46.あのとき、戦場で(事故発生)
リアンカも勇者様も知らないサイドストーリー(笑)
短めですが、視点は兵士Bことベルガくんでお送りします。
凄まじい光と、酷い音。
もたらされた混乱の中で、俺は自分の位置を見失い、彷徨った。
「勇者様は、勇者様はどうされたんだ…!?」
敵の首魁と渡り合っていた勇者様。
ろくな助力もできないまま、引き離されてしまっていたが…
この混乱では、足止めに攻撃してきた魔族達も、俺の位置は分かるまい。
自分で自分の場所も見失ってはいるが。
それでも何とか勇者様の戦いの助力になればと。
俺は慎重に、予想を立てた方向へと歩を向けた。
勇者様と、山羊の化物が闘っていた場所へと向けて。
酷い爆風に、吹き飛ばされそうになった。
なんだ、今のは…!?
光に潰れて、目で確認することもできない。
だが、何かがあったことに間違いはない。
俺はそれを確かめようと、足を更に爆風の中心地らしき方へ向けようとするが…
「………っ!?」
なんだか柔らかくて弾力があって、大きな物に躓いた。
「なんだ、こんな場所で…!」
先程までの光景を覚えている限りでは、障害物の類はすでに吹き飛ばされて地面は更地状態。
………だったはず、だよな。
俺は得体の知れない思いで、ゆっくりとかがむ。
目が利かないので、手探り状態で障害物の正体を探ろうとした。
感触的に、生き物っぽかった気がする。
もしかして死体かと一瞬思ったが…その時、手に触れる物。
それは、とても柔らかくて弾力があって、温かかった。
死体じゃない…!
これは、確実に生きてる…!!
もしや負傷者かと、俺は慌てて両手を使って手触りを確かめるが…
「……………」
………えーと、なんでこんなに柔らかいんだろうか。
なんだか、直に諸肌を触っているような…
いや、まさか。まさか、な。
そんなわけ、ないよな…?
……………誰か、そんなわけ無いと笑い飛ばしてくれ。
俺は今、騎士にあるまじき事をしている気がする。
「なんで、なんで戦場に…!」
何で戦場に、柔肌をあられもなく曝した若い娘さんがいるんだよ…!!
もう1度、言おう。
俺は今、騎士にあるまじき事をしている。←もはや断定。
→ ベルガにラッキースケベの神が微笑みかけた。
ふにって! ふにって…!!
戦場にあり得ない手触りの感触が、この手に…!
誰か、俺を殺してくれ…。
やがて光が消えて、暫し。
徐々に視界が開けてきたんだが…。
「……………Oh Jesus」
神様、俺を殴ってください…。
相手が負傷者であり、これが不可抗力であることを切に願った。
なのにうっすら回復した視界に、赤い色は微塵も見えない。
むしろ、うっすらと色づいた肌色が見える。
肌 色 が 見 え る !!
瑞々しくも張りのある、滑らかな白い肌。
うら若き乙女の裸体が、そこにあった。
しかも明らかに、俺の手が…!
俺の手が、あらぬところを掴んでいるんだが…!!
俺は、どうしたらいい?
この場合、どうするべきだ…!?
1.もっと触ってみる。
2.見なかったふりをして逃げる。
3.人命救助と題目掲げて医療テントに運ぶ。
4.家に連れ帰る。←拉致。
………いやいや、1と2は駄目だろう。
それは駄目だろう、騎士として。
あと4も馬鹿だろう、俺。
ここは考えるまでもなく、3以外にあるか?
それ以外を選ぶ時は、俺の騎士生命が終わる時だ。
俺は自分のマントを外して、ぼやけた視界の中で乙女の体を隠そうと…
マントを乙女の体に巻き付けた瞬間、延髄に凄まじい衝撃がきた。
「………ッ」
声も出せ無いどころか、一瞬息が止まった。
体の自由が効かない。
俺はどうしようもなく重くなっていく体に逆らうことができず、顔面から地面へと。
視界と同じくぼやけ、薄れていく意識。
「………ッたく、油断も隙もねーな」
朧な中に、どこかで聞いた若い男の声。
確かに聞いたのに、その誰かがなんと言っているのか飲み込めない。
働かない頭は、そのまま意識と一緒に深いところに沈んでいった。
目を覚ました時には乙女の姿も、声の主もなく。
俺は倒れているところを医療テントへ担ぎ込まれたらしい。
あのできごとは夢だったんだろうか。幻か。
どちらにしろ、あり得ない出来事だった。
「………夢かな」
だけどこの手に残る、この生々しい感触は何だろう…。
夢や幻…本当にそうなら、笑い飛ばせるんだが。
あれは本当に、ラッキーで済ませて笑えるような夢だったのか?
「…………………かわいかったな」
視界は殆ど潰れていたし、意識は直ぐに消え失せたが。
それでも覚えている限り、辛うじて確認できた乙女の顔は…
そして、計らずしも触ってしまった、あの肉体は。
記憶が確かなら、物凄く好みだった気がする。
それだけは確かなことだと、つい溜息が。
もしも本当にあんな女性がいるのなら…
会いたいな。
実際に会おうものなら凄まじく気まずいに決まっている。
だけどそんなことには頭がいかないあたり、馬鹿なんだが。
それでも朧に翳んだ意識の中の、眠るあの女に思いが焦がれた。
――兵士B、ベルガは、肝心の乙女最大の特徴…
………黒山羊の部分が全く目に入っていなかった。
→ ラッキースケベの神
外見はいい年した爺さん。
愛読書は十代向けの恋愛小説。特にラブコメを好む。




