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39.例えば、そう、ばふぉめっと

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 全力で嫌がる美少女(実年齢三十路越え)は、しかし無情にまぁちゃんに押し切られた。

「勇者さんに斬り殺されたらどうしてくれるんですか…」

「大丈夫だって、勇者もグルなんだから。それに本当にやるわけじゃない。お前はどっしり堂々と構えているだけで、戦わなくて良いぜ」

「それでどう役割を果たすんですか…? 私、倒されないといけないんですよね?」

「そこが俺の腕の見せ所だ。安心してどんと構えてろ」

「女の子にどっしりとかどんとか…陛下、余所では言わないでくださいね。無神経男のレッテル貼られますから。それでも顔が良いので許されちゃいそうな気がして、殊更心配です」

「相手はちゃんと選んでるって」

「選んで、私なのですね…」

 ラーラお姉ちゃんは今にも泣きそうな情けない顔。

 あとちょっと突っついたら泣くっていうギリギリの顔で。

 まぁちゃん、虐めすぎたら駄目だよ! ラーラお姉ちゃん、本気で泣くから!

 本当に泣かしたらただのいじめっ子になっちゃう!

 必死に目配せを送ったら、まぁちゃんが分かってると言わんばかりに頷いた。

 分かっていて、遊んでるの?


 まぁちゃんの求めに従い、ラーラお姉ちゃんは渋々ながら変型を承諾した。

 本気で嫌なのか、人目を気にしながら、羞恥に頬を染めている。

「こんなはしたない姿を大勢の前に晒さないといけないなんて…」

「はしたないの?」

「はしたないのよ…こんな、本来なら命の危機が迫った時、最後の手段として使うべき手なのに。大勢に晒すようなものじゃないのよ」

「ふぅん…まぁちゃんの親御さんは平気そうだったけど」

「あの方は別よ。元々使う機会なんて皆無も同然だし、生命の危機なんて滅多にない方だもの。変化しても道楽で済むわ」

「他の魔族さんと何が違うのか分からない…」

「私達は身の回りに使う機会が、実際にあるから。だから余計になるべくなら変化したくない、見せたくないと思うのよ」

「…乙女の恥じらい的な?」

「そんな感じね」

 説明を終え、ラーラお姉ちゃんは深い溜息。

 話している内に、踏ん切りが付いたのでしょう。

 ようやっと変化する気になったことを知ってか、衆目も動き出しました。

 皆でじわじわ距離を取り、広いスペースがラーラお姉ちゃんを中心に、ぽっかりと。

 黒山羊一門の変化姿は大きいって聞いていたけど…え、そんなに場所いるの?

 皆が予想以上に場所を空けるので、私も怖じ気づきそうになりました。

 こんなにちっちゃなラーラお姉ちゃんが…こんなに、ちっちゃいのに。

 ……そんなに大きくなると言うんでしょうか…信じられません。


 →大きく、なりました。

 え、なにこの巨大な………ヤギ。


 第2形態の黒山羊一門さんは、見た目がまんま山羊でした。

 雄アイベックスの様に猛々しい、角。

 横に引き延ばされた瞳孔。

 長毛の黒い毛はふかふかと全身を覆い…

 ………うん、まんま山羊だ。黒山羊だ。

 ただし、その大きさは大きいと言うにもあまりある。

 顎髭の長さが私の身長と同程度って、どういう事ですか?

 自然界のただの山羊で、この巨体はあり得ない。

 一見して明らかに魔物か魔獣だと見間違えるでしょう。

 しかしてその実態は、魔族。

 …魔物や魔獣よりもタチ悪い。


 あ、ちなみに黒山羊一門の魔族さんは男女どっちも角が生えています。

 男の人は湾曲した山羊角で、女の人は真っ直ぐな山羊角。

 男女で角の形状が違うと知らなかった頃は、別々の山羊さんだと信じていました。

 そんな無邪気な頃があったのです。


 黒山羊一門は全員が死霊術の使い手で、黒い外見に似合いの邪悪な戦い方をする方々です。

 普段はみんな温厚で、知的なおっとりさんの集団なのに…

 (→りっちゃんみたいに過度のストレスに曝されている人は除く)。

 ちなみに魔族には黒山羊一門と好敵手の間柄に位置する白山羊一門という人達もいます。

 其方は男性が真っ直ぐな角で女性が湾曲した角なので、大変ややこしいことこの上ありません。

 あの人達も、こんな感じの白山羊さんに変身するのかなー…

 もっさりと長い毛を震わせ、山羊が口を開く。

「これでよろしいのですか…?」

「いや、全然駄目だな」

 おっと、まさかのまぁちゃんから駄目出しが。

 まぁちゃん、自分で指名しておいて…。

「第2形態じゃなくて、第3形態か第4形態を指定したはずだぞ?」

「そんな! あんな破廉恥な姿を、私になれと…!?」

「やれ」

 …と思ったら、不満は指定とは違う姿にありましたか。

 というか、第2形態で山羊なら、第3、第4ってどんな…?

 私が疑問に思う横で、大きな山羊さんが山羊姿のまま、泣きそうな声で抗議する。

 あ、山羊でも喋れるんだ…。

「お嫁に行けなくなったらどうするんですかー…」

「そん時は俺がきっちり立派で誠実な婿を世話してやるよ。ってか、あの形態晒したってだけで嫁取り拒否する様なみみっちい男に嫁ぐ必要、ナシ! そんくらいの気持ちでいろ」

「他人事だと思ってますね…!?」

「まあ、他人事ではある。だけどお前なら、その気になりゃ愛の奴隷の5~6人は手堅く捕まえられるだろう。一般的な層からマニアックな層まで、幅広く」

「全然嬉しくありません…愛の奴隷って、何ですか……!」

 説得には、また少し時間がかかりそうだった。

 でも本当、こんなに嫌がる更なる変化って、どんな感じなんだろう…? 


 答えは、もう間もなく目の前に現れた。

 その姿を見た私は…思わず、叫んだ。


「 バ フ ォ メ ッ ト !」


 そこにはまさにそれ、そのままの巨大な生き物がいた。

 第2形態の山羊さんよりも、更に大きなイキモノが。


 黒山羊一門さんの第3形態。

 それは山羊の頭に人の胴体。そして下半身も山羊。

 背中には黒い蝙蝠羽を生やし、人間の国の宗教画で描かれる悪魔そのものという感じで。

 額には逆さ五芒星じゃなくて黒山羊一門の紋章が。

 尻尾の先からは南洋に生息するという色鮮やかな毒蛇が。

 細部に宗教画の悪魔との差違が見えるけれど。

 それでも全体的に、パッと見て『悪魔』にしか見えない。

 ここまであからさまに、露骨にそれっぽい魔族さんはあまり見ない気がする…

 普段、黒山羊一門さんみたいに第2、第3の姿として見せていないだけかもだけど。

「どーだ? それっぽいだろ」

 得意げにそう言うまぁちゃん。

 その言葉通り、ラーラお姉ちゃんは大変貫禄溢れる中ボスに変身していた。

 だけど本人は…

「い、いやぁ…恥ずかしい……はしたない………み、見ないでぇ」

 涙するほどの恥じらいの真っ直中にいた。

 巨体を必死に屈めて小さくなって、自分の腕で肩を抱きしめている。

 堂々たる体躯で、何たる異様な姿。

 だけど、あー……うん、確かに上半身の露出凄いよね。あれは恥ずかしい。

「へ、陛下ぁ…服を着てもよろしいですかー……」

「駄目。迫力が半減どころか、滑稽で威厳も何もなくなる」

「や、役柄に沿う服なら………」

「髑髏と蛮族、どっちが良い?」

 それは、モチーフの話ですか、まぁちゃん。

 山羊の顔に絶望を浮かべ、ラーラお姉ちゃんが震え上がった。

「……………どっちも嫌ですぅ…」

 涙声の、山羊。

 潤む瞳の、山羊。

 そんな山羊を見上げて、私は思わず呟いた。

「というか、あのサイズに合う服がこの場にあるのー?」

 私の素朴な疑問に、2人の動きが止まった。


 協議の結果、間に合わせで作ったビキニ着用を許可することになりました。

 流石に女の恥じらいを知る身としては、今回は私もまぁちゃんを敵に回さざるを得ない。

 ラーラお姉ちゃん、私は今回に限り味方だからね!

 私の援護射撃の元、女としての主張をがんとして通すラーラお姉ちゃん。

 それにまぁちゃんが折れてくれたわけだけど。

 それでも許されたのはビキニだけ。

 ごめん、お姉ちゃん。

 私はこれ以上、力になれないようです。

 まぁちゃんも譲歩に譲歩を重ねてくれて、髑髏や蛮族の腰ミノは勘弁してくれた。

 それを幸運だと思い、この辺で妥協して下さい。

 私だったら、御免だけど。

「……………………くすん」

 ラーラお姉ちゃんは恥じらいでもじもじ、うるうる。

 大変凶悪なご面相になっていた。


 計画(シナリオ)では中ボスと勇者様が直接対決することになっているんだけど…

 そんなんで大丈夫ですか、お姉ちゃん?


 思わず不安になる私だけど、自信満々に大丈夫だと言ったのはまぁちゃんでした。

「リアンカ、俺に抜かりはないぞ」

「そう言っていても抜けるときには抜けると思うの」

「大丈夫だって。実際に2人が剣を買わすこともないだろ」

「…何でそんな、自信たっぷりに言えるの?」

「勇者とはちゃんと話が付いている」

「…どんな風に?」

 そこでまぁちゃんが説明してくれたのは、次のような内容でした。


「まず、中ボスまで至る迄には魔族の兵達を分厚く配置する」

「お祭り参加者だけの軍勢だから色々無節操だよね」

「…テンション高いのは良いことだろ。ま、それは置いておこう。大事なのは勇者が中ボスのところまで、勢い付けて一気に駆け抜けるって事だ」

「電光石火だね。でも、不自然じゃない?」

「そこはあらかじめ、勇者の登場を知った中ボスが一騎打ちを申し出たという形にしてだな」

「他の人間達が近寄れないよう、魔族さん達が食い止める、と」

「そういうことだ」

「でもそれで、肝心の中ボス戦をどうするの? ラーラお姉ちゃんは一騎打ちなんてタイプじゃないし、下手したらどっちか死ぬよ?」

 あんな内気な性格でも、魔族は魔族。

 怒らせようものなら………

「問題ない」

「いや、あると思うから聞いてるんだけど…」

「そこで俺の見せ場が来るわけだが、勇者が斬りかかった瞬間、誰だろうと問答無用で目が眩むレベルの光を炸裂させる」

「…それって、下手したら失明しない? 超至近距離の勇者様とラーラお姉ちゃんが」

「魔族にはあらかじめ防御の魔法をかけておく。勇者は…あの光の恩恵を思えば、絶対にノーダメージだ。断言できるな」

「断言されちゃったね、勇者様。でもまぁちゃんって光関係の魔法、そんなに得意だっけ」

「お前、魔王って肩書きの印象で偏ったイメージ持ってるだろう。そんなことないからな?」

「でもまぁちゃんって光魔法とか普段使わないよね?」

「まあ、闇の方が得意だから。ついつい使いやすい方を使うからな」

「それでなんで、今回は光なの?」

「その方が『勇者様のお力!』って感じするだろ」

「…なるほど。あくまで、特殊効果としての魔法を使うんだね」

「後それと、勇者が連れてた烏がお手伝いするって言ってくれたしな。アイツ、光属性だろ」

「へぇ………って、何ですと!?」

「ん? なんでそんなに驚く」

「だっだだだ、だって、あれ…!」

 太陽神の御使い烏なのに。

 なんでそんなもんが魔王に協力を。

 あの短い接触時間で、何があったというの。

「あ? ジャガバター分けてやったら懐いたぞ」

 まさかの食い気。

 いや、そもそも勇者様に従うようになったいきさつも食い気につられてだったし…

 あのカラスは、思った以上に食い意地が張っているようです。


 結局、まぁちゃんの説明では中ボスと勇者様接触に瞬間に強い光を炸裂させて、全てをうやむやにしてしまおうという。

 何とも行き当たりばったり感が溢れます。

 光が収まった瞬間、そこにあるのは…

 佇む勇者様の姿と、地面に大穴を開けた謎のクレーター…(まぁちゃん作)

 そして、姿が消えた中ボス。

 眩い光の攻撃で、塵も残さず四散したという設定で行くそうです。

 他にもリアリティを追求して様々な仕掛けを、とうきうき言っていましたが。

「…………私、爆裂四散するんですか…」

 勿論実際はそうはならないんでしょうけれど。

 そんな役所を振られて、ラーラお姉ちゃんは凄まじく嫌そうでした。




第2形態は、イメージとして

「さんびきのやぎのがらがらどん」の大きいがらがらどんを黒くした感じ。

第3形態はまんまバフォメット。

しかし胸があるのは女の子だから。

野郎だったら、胸は立派な胸板があるだけです。

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