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 わたしも妄想が過ぎるんですよね、わかってます。でも、白皙の美少年が憂い顔をしていたら、深刻な悩みを想像してしまうものじゃありません?

 伸ばした手を中空でぴたりと止め、Uターン。額を抑えます。

 彼のまだ幼い声で抑揚のついた長台詞を言われると、どうも細かいところを拾う気が失せてしまうんですよね。ということで、内容はやはり耳を滑っていきました。普段はむしろ聞き取りやすくて、すっと耳に入ってくるんですが。

 それでもネヴィルは複数の話題を詰め込まないので、ぽやっと輪郭だけ捉えれば意味がわかるのがありがたいです。訴えていることがわかれば、言葉をひとつひとつ拾わずともちゃんと向き合うことができるのです。

 というか、よく考えたら、子どもとはいえ異性が起こしに来て就寝準備までするのはおかしいのではないでしょうか。ネヴィルが来る前は女性でしたし、朝から晩まで一人が付きっ切りということもありませんでした。今でもお風呂や身支度には女性がついてくれますけれど、こんな綺麗な顔したネヴィルにわたしの間抜けな寝顔を見られていると意識したら恥ずかしくなってきました。

 よし、考えないことにしましょう、言ってもきっと聞かないでしょうから。切り替え切り替え。こほん。

 まずはネヴィルの悲嘆をなんとかしてあげないといけませんね。なんでもしてあげたくなるような悲しげな美少年に惑わされないためにも。


 でも、三日というけれど、二泊三日です。時間を計ればおおよそ二日。

 たかが二日顔を見ないことをここまで大げさに嘆かれると、どうしていいやらわかりません。これからも数日くらい顔を合わせない日が出てくるでしょうし。なんたってネヴィルには男爵家の息子としての責務があるはずです。ちなみにネヴィルは後継ではなく、五つほど離れたお兄さまがいらっしゃいます。

 ほんの少し首を傾げて考えても、彼の気持ちがそっくりわかることはないと思います。長々言われたので、難しく考えすぎているような気もいたします。

 はて、それでは「何日もかわいい君と会えなくなるなんて寂しいよセリー!君の成長を見逃す父を許しておくれ」と数日がかりで出張する前のお父さま対応でよいのではないでしょうか。言葉数もできることも、そしてわたしの扱いも、二人ではもちろん違いますが、応用できる部分はあるでしょう。

 もともと大人しそうな顔をしているので、すこし困ったように笑うのは難しくありません。頬に手を添え、ネヴィルをちらりちらり見ながらひとつ息を吐きました。女は女優です。


「ネヴィルと離れるのは寂しいですけど、帰ってきてくれるでしょう?居なくなってはしまわないのだから、たまにはご両親にお返ししなければ。これからも長い間ネヴィルを奪ってしまうんですもの。」


 ちなみに、お父さま対応だと相手はお仕事になり、お仕事頑張ってるお父さまが好きよなどという文言を入れます。

 さてネヴィルはちゃんとスイッチ切れてくれたかしら、と伏せがちにしていた目を向けます。

 彼の憂いはすっかり晴れたようでした。ええ、それはもう見事に。

 揺らめいていた目はくっと細められ、違う色に染まります。青褪めていた頬はばら色、食いしばっていた唇もゆるやかに弧を描いていました。

 胸元を握りしめる手は変わらないままなのに、それが表す感情はまるっきり違うものとなっています。

 うっとり、と表現するのが近いのでしょうか。今回は前のように妖しい淫靡さはなく、感動に打ち震えているようにも見えます。

 ひと月でおおよそこの目にも慣れたつもりでしたが、表情気配をここまであからさまに見せつけられるとドキリとします。何度も言いますがネヴィルは美少年なのです、それも綺麗系の。黙っていれば彫刻のような。

 前世から数えても、こんな天使みたいな顔立ちを紅潮させて見つめられることなど他に一度もありません。ドキドキと胸が高鳴るのも、当然のことです。


 しばらく、ただ見つめ合う時間が流れます。

 時を進めたのは、ネヴィルの熱のこもった溜息でした。いつ稽古をしているのか、わたしの手を取った彼のそれは初めて会ったときよりも硬くなっているように思います。


「はあ……。僕はいつでもセラフィーナ様のお側に侍るために存在致します。もちろん、貴女の元に居るためなら僕はなんだって耐えてみせましょう。これからも、長い間、ずっと、一生、未来永劫、セラフィーナ様の一番近くに居られたならば、幸甚に存じます」


 なんだか未来の強調が激しくなりすぎてませんか、なんて、くっと力の込められた熱い体温を前に、口に出すことはできませんでした。





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