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桃花記 結

これで終わりです。


よくある終わり方でごめんなさい。


それでは、お暇でしたらどうぞ。




 どれほど歩いたかもわからない。



 己が今、歩いているのか止まっているのか、立っているのか座っているのか、そもそも生きているのか死んでいるのかすらわからない。



 そして何より、そんなことはどうでもよかった。己は全てを失ったのだ。



 だが、恐らくは無意識に歩いていたのだろう、川の横の小さな里にたどり着いた。



「うわっ!そんなボロボロの格好でどうしたんですか?!怪我とかはありませんか?」



 里の者が話しかけてくる。聞けばこの里は、上流に桃の樹などないのに、桃の実が流れてくるのだという。漁師であったころのにはこのような村は無かったが、とふと思った。



「ところで貴方、お名前は?」



 村人が尋ねる。



「わた、しは・・・」



 漁師であったころの答えようとしたが、名が思い出せない。桃香がくれた名を言おうとすると、声の出し方を忘れてしまったように、口から出てこない。代わりに涙がとめどなく溢れ出た。



 嗚咽を抑えられない。諦めるなど無理な話なのだ。私の全ての幸せはあそこにあったのだから。



 里の者に穢が移るから近寄るなというのなら遠くから眺めるだけでいい。



 涙を抑えられぬまま、男は駆け出した。







 それ以来男は川の上流の方に毎日出かけ、あの里への入口を探した。朝から夜まで探し回り、村の外れに建てた小さな小屋で寝泊まりした。もはや探していない場所など無いと言える程に探した。



 それでもあの里へたどり着くことはなかった。だが男は諦めなかった。諦められなかった。



 何度も探した場所だった。しかし、今日は違った。男の膝程の高さの見慣れぬ小さな木が生えている。その時、ふわりと甘い香が鼻を擽った。これは間違えようもない



「桃の、香り・・・」



 男は小さな木に駆け寄った。これが桃の木であったとしてもこんな小さな木から香りが漂うはずはない。狐狸(こり)の類かとも思うが、確かめずにはいられなかった。



 果たしてそれは桃の木であった。無論、今は桃の香りなどしない。もしや里の手掛かりかと辺りを見回すと鈍く光るものがあった。



 よく見れば、それは指輪だった。小さく、不格好な指輪だった。



 桃香の言葉を思い出す。



私たちは桃に近い、と。



 ならばこれは、この小さな木は。



「追いかけて、きてくれたのか・・・。」



あの愛が真であった、間違いようのない証であった。







 旅人が村を訪れた。桃が流れ着くという不思議な村だ。



「何か他に面白そうなことないですかね?」



と問う旅人に、少し思案した村人は、



「そうさな、川の上流の方に小さな小屋があってな。その小屋に住んでる男は毎日庭の木に向かって念仏を唱えたりしてるんだ。とは言っても話は通じるから気違いの類じゃあないみたいだがな。興味があるなら話を聞きに行っちゃあどうだい?」



と言った。



「そいつは面白そうな話だな。早速行ってみよう。」



 上流へ向かうことしばらく。ようやく小屋が見えてきた。しかし、



「なんだ、こりゃあ?」



小屋は何十年も放置されたかのようにボロボロで、苔むし、草が生え、小屋と呼ぶことも躊躇われる有様であった。



 旅人はしばらく周囲を探したが、男など見当たらない。仕方ないので庭に行くとの二本の木が生えている。



 それは桃の木だったが、実はなっていない。周囲に種も見当たらないので長く実をつけていないのかもしれない。



 そしてその二本の木は根こそ別だが、絡み合い、一本の木のようになっていた。



 旅人は何となく神聖なものの前にいるような気がしたので、二本の桃の木に手を合わせ、念仏を唱え、村に戻った。






 この二本の桃の木は夫婦桃と呼ばれるようになったが、実がならないので不吉とされ、いつの間にか忘れ去られた。



 今もきっと、人知れぬまま、静かに二人だけで佇んでいるのだろう。


さて、今回はサブとして浦島太郎、メインとして桃太郎、そして桃花源記をリメイクしました。


タイトルからわかった方もいらっしゃるかも知れませんね。


桃花源記なんて知らねーよ!という方は一度読んで見てください。


ググれば簡単に出てきますので。便利な世の中になりましたね。



それではお目汚しだとは思いますが楽しんで頂けたなら幸いです。

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