干支達の夢 その六b 【アナコンダ 二人の世界】
干支に関するショートショートです。今回は蛇その2 です。都会で飼われている大型の蛇アナコンダ。飼い主との二人の世界がありました。
あなたは笑う。ワタシの体が冷たいと。でも、夏にはひんやり気
持ちいいって。夏だけ? 嘘でしょ? 冬でも抱きしめてくれるか
ら。
目を逸らすあなた。ワタシの瞳は冷ややかだと。でも、それがエ
キゾティックで好きだよって。本当? あなたの瞳にワタシが映る。
いつからだろう? あなたがワタシを愛してくれるようになった
のは。ワタシは初めからあなたが好きだった。あなたしか居なかっ
た。あなたが居なければ、ワタシはこうして存在することも出来な
いだろう。あなたは神も同然だった。たとえあなたが戯れに、ワタ
シを愛しているのだとしても。ただ、ただ、幸せだった。
月に一度。ワタシはあなたから接待を受ける。あなたはさも嬉し
そうに其れをくれる。
「ゴメンな、冷凍で。生暖かくなくて」
あなたは同時にすまなさそう。其れは、これまで、何回か形を変
えた。ワタシがもっと小さかった頃、其れも小さかった。そうだ、
ワタシの成長と共に、其れも大きくなっていったのだ。今では、其
れは、あなたの背丈の六分目くらいはあるだろうか。
突然。二人の世界が終わりを告げた。あなたがワタシに目を向け
てくれる回数も随分と減っていった。あの女のせいだ。二人の世界
をぶち壊した女。
「気持ち悪いからあんなの手放してよ」
そんな女の言葉に、あなたは悲しそうな顔。許さない。あなたにそ
んな顔をさせる女。
初めて。初めてワタシは自分から其れを望んだ。接待ではなく自
分から。
あの女を欺くのは簡単だった。眠ったふりして、近づいてくる女、
締め付けた。あなたは血相を変えて何かを叫んでいたけれど、ワタ
シには聞こえなかった。出来るだけ大きく口を開けること、ただそ
れだけを考えていた。
生暖かい? これがそうなの? またあなたと二人だけになれ
る?
そうして。二人の世界が戻ってきた。あなたは笑う。失踪届けが
でてるらしいけど? いいのよ。分りっこないわ。黙ってれば。
ワタシとあなたが同時に頷く。
二人の世界はそのままゆっくりと時を刻むのだ。生暖かく。
いつかワタシはあなたまでも…生暖かい世界で…