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頭を抱えるわたし、ぽかんとするメリザンド様、そして頬を染めるネヴィルと笑いを堪えるパウラ様。
そんな空間は響いたノックの音で終わりを迎えました。
パウラ様が入室を促しますと、先頭に入ってきたのはよく見知った顔、お父さまです。そして続くのはきらびやかな金髪をオールバックに固めた細身の男性。
金髪といえば、ネヴィルとメリザンド様の遺伝子です。つまりどちらかの血縁のかた?
「セリー!大丈夫だったかい?もし傷付いたのならそれ相応の罰を受けさせるよ、安心しておくれ。ネヴィルも居るし平気かとは思ったんだが、セリーは優しいからね。我慢はよくない、準備はきちんと整えておいたよ」
なんの準備ですか。後ろの男性がビクリと震えた気がするのは気のせいですか、いえ追求はしませんけど。
お父さまとパウラ様が挨拶を交わし終えても男性の紹介がありません。ええと。居た堪れない様子の男性は小さく息を吐いて、誰に向けるでもなく首を振りました。
放置しておくわけには、いけませんよねえ。仕方なく口を開きます。
「お父さま、そちらの方は……」
「気にしなくていいよ、そちらのお嬢さんの保護者だ。まだお茶会は続いてるけれど、戻るかい?挨拶は終わったし、もう帰る?セリーも疲れたろう、帰ったら気に入っていたザッハトルテを用意させるよ」
にこにこ。
柔らかい笑みに反抗の声は上がりません。メリザンド様のお父上らしい男性の声も。
ということは、メリザンド様のおうちは子爵か伯爵家になるのでしょうか?さすがにいくらお父さまでも、身分が上の方を「気にしなくていい」などとは言わないはずです。いまだにメリザンド様の名前すら又聞きのままなので、わたしの乏しい知識から家名を探すこともできません。
少し考えましたが、知らなくていいというならいいのでしょう。とりあえず問題が起きなければ。
「ザッハトルテは嬉しいですけれど、今日はもうケーキを食べましたし、疲れてもいません。傷つくようなこともありませんでした。だから、何もしなくていいので、帰りましょう」
気疲れならちょっとしてますが、理由がネヴィルなのでそろそろ慣れたものです。メリザンド様の言ってたことに思うことはあれど、わたしが何もしていない以上、ネヴィルと彼女の問題でしょう。へたに口を出したら拗れるだけです。
パウラ様のおかげで「ネヴィルを家族から引き離している」とか「家族に愛されていないんじゃ」なんて懸念も解消されましたし、特別な目的あって来たわけでもありませんので、帰っていいならもう帰っちゃうことにします。
お父さまの側に寄ってさしだされた手を取ろうとしたところで、あ、とひとつ気付きます。
「ネヴィルはどうしますか?もう少し話していったほうがいいんじゃないですか?」
パウラ様とも、メリザンド様とも。
我が家に帰って来て、従者の立場を続けるなら、パウラ様はまだしもメリザンド様とお話しする時間は取りにくくなります。わたしとしては好きに休んで構わないのですが。
せっかくだし話せるだけ話してしまえば?との提案でしたが、彼はキッパリ首を振りました。
「今はこれ以上話しても無駄でしょう。セラフィーナ様の素晴らしさを語れるのは光栄なことですが、曇った目に正しく輝きが映るとも思えません。道が別たれたところでまず損失はありませんし、それよりセラフィーナ様がご帰宅なされた後の室内着を選ぶことや紅茶をご用意することを他の者に取られるほうが確かな損です。絶望です。お願いですから、昨夜から失われた至福の時を私にお与えください……!」
突然ですが、ここでひとつ確認しましょう。
ネヴィルは、齢11歳にして白磁の肌と蕩けるような蜂蜜の髪をして、同色の長い睫毛があどけない緑の瞳を括る美少年です。まろいばら色の頬に光が当たれば産毛がきらめき、細い首筋には少年期特有の色気さえ見えるような。しっとり濡れた翠玉のガラス玉は、天使の無垢と妖魔の蠱惑を同時に孕んでいるわけです。
さて、そんな美少年が、わたしみたいな取り立てて魅力的ではない少女(第三者から見た客観的な意見として、です)にとりすがる図に、ふつうはどう反応するでしょう?
そう、ふつうはぎょっとしますよね。
なのにこの場においてそんな反応をしたのがたった一人というのは、どうかと思うんです。わたしだって慣れたくありません!
字下げなどは年明けに。年内最後です。




