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おとうさまのプレゼント 前

1・2話は短編と全く同じ内容になります。新しい話は3話から。




 お父様のプレゼントが常軌を逸していてつらい。




 みなさまこんにちは、わたしの名前はセリー。セラフィーナ・アーチボルドと申します。

 前世の名前は落合芹。日本生まれ日本育ちの高校二年生でした。ありがちな設定です、死んで異世界に生まれ変わっちゃったっていう。

 生まれ変わり先はある貴族の一人娘。お父様は王様の信頼にも厚い有能な文官で、お母様はわたしがまだ四歳の頃に他界。

 異世界は異世界というだけあって、剣と魔法のファンタジー世界です。



 という辺りで、わたしの背景の説明は充分でしょうか。話を戻させていただきます、お父様のプレゼントおかしい。

 元から親ばかで娘にゲロ甘だなあとは思ってたんです。

 ふかふかのカーペットの上で転んでも医者を呼ぶし、おいしいって言ったお菓子はどんなに珍しいものでも常備されるようになるし。できるだけ遠慮したり誤魔化したりはしてますが。


 でもお仕事は立派にやっていて、使用人の方々にも優しく、穏やかな気質だからまあいいかなあと楽観視していました。

 わたしに甘いだけなら頑張って自分を律すれば他に害はないので。


 しかし。



「12歳おめでとうセリー! 気に入っていたようだったから、手にいれてきたよ。今日からきみのモノだ」



 にっこり笑うお父様が示すのは、綺麗な少年。わたしは彼を知っていました。

 彼を初めて見かけたのは、お友達の誕生パーティ。

 そんなところに招待されるくらいなのでもちろん貴族です。たしか男爵家の子だったように思います。


 彼はきらきらの金髪に澄んだエメラルドグリーンの瞳をした白皙の美少年で、話し掛けこそしなかったもののついつい目を奪われてしまいました。


 彼とわたしの繋がりはそれだけです。


 きちんとした格好でお父様に背中を押される彼。

 うつむいて、手は握り締められています。

 わたしはうまく理解ができずに、視線を二人の間でうろうろさせます。



「わたしのもの、って。どういうことですか? お友達、ということ?」

「友達にしたいならそれでもいいよ。セリーが好きなように扱っていい、従者でも弟でもおもちゃでも。セリーの誕生日プレゼントだからね!」

「え、え?」



 お父様の言うことがさっぱりわかりません。

 わたしの好きなようにとかわたしのものだとか、一体彼の人権はどこに行ったのでしょう。


 そもそも「連れてきた」ではなく「手にいれてきた」とは、どういうことでしょうか。


 当然受け入れられないでいると、お父様はへにゃりと眉を下げます。

 お父様は童顔でかわいらしい雰囲気なので、犬の耳が見えるようです。



「気に入らなかった? セリーが喜ぶかと思ったんだけど。もう男爵家には戻せないし、セリーがいらないならどうしようかなあ。いつもセリーは欲しいものも言わないから、これならと思ったのに。」

「も、戻せない? あの、お父様?」

「珍しくじっと見ていたろう? だからね、男爵家から買ってきたんだ。でもセリーがいらないなら、処分」



「待って待ってお父様! い、いります! お、おおおお友達で! お友達に欲しいなー! ありがとうお父様セリーうれしいなあ! ちょっとびっくりしちゃったけど! とってもうれしいなあ!」



 ちょっと理解が追いつかないけれど、いらないと言ってはいけないことだけはわかりました。

 今までも、そういえばわたしがいまいちな反応をしてしまったプレゼントの珍しい鳥がいつの間にか消えていたりしましたが、人にやったのだと思っていました。

 もしかしてあの、ええと?


 どきどきと心臓が早鐘を打っています。

 お友達、と言っておけば、彼の身分は貴族から落ちませんし、対応も悪くならないでしょう。人間を物のように扱うお父様を恐ろしく思いながら、いつものように笑みを作ります。

 しかし、ぎこちないことは自分でもわかりました。


 わたしは17年と12年生きてるわけですが、精神年齢は生きた年数と比例しないので、高くても17と少し、しかもここより甘い世界の17前後になります。

 万が一精神が経た時間とと同じだけの落ち着きを自分に強い続け成長していたとしても、足して30前です。


 そんな程度の人間で、百戦錬磨の貴族社会に育った上、実はちょっと頭のおかしかったお父様と対等になんていられるでしょうか。無理です。


 よくよく思い出してみると、お父様は使用人にも穏やかに接していましたが、親しみを持ってというよりは空気のように無視していたかもしれません。

 お父様はわたしにゲロ甘でしたし、使用人たちはわたしが話しかけても優しく親しげに接してくださるので気付きませんでした。

 ほんとうに全くぎすぎすしたところもなく、暖かな声音で、傲慢な要求もせず、必要最低限に声をかけていたのです。


 思い返せば、それは会話ではありませんでした。いつだって、理不尽さのない命令だったのです。


 お父様は必死に止めたわたしを嬉しそうに見て、「じゃあお友達ということにしよう」とにっこり笑いました。









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