理矢理手元に置いているという誤解はすぐに解けるでしょう。悪し様に言われても、心当たりがないからかちっとも傷つきません。それとも精神が図太いのでしょうか、複雑ですね。相手が幼い少女だということもあるでしょう。


「メリー、いえ、メリザンド様。手を離して頂けますか」

「他人のふりをしなくたって、あたしは大丈夫。ネヴィルとあたしの仲でしょう?」

「血縁こそありますが、それだけです。私はもう十を越えたので、関係相応の態度をすべきと心得たのですよ」


 ほうほう、血縁があるのね。確かに、輝く金髪は同じ血によるものかもしれません。彼女、メリザンド様の目の色はネヴィルと違って薔薇のピンクをしていますが、麗しい二人が並ぶとそれも花と葉のようにお似合いです。

 なんだかとっても蚊帳の外。

 きゃっきゃと言い合う二人から視線を逸らし、ケーキをぱくり。薔薇の向こうに立つお父さまはネヴィルを信用しているのか、薄ら寒い微笑みをこちらに向けず、誰かと談笑してらっしゃいます。この距離なら、メリザンド様が叫ばなければ話の内容まではきっと届きません。やっぱり命は大事にしてほしいですよね。


「手紙を出しても、もう帰れない、返信もしない、としか書かないし」

「帰れない、ではなく、帰らない、ですね。必要があれば今回のように戻ります。セラフィーナ様の側に立つ栄誉のためならばどのような労力も惜しみません。」

「ほんとに突然どうしちゃったの? なんでそんな女を気遣うの? いつものネヴィルはどうしたの?」

「あの日の衝撃で私は生まれ変わったんです。今の私はセラフィーナ様の忠実なる下僕です」

「それはやめてください」


 さっぱりしたムースに舌鼓を打ちつつ、二人の会話が落ち着くのを待っていたのですが、聞き逃せない発言に思わず口を挟んでしまいました。

 ネヴィルはしかめ面をぱっと晴れやかにし、こちらを振り向きます。まるで耳をピンと立てて尻尾を降っている犬のようで、こうしているととても可愛らしいです。

 対して隣の妖精は、キッと目尻を吊り上げました。




「あなたネヴィルに何の呪いをかけたの! この魔女!」






次回は忘れられそうなヤンデレタグの出番です

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