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33.カラス狩り4 ~はらぺこ下僕~

11/24 誤字訂正


 とっつかまえたカラスは、見るも無惨な有様でした。

 流石に可哀想になり、ちょっとだけ反省。

 …5分くらい反省すれば、良いよね?

 それでも反省は3分で切り上げました。

 だって、負傷した皆さんの怪我を手当てをしなくては!

 (ナシェレットさんは除外)。


 カラスは大きすぎて怪我の手当が上手くできません。

 試しに「小さくなれないのか」と聞いてみました。

 ……物は試してみるものですね。

 カラスは見事に収縮し、標準サイズのカラスと同じ大きさになりました。

 それでも足が三本あるのが、ただのカラスではない証拠。

 首飾りも一体どういう仕組みなのか、カラスに合わせて縮んでしまいました。

 カラスをがっちり逃がしません。

 …私が首飾りを付けさせたから、命令権の優先順位は私にあります。

 次点は勇者様です。

 勇者様の魔力が内部で影響を及ぼし、従えやすくなっているみたいで。

 私の命令権は首飾りを外せば解除されますが、取り込まれた勇者様の魔力は…

 …魔力が帰ってこない代わりに、勇者様は新たな下僕を手に入れたのでしょうか。

 駄竜曰く、過剰に魔力を与えたことで簡易的に使役の儀式をなぞったらしく。

 代替儀式をしてしまったようなものだそうです。

 これで勇者様がカラスに名前を付けたら、形式的な儀式は終了。

 勇者様の命令権は定着し、ちゃんとした『使役契約』が結ばれるそうですが。

 わぁい、神獣の命令権手に入れちゃったよ…?

 …これ、喜ぶところですか?


 それがどこまで効力を発揮するかは、試してみないとわからないのですが。

 今、カラスは首飾りの呪いによって従順で素直な下僕と化しました。

 勇者様、使役契約を結ぶなら今ですよ?

 まあ、使役契約は服従契約よりは軽いので、形骸化しつつある部分も否めませんが。

 それでも捕まえられる下僕は捕まえておいた方がお得ですよ?


「だけど問題が1つありますよね」

「…1つだけか?」

「大きくて空を飛ぶ上に光属性なんて! ナシェレットさん、モロかぶりじゃないですか! いいえ、それだけでなく軽量化もできる分、ナシェレットさんより使い勝手良いかも!」

「そっちか! たった1つ思いついた問題が、それなのか!」

「だって、本当のことですし。どうします? こんなに被るんならナシェレットさん、用済み…じゃなくて、用無しじゃないですか。もう封印でもして埃積もるまで死蔵でもしときます?」

「相変わらず、駄竜に手厳しいな…。それは言い換える必要があったのか?」

「用済みじゃ、何か役に立つことがあったみたいじゃないですか」

「1つもなかった、ことはないと思うんだが」

「気分の問題です」

「リアンカ…今回の件に関しては役に立ったし、知識面では頼る部分もあるだろうに」

 仕方がない奴とでも言いたそうな、呆れ眼。

 勇者様は私の頭を軽く小突いて、小さく息をつきました。



 小さく普通のカラスみたいになった、三本足の神獣。

 こうなるとますます弱者に見えて、非道な行いはし難い気がします。

 勇者様は苛立ちをぶつけることもできず、怒りの行き場を無くして呻っておいでですが。

 まあ、気にすることはないでしょう。

 さて、安心して傷の手当てといきましょう。


 1番の重傷者は、誰がなんと言おうと文句なしにカラスでした。


「えーと…これで大丈夫かな?」

 間接的な犯人として責任を感じながら、カラスの破裂した胸に包帯を巻いていく。

 驚いたことに、縫合していない胸は既に傷が塞がりかけていて。

 でも内部はまだ損傷が激しいらしく、そっと触れるだけでカラスは痛そうに藻掻く。

 傷が既に繋がっているので、胸に湿布剤を張り、包帯を巻くくらいしかすることがない。

 あ、これも忘れちゃ駄目だった。

「ほーらカラスさん、解毒剤だよ」

 一応、アレの名目は「毒」なので。

 これ以上内部を侵略されないよう、私は無理矢理カラスの嘴に解毒剤を突っ込みました。

 暴れるカラスは小さいお陰で、押さえ込むのも楽々でした。


「よし、治療完了!」

 うん、と満足に頷いて。

 私は白い包帯まみれになったカラスを両手で持ち上げ、空に掲げて見回しました。

 よし、どこにも治療漏れはありませんね。異常なしですね?

 眺め倒す私に、カラスがきょとんと不思議そうな目を向けてきました。

 一連の治療行為は痛みをもたらすこともありましたが…

 …カラスの方も、私に悪意がないことを察したのか。 

 それとも治療行為を理解する頭があったのでしょうか。

 治療の途中から大人しくされるままだったカラス。

 今は小さく軽く、私の頭を嘴でコツコツと突いてきます。

 全然痛くないけど、なんだろ?


『ありがと』

「…って、うわぁ! 喋った!?」


 喋った喋った喋りました!

 カラスが、舌っ足らず気味に!

 まるで幼子みたいな声で!


 ……………ああ、なんかこの感覚、懐かしい覚えが。


 何となくですが、幼少期。

 ロロイ達相手に似たような経験をした記憶が…

 …いや、あの時はこんなに驚かず、驚異のスルー力で受け入れていたけれど。

 でもカラスって、ただでさえ頭良いし。

 ましてやこのカラスは神獣。

 お喋りくらい、するのかな…?


 …と、思いましたが。

 私の隣で勇者様が度肝を抜かれているので、多分珍しい自体なのだと思います。

 ナシェレットさんは、とっても微妙な顔で。

「…気位の高い神獣が、自ら口を開くとは…奇特な事態、だぴょん」

「あ、ナシェレットさん。カラスの捕獲には成功したから、もう無理に語尾を付けないで喋っても良いですよ」

 …おおう。竜が何とも言えない顔を…。


「 そ れ を 早 く 言 え っ!!」


 怒鳴り散らす竜の言葉は聞き流すけれど。

 さり気なく、時々「ぴょん」を付けそうになっていることに、耳ざとく気付きました。

「ナシェレットさんも、実は何気なく気に入ってたんじゃないですか? ぴょん」

「こ、こ、こ…」

「にわとり?」

「こ、この小娘がぁぁぁあああああああああっっ」

「あ、キレた」

「リアンカ! 面倒だから無駄に挑発・刺激するのは止めてくれ!」

 竜が私に襲いかかり、それを庇って剣で弾く勇者様。

 お疲れ気味の顔と仕草に、ほんの少し胸が痛みました。

 余計なお仕事、増やして済みませーん。←反省の色が見えない。



 首飾りのお陰か、はたまた生来の気質なのか。

 カラスは予想外に素直な良い子でした。

 小さいと、意外に可愛い。

 うん、こっちもいきなり召喚して変な方向にひた走ったけど。

 そう言えば勇者様を啄むカラスに、「止めてください」とか言わなかった気がする。

 あれ、私達も結構悪かった…のかな?


『あのね、あのね、おいちかったの』

「そう。そんなに勇者様が美味しかったの?」

「俺の、魔力がな。まるで血肉を食らわれたように言わないでくれ…」

 どうやらこのカラスは、こんな成鳥みたいな図体でまだまだ神獣としては幼いらしく。

 その精神も幼さ全開で、美味しい物を前に見境が無くなってしまっていたようです。

 我を忘れて貪りたくなる程、勇者様の魔力が神聖な光の力に充ち満ちていたとも言う。

 今は反省したのか、私達に叱られたと思ったのか。

 ちょっとだけ気まずそうにしながら、反省を見せてくれました。

『ご、ごめんね、ごめんね』

「もう、良いよ…」

 こんな健気に謝られては、仕方ないですよね。

 勇者様、女子供に優しい紳士だし。

 勇者様はお怒りを完全に納められ、諦めた顔でカラスの羽を撫でてやります。

 勇者様の魔力を大量に取り込んだからか、勇者様に撫でられるのが格別に気持ちよいらしく。

 猫だったら喉を鳴らしているだろうな、という勢いでカラスは勇者様に懐いてしまいました。


『おいち。おいち。だいすきっ』


 理由:美味しいから。


 勇者様、大変! 狙われてるよ!

 ご飯として!!



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