表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここは人類最前線4 ~カーバンクルの狩り祭~  作者: 小林晴幸
後日譚:勇者様のドキドキ☆魔王城体験!
53/54

3.墓参りと白い花

勇者様のドキドキ☆魔王城体験、完結編☆


 収蔵品のチェックに、結局八日かかりました。

 だぁれ? 最初に三日とか言った人。 →まぁちゃん!

 

 途中何度、叫んだことでしょう。

「武器防具の戦利品多すぎっ! 一体どんだけの勇者が討ち死にしてんの!?」

「わざわざ取っとくなよ、こんなもん!!」

「貴重なのはわかるけどさー…せめて分類しろよ!」

 …だいたい、こんな感じの内容で。

 所蔵品の確認に参加した全員が、概ね平均十五回くらい叫んだ気がします。

 まさに、(つわもの)共が夢の後、なり。


 八日間、私達は食事と入浴以外の全てを宝物殿Ver.3で過ごす羽目になりました。

 寝る時はもう、疲れに疲れ果てて寝オチが殆どですよ。

 最初の一日はまぁちゃんが客間に運んでくれたんですけどね。

 翌日からは開き直って、宝物庫の中に天幕と毛布を持ち込みました。

 そしてそれを余裕で広げるスペースの余っている宝物殿。

 その広さが、今となっては忌々しい。

 勇者様なんて、奧に行きすぎて五回くらい迷ってましたよ…!

 自分の現在地を見失って、遭難しかけてましたよ…!!

 終いには遭難の度に回収していたまぁちゃんに、命綱渡されてましたから!

 せっちゃんと一緒にいた私の場合は余裕で遭難回避でしたけど!

「墓場にも程がある…」

 勇者様の呟きには、色々な意味が含まれている気がしました。

 うん、私も同感です。



 八日間の間、私達は完璧に宝物庫に缶詰でした。

 見飽きるくらい、文字と武器防具を見続けました。

 まぁちゃんだけ、執務があるので午前中は宝物庫から出てましたけど。

 いつもはサボったまぁちゃんを追いかけ回す、りっちゃんが入院中ですから。

 申し訳ないと思ったのか、張り合いがないと思ったのか。

 珍しくも八日間ずっと自主的にお仕事してたみたいです。

 それを知ったりっちゃんが、病室で盛大に嘆いていたとか何とか。


 まぁちゃんが本気を出せば、毎日の執務は早々終了するらしい。

 無駄に有能な、まぁちゃん。

 宝物庫でも、その有能ぶりは健在です。

 仕事に時間を取られようと、私達に遅れも滞りもなく作業をこなしてましたからね。

 まあ、誰よりもこの宝物庫を熟知しているのはまぁちゃんなので、当然なのかも知れません。


 そうしてまぁちゃんのフォローと、人海戦術と言うには少なすぎる人員の力でもって。

 八日間という時間をかけつつも、私達はようやっと作業を完了させたのです。

 宝物庫から出た時には、かつて無いくらいの達成感で無駄に清々しく思わず笑顔になりました。

 もう全員、今まで見たこともない様な爽やか笑顔でしたよ。

 ちなみにこの頃になると、もうりっちゃんは退院して職場復帰してました。

 追い回すりっちゃんが復活して、まぁちゃんも飄々と仕事のサボリを復活させていました。

 この二人も、結構な感じで懲りないなーと感心してしまいました。


「さて、本当に助かった。お陰で六百年ぶりに宝物庫の現状把握できたぜ」

「六百年は流石に放置しすぎじゃないか…?」

「まぁちゃん、面倒だからこまめにチェックしたがいーよ?」

「簡単に言うなよな、あの量を思い出せ!」

「「……………」」

 喉元過ぎれば、何とやら。

 私達は達成感の清々しさに誤魔化されて忘れかけた苦労を思い出します。

 うんざりしました。

「しかし、思わぬ長居をしてしまったな……」

「幾らなんでも、八日もいるとは思いもしませんでしたねー」

「そこら辺、ちゃんと抜かりなく伯父さんに伝書飛ばしといたから安心しろ」

「伝書? 伝言でなく、伝書ときたか」

「伝言頼む余裕もなかったんだよ…!」

 そっちはそっちで目も回るほど忙しかったらしい、まぁちゃん。

 その苦労を偲んで、私と勇者様は口を噤みました。

「皆様、暗いですの。大変なことは終わったのですから、もっと晴れやか笑顔が素敵ですの!」

 私達のうんざりした空気におろっとしたせっちゃんが、私に縋り付いてきます。

 うわー…上目遣い、超可愛い。

 せっちゃんの大きな黒い目は、いつも潤んでいる様に見えます。

 将来の美貌を思わせながらも、小動物的な美少女ぶりです。

 でも大きくなったら、まぁちゃんによぉく似た妖艶美女になるんだろうなー…。

「せっちゃん、どうかせっちゃんはいつまでもそのままでいて…!」

「リャン姉様? せっちゃんはいつだってせっちゃんですのよ?」

 それ以外になるのでしたら、一度狸になってみたいですのー、とせっちゃん。

 何故、たぬき。

「ううん…そうじゃないの。大きくならないで、せっちゃん…!」

「リャン姉様ぁー? なんだか(とと)様みたいなことを言うんですのね?」

「え。叔父さんみたい? それなんか嫌だなー」

「俺もリアンカが親父みたいになったら泣くぞ。あのうぜー親父みたいになったら」

 いや、それでもリアンカはリアンカだしなー…って、まぁちゃん?

 そんなに悩まないで! 間違っても、あんな浮かれたオッサンにはならないから!

「………まぁ殿の父親って、一体…」

 私達のあまりにも酷い言い様に、勇者様が物凄く微妙な顔で。

 その物言いたげな顔は、私達全員によって黙殺されました。

 まぁちゃんのお父さん、ね………なんか全体的に、頭の中が平和そうな人ですよ。

 俗に言う、恋に浮かれた状態がまず真っ先に浮かぶ、威厳のゼロさ加減。

 次に浮かんだ、我が子にメロメロでダメダメ過ぎる親馬鹿ぶりの無惨な姿。

 あれでキリッとしている時は、凛々しい威厳に満ちているんですけどねー…。

 責任ある立場に相応しく、まさにカリスマ! と言う感じのオーラ漂わせちゃって。

 あまりの差異に、昔は別人だと思っていました。

 普通にまぁちゃんとせっちゃんにはお父さんが二人いると思っていたんですよ。

 on/offの切り替えが激しい叔父さんの姿は、思い出すだに疲れる物でした。

 あんまりにも疲れるものだから、実態を知る私達三人は直ぐに回想を振り払いました。

 気を取り直す為か、話題を変えたいのか。

 まぁちゃんが乾燥した目で勇者様に話しかけました。

「そういえば、勇者ー…どうする?」

「なにが?」

「うん、どうする?」

「いや、だから主語を言ってくれ。主語を。何を主張したいのかさっぱりだ」

「主語なー………じゃ、墓参りでどーよ」


「……………は?」


 魔王の口から出た、あまり晴れやかとは言い難い単語。

 墓参りって、一体誰のなんでしょーね…。

 私は答えを知っていましたけれど、勇者様は思いっきり不審そうな顔をしていました。

 はてさて、一体勇者様は誰の墓参に誘われたんでしょう。

 誰の、だと思います?


 答え:過去の歴代勇者の墓


 それは、魔王城によって代々管理されていました。

 身も蓋もない言い方をすれば無縁仏の集団ですからね。

 放置する訳にもいきませんし、魔王という化物(チート)に果敢に挑んだ敬意を表しまして。

 魔王がらみで命を落とした勇者(+その仲間)の亡骸は、代々魔王城で供養されています。

 魔王家の廟【闇の終着点】のお向かいに作られた、地下墓地【希望の墓場】にて。

「何て不吉な銘を打つんだ…!」

 魔王城の中に歴代勇者の墓があると聞いた時点で頭を抱えていた勇者様。

 然し本当ならば素通りする訳にもいかないとのことで。

 偉大にして志し半ばで折れ果てた先人達。

 勇者様の大先輩達の墓参に、異論はない様でした。

 青い顔で頭抱えていましたけれど。

 地下墓地の門に掲げられた標識を見て、両手両膝を地に付けて何か叫いていましたけれど。

 言葉にならない激情を込めてか、その拳でガンガンと地面を殴っておいでです。

「勇者様ー、御自分の身体能力考慮しましょーよ。地面抉れてますよー?」

「しっ リアンカ、そっとしておいてやれ」

「こう言う時は気が済むまで放っておいた方が良いって、リーヴィルも言っていましたの」

 何も言うなと言わんばかり、分かってやれとばかりに従兄達が私の肩を叩きます。

 うん、でもさ。

 あとで彼処の整地する羽目になる下働きの人達が可哀想でした。

 その苦労を思いながらも、結局は私も勇者様の気が済む様にさせるのでした。

 先ず間違いなく、私が言葉をかければより落ち込ませることが目に見えていたからです。


 まぁちゃんの提案は、歴代敗戦勇者の墓参り。

 過去に使命破れた勇者達の遺品に触り、関わった後だし。

 それに勇者様に至っては、実際にぶんぶん使わせて貰った後だし。

 ここは一つ、浮かばれない過去の英雄志願者達の墓参りするべきだろうと。

 まぁちゃん達が定期的に掃除したり参ったりしているそうだけど、そう言われるとねえ?

 こちらもお参りするべきかなって、考えちゃう訳ですよ。


 地下墓地に続く鉄柵の扉を開き、絡まり伝う蔓薔薇の群を抜け。

 地下へと続く階段を、私達は下ります。

「この城は、勇者達の亡骸の上に建っている訳か…」

 思いっきり勇者様はやさぐれていました。

 達成感の清々しさで忘れていた、連日の単純作業の疲労もあるのでしょう。

 いつものキラキラが、40%くらいカットされていました。

「この地下墓地は後付で造られた奴だから、そーいう訳でもねぇぞ?」

 城の基礎工事で造られた土台は、此処より遙か下だ、とまぁちゃん。

「元々は魔王の廟の一部として確保されていた敷地を利用した物だそうですの」

 本来は未来の魔王が葬られる予定で開けられていたスペースですの、とせっちゃん。

「そうそー。こんな豪華な墓も他にねーよ? 言っちまえば魔王の亡骸と同格扱い」

「この上なく丁重な扱いですのよー?」

 そしてそんな勇者様のやさぐれた空気を、敢えて読まないまぁちゃん。

 加えて、確実にそもそも勇者様の荒んだ空気に気付いていないせっちゃん。

 計算のない無邪気な笑顔が、勇者様の胸を鋭く抉ります。

 魔王と王妹は、悪意も悪気もないのがとっても(たち)の悪い感じでした。


 そして階段を下りきり、降り立った地下墓園。

 そこは、幻想的なまでに広く、白く、そして淡い。

 広がる地面の上に、間隔を開けつつも不均等にそれぞれの墓石が見える。

 私の想像では、大きな石碑一つに納骨堂、みたいなイメージだったんだけど…

 どうやら、一人一人分のお墓を一つ一つ建ててあるようで。

 此処が地下で、そして魔王城の敷地でなければ。

 こんな幻想的な空間でなければ。

 此処はきっと、普通の墓地にしか見えなかった。

 不思議な淡い、仄かな光り。

 まるで星明かりの様な、蛍の様な。

 高い天井のあわいを、滲ませる光の群。

 目算ですけど、多分一つ一つの光は手の平サイズ。

 でもそれが群れを成し、この空間を照らしていた。

 だから地下墓地とはいえ、ここはカタコンベみたいな深淵の闇とは違う。

 それでも光そのものは本当に淡くて、強い光だとは決して言えない。

 緑や紫、青や白といった、寒色めいた色を帯びて地下を照らす。

 だけどあの光は、一体何だろう?

 見ようによっては、人魂ちっくに見えるんだけど………

「………まぁちゃん」

「言いたいことは分かる。だが安心しろ。厳密には人魂と違う」

「…その厳密(・・)にはという、持って回った言い回しが気になるんだが」

「あれなー…俺も特に気にしてなかったから深くは知らん」

「おい!?」

「あれはそういうもんだと思ってたからな、今更みたいな?」

「まぁちゃん、でも気になるよー…」

 私が困り切って見上げると、もしかしたら半泣きにでもなっていたのかもしれない。

 まぁちゃんが慌てて私の頭を撫でながら、やっと詳しい解説をくれた。

「俺も深くは知らない。が、アレは魔力の固まりとそれに寄ってきた精霊の群、らしい」

「魔力の固まり?」

「ああ、魔力の密度、濃度があまりに高くて可視化したものだ」

「ソレって一体何の魔力?って聞くまでもない、の、、、かな……?」

「……死んだ勇者+その仲間の死体から発生した魔力と、その怨念の余波みたいな?」

「うわー………」

「ッッ本当に、厳密に違うだけで人魂とあまり変わらないじゃないか!!」

「いやいや、大分違うって!」

「そうですの。勇者さん達の怨霊そのものは、代々黒山羊一門の人達に引き取って貰ったり、昇天させて貰っているそうですの。だからここはとってもクリーンな空間ですのよ? 霊魂的な意味で」

「待て、昇天はともかく回収された勇者の魂はどうなったんだ!?」

「そりゃ、当然n--……」

「いや、やっぱりいいからみなまで言うな!!」

 黒山羊一門:代々優秀な死霊術師(ネクロマンシー)

 その事実を思い出したのか、勇者様の顔色は青白い光のせいだけでなく青ざめていました。

 この広い空間と、点在する墓石を見て、ふっと私の口も緩みまして

「……ここが、勇者様の行き着く果てなんですねー…」

「縁起でもない!!」

 あ、勇者様が涙目。

 頭を抱えて、絶対に自分はこうはならないとか何とかブツブツ呟いています。

「でも、今のままなら高確率で此処が勇者様の終の棲家ですよ? 霊魂的な意味で」

「俺は、こんなところで死に水取らせるつもりはないからな!?」

「本人にそのつもりが無くても、ねえ…?」

「その意味深な哀れみの目を止めろ! 止めて下さい、本当にマジで!!」

 そろそろ勇者様が本気で泣きそうだったので、止めてあげることにしました。

 大丈夫です。勇者様はまだ生きてますから! 手遅れじゃありませんから!

 今から頑張れば、………うん、頑張って、頑張れば、不本意な未来も回避できるでしょう。

 ……………………………たぶん。

 あまり自信を持って大丈夫とは言えませんが、今後のことはよく分かりません。

 まぁちゃんが手加減してくれたり、勇者様が予想以上の人外に進化すれば、あるいは…。

 どちらにしても、不幸な未来など積極的に望みたいものではありません。

 まぁちゃんと勇者様、双方が気をつければ。

 例え戦いが避けられない物だったとしても。

 二人のどちらかが死ぬ未来なんて、絶対に嫌です。

 だからまぁちゃん、勇者様。

 どうか私に都合良く、そして誰もが納得する未来をよろしくお願いします。

 胸中で人生最大の無茶ぶりを祈願しつつ、私は勇者様の背中を撫でて慰めるのでした。


 勇者様は相変わらず、メンタル面が弱いけど回復が早い。

 今回も何とか気持ちを立て直し、

「俺がしっかりしていれば大丈夫だよな、そうだよな…」

 と、自己暗示の様に呟いておいでです。

 …あれ、回復できてないのかな?

 ここはそっとしておいてやれと、まぁちゃんから目配せを受けまして。

 私達はそそくさと勇者様から離れ、お墓参りの準備です。

「まぁちゃん、このお墓全部掃除するの…?」

「魔法という便利なアレのお陰で汚れないからな。掃除はいいだろ。その代わり、墓石に酒をかけてやるのが魔王城流だ。中に未成年者の墓があろうが気にしねーでやっちまえ」

「わあ、罰当たり☆」

 それって、お酒をかけた後で拭き掃除しなくて良いのかな…

 って、私が首を傾げている間に、もう!?

「せっちゃん!?」

「リャン姉様、こっちは私に任せてですの!」

 愛らしい天使の笑みで、せっちゃんが何の疑問もなく既に始めていた。

 しかも手慣れているのか、結構なハイペース。

 墓石全ての為に用意された膨大な酒瓶が、みるみる空になって積まれていく…。

 ああ、緑味を帯びた白い墓石が、赤葡萄の汁色に染まっていく…

「ねえ、アレ本当に掃除しなくて良いの?」

「--赤ワインを持ち出すとは予想外だったな。俺、清酒を手配したはずだったんだけど」

 どこですり替わった。

 何の疑問も差し挟まなかったせっちゃんのお陰で、余計な仕事が増えました。

 此処は懊悩中の勇者様に、雑巾持たせて任せましょう。

 勇者様もただ苦悩するより、無心に単純作業へと身を投じる方が気持ちの整理ができるはず。

 …人はソレを、面倒の押しつけという。

 だけど惨事を目にした勇者様は、

「こ、故人の墓にお前達は何をしているんだ!」

 まあ、良識の固まりの様な紳士さんですからね。

 頼むよりも先に、率先して墓掃除に身を乗り出してくれました。

 うん、これできっと万事解決。

 解決していなくても、万事解決。


 勇者様が一心不乱に墓磨きに勤しんでいる間に、私達は他の準備を進めます。

 平等、均等に、全部の墓へとお供え物。

 何をお供えするのか特に決まり事はないので、毎回適当に準備しているそうです。

 まぁちゃんが用意してきたのは、蒸した穀物の御握りと三色のおはぎ。

 それからミネストローネ。

 ………何故にこのラインナップ?

「まぁちゃん、このお供え物って…」

「俺が作った」

 賞味期限の迫った厨房の余り食材で、とまぁちゃん。

「………」

「あ、ミネストローネはせっちゃん作だ」

「がんばりましたの! リャン姉様、せっちゃんね、兄様からお料理を習ってますのよ」

「そう、がんばってるんだね、せっちゃん…」

 キラキラ笑顔のせっちゃんを前に、私はソレしか言えなかった。

 それ以外に、何を言えと?

「しかし、彼等は魔王兄妹まぁちゃん・せっちゃんの手製料理で浮かばれるのかなー…」

「こういうのは、生きてる奴の自己満足がほぼだろ。大体墓の(なかみ)はもう殆どいねーんだし、あんま気にすることねーよ」

「ほとんど、ってことは幾らかは残ってるんだね」

「往生際の悪いのがな」

 その人達に、まぁちゃん達は怒られないのでしょうか。

 ああ、強すぎて祟りも跳ね返すんですね。

 なんか自分の疑問に自己完結しちゃった。


 それから暫し、黙々と。

 私達はそれぞれの作業に没頭しました。

 せっちゃんはお酒をかけてまわり(もはや手遅れ)。

 まぁちゃんはお供えの御握りとおはぎを配膳し。

 私がミネストローネの鍋を抱えて中身を饗してまわり。

 そして勇者様がバケツと雑巾片手に掃除に精を出す。

 拭き掃除、お疲れ様でーす…。


 全ての作業が終えるのに、気付いたら二日も経っていた。

 墓の数、多すぎなんですよ!

 宝物殿Ver.3の大容量で察しはついていましたが、うんざりです!

「それにしても、お花の必要はないって言ってた意味をしみじみ解したよー…」

 疲れ果てた体に、花の香りがとても優しい。

「そーだなー…この上、花も準備とかなったら誰か死んでたんじゃね?」

「お花は好きですの…でも、準備してくるだけで多すぎてしおれてしまいそうですの」

「…握り飯やらおはぎやら、用意しているだけで大概だと思うがな」

 疲労困憊した私達は、それぞれひんやりと冷たい花の絨毯の上で。

 思い思いに癒されていました。

 淡くて、白くて、広い空間。

 地下墓地は、地面が剥き出しの筈なのに地面が見えない。

 全て、虹色を帯びた白く優しい花に覆われている。

 自然と生えて自生している、六枚花弁の白い花。

 ほんのりと光っていて、白く浮き上がって見える花。

 開いた鼻の大きさは私の手の平より少し小さいくらいで。

 天井の光の群、地面の白い花畑。

 相まって、幻想的な世界を形成している。

 少しだけ、墓地特有の冷たい空気が痛く感じたけれど。

「この花、何て言う花なんだ? 他では見たことない、不思議な花だ…」

 ぼんやりと胡座で座る勇者様が、花を一輪摘んで。

 手の中でくるくると回し、手慰みにしながら疑問を口にして。

 それに答えたのは、やっぱりまぁちゃんで。

「そりゃーな。この花は、此処にしか生えない特別な花なんだよ」

「そうなのか? この場所に、と言われると不思議さが増すな…」

 敢えてこの場所に、歴代勇者の墓地にしか咲かない花。

「歴代勇者の血肉を糧に自己進化でもしたの?」

「リアンカ…頼むから、そういう不吉な発言は慎んでくれ。その内、本当に泣くぞ。俺が」

 勇者様の涙目は(たま)に目にしますが、マジ泣きはそう言えば目にしませんね。 

 そんな酷いことを思いつつも、私は頬を膨らませて。

「そんなことを言われましても、これが私の性分です。薬師として、気にするところです」

「悪かったな。だからそう、拗ねないでくれ」

 困った様な顔で、勇者様が私の頭をポンポンと。

 これは、子供扱いですね…?

 私とたったの二歳差の癖に…!

 ちょっと不服だったので、報復です。

 勇者様の服の中に、このやけに冷たい花を大量に投入してやろうとしたんですが。

「リアンカ、丁重に扱えよ? この花、魔王城秘蔵の特殊な霊薬だからな」

「なんですと!」

 まぁちゃんの言葉に、私は一も二もなく食いつきました。

「本当、まぁちゃん!」

「マジマジ。時々、粉末状にした奴をリアンカのとこの薬房にも卸してるだろ」

「白く、虹色めいた花。粉末………あれね! 『希望の残骸』!!」

「そのやたらと不吉そうな名前は何なんだ…!?」

 今度は勇者様が食いついた。

 地下墓地の入り口に掲げられていた看板との関連性を見出したのか、戦々恐々とした顔で。

 まぁちゃんはあっさりと疑問に答えてあげていた。

「この花はこの墓地に満ちる特殊な魔力と地場によって育つ花でな、いつ頃からあるのかは知らんが、もう何百年と昔から蔓延っているらしい。ついた名前が『勇者の花』」

「それがなんで、希望の残骸なんだ!?」

「いや、正式名称は勇者の花なんだけどな? 何故か皆、希望の残骸としか呼ばねーんだよ」

「私はむしろ、正式名称が別にあることを今になって初めて知りました」

「せっちゃんも、ですの」

 きょとんとした顔で首を傾げる女二人に、勇者様は胡乱な顔で。

「でも、ぴったりな別称だと思いません?」

「リアンカ、君は今度罰当たりという言葉の意味について深く考えて見てくれ」

 勇者様は深く深く溜息をついて、ついには耳を塞いでしまうのでした。



「………俺は絶対に、こんな末路だけは選ばない」


 そう、決意を込めた声で呟きを漏らしながら。

 勇者様は強く強く、何かの誓いを固められた様でした。





【勇者の花】


 魔王城の地下、勇者専用霊園に生える特殊な霊薬草。

 乾燥させて粉末となったものは状態異常解除の薬になる。

 また、調合次第で万能薬の材料にも毒の材料にもなる。


 装備効果:致死攻撃を一度だけ防いでくれる。

 アイテム効果:死後一時間以内の死者を一度だけ復活させられる。


 ………という、かなり反則のアイテムなのに別名【希望の残骸】

 由来は勇者の墓にしか咲かないから。




【勇者様のドキドキ☆魔王城体験】

 初めての訪問なのに、雑用ばかりさせられて働いてしかいない。

 しかも王道の謁見の間とか広間とか玉座の間には足を踏み入れていない。

 勇者様が踏み入ったのは病室と問題多きショートカットルート、

 それから勇者様は知らなかったけれど秘密の通路少々。

 後は宝物庫と地下墓地だけという。

 中々に王道を外した初訪問でした。戦いすらしてないし。


 訪問日数:10日

 初めてのお宅訪問にしちゃやけに長い。



 勇者様の初魔王城訪問はこれで終了となります。

 お付き合い、有難うございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 先代様? 迂闊な一言はせっちゃんを某ロり女魔王様みたいな事にしてしまいかねませんよ?w [気になる点] >死後一時間以内の使者 死者、ですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ