表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/20

 



 ネヴィルはその後「セラフィーナ様を思うよすがに」と二つで一揃いのリボンの一つを持ち、屋敷を発ちました。だから二日だけでしょうに。渡してしまった人間が言うのもなんですが。

 だ、だって、明日明後日で使う予定のないリボンでしたし……お気に入りのやつですけど……。

 それに、仕方ないと思うんです。本人が居るときは思わないように気をつけていて、かる彼の雰囲気で台無しですけど、ネヴィルってほんとうにかわいいんですよ!? あの押しの強さと変なスイッチさえなければ、透明感のある綺麗さと幼いかわいらしさが見事に共存していて! ほんとうに! 天使のようで!

 遠くから見てるだけだった時は、あんな子ににっこり「セリーちゃん」なんて言われたいなあと思ってたものです、……ん?

 そういえば、ネヴィルはわたしのことを「セラフィーナ様」と呼びます。前世の名前が芹だったので、お父さまにも友人たちにも、使用人の方々にもほとんど同じ響きの「セリー」と呼んでもらっていますし、この国では名前が長い人間は愛称のみを名乗って呼んでもらうこともままあるので、ネヴィルの他にわたしをセラフィーナと呼ぶ人は思い浮かびません。距離を詰めたいのか置きたいのか、よくわからなくなってきました。

 従者兼友人という立ち位置も、曖昧なものです。わたしは彼のことを、もっときちんと考えるべきなのでしょうか?

 けれど、傾げた頭にうっとりと頬を染めたネヴィルの顔が浮かんでしまい、思わず振り払うとその考えも同時にどこかへ飛んで行ってしまいました。

 ひと月ぶりにネヴィルの居ない夜に特に思うことはなく。ただ、いつもよりお父さまと長く過ごし、よく甘えた気はします。彼がいると、どうしても気になってしまいますからね。誕生日の一件でちょっぴり植え付けられた恐怖心などは夢だったかのように、やはりお父さまは穏やかで優しい素敵なお父さまなのです。


 翌朝はじめに見た顔も、当然あの心臓に悪い綺麗な顔ではありません。ほっとします。

 今日の予定は、お父さまの知り合いの方の園遊会。ネヴィルは付いてこられないので、お休みをとってもとらなくても昼間はほとんど顔を合わせなかったでしょう。朝いちばんの紅茶は、幼いころから慣れ親しんだ味がしました。朝食を終えたら、身支度。ドレスはお父さまの瞳の色をずっと薄くした青色です。デザインに携われなかったネヴィルは、このドレスを見て緑色のアクセサリーを付けましょうと繰り返し言っていました。付けません。

 そこでふと、ずっとネヴィルのことを考えてしまっていることに気づきました。もちろん気になる乙女心ではありません。あえて言うなら親心ですか。彼はひとりで大丈夫なのでしょうか、と思って、恥ずかしくなりました。

 この家に彼はひとりでやってきたので、わたしがいちばん近くに居たような気がしていましたが、ネヴィルにはちゃんと家族が居るのです。あちらが彼の帰る家です。一度戻ったら、熱に浮かされたような意味のわからないブームが冷め、やはり家族のもとが良いと思うようになるでしょう。心配は、わたしの役目ではありません。

 気付いてからは、彼ではなく自分の心配をすることにします。今日の園遊会には、いつもと違ってわたしのお友達が来ないのです。王都生まれ王都育ちで、お父さまに付いて外出もしていますから、知らない子ばかりなんてことにはならないでしょうけど……。

 もしも同年代で話せそうな子がいなければ、いつものように小さい子のお世話係でもしましょうか。こういった交流の場には、身内の集まりを除いてだいたいは十歳以上から参加するようになるのですが、五歳とか六歳の子も何人かは居るものです。

 それよりも、話の内容のほうが問題ですかね?前世みたいにテレビやSNSで流行を知ることができないので、外さない話題があまり多くないのです。最近公演を開始した歌劇が人気だと聞いたので、見に行った方が居れば聞いてみましょう。

 あとはー、そうですねえ、なんてぼんやり考えながらも出掛ける準備を進めていきます。

 着飾ったわたしは、それでも中の上くらいでしょうか。お父さまとお母さまは整った顔立ちで、わたしもパーツは悪くないのですが、なんだかぱっとしないんですよね。髪も目もただの赤茶色ですし。

 色はともかく、顔はもう少し成長したら変わるでしょうか。美人系に憧れるんですが、両親の顔を見る限りは無理かなあ。どちらも童顔寄りです。

 頬に手を当てて、じっと鏡を見つめていると、ノックもそこそこにお父さまが入ってきました。本来なら咎めるところですが、身支度も終えていますし、まあいいかと流します。

 お父さまは控えめにみても三十の半ばだと思うのですが、幼げな顔立ちのせいで二十代にしか見えません。


「やあセリー、よく似合っているよ。君に見惚れる連中が目に浮かぶようだ。日々美しくなるセリーのエスコートを任せてもらえるなんて、親というのは最高の特権だね!」

「まあお父さま、ありがとうございます。お父さまも素敵ですね。」

「セリーに見劣りしないよう、気を付けたからね。準備は完璧かい、お嬢様?」


 にっこり。細められた藍色に、同じように笑みを返し、差し出された手を取りました。さて、園遊会に出立です。






次もネヴィルはお休みです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ