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32.カラス狩り3 ~勇者様は美味しいらしい~

 結論を延べますと、ちゃんと召喚できました。

 現在、カラス来てます。

 目の前に来てます。

 超至近距離です。

 そして私は瓶を投げつけ、カラスに濃硫酸をぶちまけました。

 …が、光の熱量で蒸発された!

 勇者様は諸事情で戦えません。

 詳しく言うなら、光に寄ってきたカラスに全身でのし掛かられ、潰れかけています。


 滅茶苦茶な迫力で、正直怯むんですけど…

 カラスは神獣という肩書きに相応しく、凄まじい威容でした。

 具体的に言うと、アスパラ(雑魚)よりでっかいです。

 全長、4m超えてると思います。

 そんなカラスにのし掛かられて、一見無傷の勇者様。

 …やっぱり、人間止めておられるのでは。


 カラスはやっぱり、勇者様の増幅された光に惹き付けられて寄ってきたのでしょう。

 その鋭い爪付きの足で勇者様を押さえ込み、頻りに何かを啄む仕草。

 傍目にはまるで鳥さんが水でも飲んでいるような仕草だけど…

 啄まれているのは、勇者様です。

 今のところ無傷ですけど、グロの予感。

 流血注意の札を出すべきでしょうか…。


「拙いな…勇者の魔力が、食われている………ぴょん」


 あ、啄まれているのは魔力ですか、そうですか。

 どうやら、流血の危機は免れ…って、危機自体は去ってませんね。

 魔力を奪われ、枯渇したら勇者様も死ぬんじゃないですか?

 種族の枠を超え、超人と呼ばれる類の生物が強かったり頑強だったりするのは、無尽蔵の魔力を秘めているから。

 無意識的に魔力で身体強化を行っているのだと、前にまぁちゃんから聞いたことがあります。

 『勇者も、ありゃその類だな』と、そう言っていたんです。

 そんな勇者様の魔力が、ギリギリまで奪われたら…

 ………あ、やっぱり死ぬかも。

 少なくとも、カラスの重量でプチッと行くか、爪が刺さってグサッと行くか。

 もしくは嘴が…

 …まあ、その程度の違いですが、死因がどうあれ結果は同じですね。

 うん、助けないと。


「おい、こら駄竜。行きなさいよ」

「誰が駄竜だ…だぴょん」

「…今なら服従の制約から抜け出せるとか考えていない? 勇者様の死で、開放されようとか」

「……………」

「……見殺しにするつもりなんだー…最低(サイッテー)

 久々に軽蔑の目で貶んでも、竜は顔色すら変えない。

 私の存在なんて、微々たる物。

 所詮、力量で敵うわけはなし。

 黙殺すれば、それで済むと思っているわね…?

「…せっちゃんに言い付けてやる」

「!!?」

 あ、ぐりっと振り向いた。

 そのまま牙を剥いて、私を威嚇してくるけれど…

「私に何かあれば、まぁちゃんとせっちゃんが草の根分けてでも下手人捜しに血道を上げて、犯人を地獄送りにしてくれるけど?」

 ああ、それとお父さんとロロイ、リリフの名前も加えなきゃ。

 にっこり涼やかに微笑を浮かべ、じっとナシェレットさんを見る。

 ああ、凄い。

 汗なんて掻かない筈の竜が、だらだらと冷や汗を…

 脂汗かも知れない。

「…で? どうするの?」

 口端を意図して吊り上げ、尋ねてみた。


 ナシェレットさんが、流星みたいな勢いで飛び出していった。


 向かう先は、勿論、カラスの土手っ腹、だよね?


 駄竜渾身のタックルは、見事命中!

 勢いと衝撃で、カラスがぐらりと体勢を崩し…

 ころんと、見た目だけは可愛らしく後ろに転んだ。


 そして、勇者様が自由を得る。

 魔力を奪われすぎたのか、ちょっとふらついたけれど。

 それでも足はしっかりと立ち、腕は強く剣を握りしめていて。

 目には消えない闘志の光。

 恨み辛みもちょい込めて。

 勇者様が、転んでお腹を上にした鳥を、ぎろっと睨んだ。


 勇者様、やる気バッチリですね。

 むしろ今までで一番、気力が充実しているかも知れない。

 やっぱり恨み辛みってエネルギー高いんだろーなあ。

 取り敢えず、私としては…

 …うん。取り敢えず勇者様に、魔力回復のお薬でも届けましょうか。効果、遅効性だけど。


 てこてことここー、と勇者様に駆け寄ったら。

 キレた目をした勇者様に、がしっと腕を捕まれた。

 え、何かまずいこと、しましたか…!?

「リアンカ……あのボケ烏に嫌に効く薬を何か持っていないか?」

 わあ、素敵にキレてるー…。

 良かった。標的(ターゲット)は私ではなかったようで。

 ですがボケ烏ですか…勇者様、ツッコミですからねぇ。

 ボケに容赦しちゃ、駄目ですよね?

「そう言うことなら、オススメはアスパラ皇帝の部屋で勇者様にお渡しした薬が適任かと」

「薬…? 毒だろう。物凄くあからさまな」

「実はあれ、魔王(まぁちゃん)でも麻痺って2~3時間動けなく…」

「……………」

 勇者様に、正気を疑うような目で見られた。

「リアンカ…俺の記憶が確かなら、まぁ殿に効く睡眠薬で、人間には致死毒だと言っていなかったか? それもとても強力な」

「ええ、そうですね。吸い込んだら肺腑から腐って溶ける系の」

「………っ!!?」

 あ、勇者様が盛大に噴いた。

 もう、肺の中の空気全部絞り出す感じで。

 苦しそうに咳き込み、目は涙目。

 さっきまでのキレた目も、どこへやら。

 苦しそうに呻いて、私の肩をがっしり掴む。

「そこまで酷い薬だったのか!?」

「はい、実は」

「そんな物を、君は持ち歩いて…!?」

「実は今も持っていますが」

「うわー…」

 おお、勇者様どん引き。

 物理的にもどん引きですよ。

 私から距離を取り、恐れの混じった目で凝視されています。

「それで言うなら、あの毒は…」

「睡眠薬の効果に準拠するなら、人間はえらいことになった末に落命しそうな代物ですが」

「な、なんて物を、君は人に渡すんだ…!」

 危ない危ないと連呼して、それから勇者様は。


 遠投のポーズで、躊躇いなくカラスに毒の薬瓶を投げつけた。

 

 ああ、瓶が勿体ない…。

 あの手の薬を入れても耐える特殊容器、あまり数がないのに。

 あれ一本作るのに、結構な労力がかかるんですけどねー。

 でも、まあ、仕方がないのかな。

 謎の材質でできた(一見)硝子瓶は、カラスにぶち当たって粉々に砕け散った。


 そして、気の狂いそうなカラスの悲鳴。


 濃硫酸をも蒸発させて、無効化してくれたあのカラス。

 そのカラスの胸が、滴る血潮で赤く染まった。

 効果の程は凄まじいことになっています。

 …あれ? 私、もしかしてとんでもない兵器量産してた?

 え、この製法封印した方が良い?

 なんで内側から藻掻き苦しむんじゃなく、肉体そのものに損傷を負っているんでしょう?

 アレ、毒の筈なんだけどなあ。

 あの毒薬の瓶があと12本あるなんて、とても言えない気がしました。


 でも言えない代わりに、勇者様にトス!

 謎の薬瓶は勇者様の手に投げ渡され、物騒な薬のトスという状況に混乱した勇者様。

 勢い、アタック!とばかりにカラスに遠投。

 勢いと速度の乗ったそれは、カラスをバリバリ虐げる。

「まだ持ってたのか!? 更に未だあるのか! 何本持っているんだ!」

「大釜煮て作ったので、結構」

「お前は一体、どこの魔女だ!」

「失礼な! 私には自由に扱える魔力なんてないのに!」

「そこか! 論点ずれてないか!?」

「私自身は魔女よりも質が悪いと自負しております」

「そんな自覚が必要な、一体何をしたって言うんだ!?」

「………………………………………………勇者様、聞きたい?」

「空いた間が怖すぎる!!」

 勇者様は恐怖を振り払うように、更に遠投。

 驚異の命中率で、カラスの目玉に命中! ありゃ痛い。

 半狂乱どころか立派な狂乱ぶりで、カラスが乱心あそばした。

 押さえ込んでいたナシェレットさんに、かかる負荷が大増量。

 頑張れ、ナシェレットさん! 

 負けるな、ナシェレットさん!

 貴方のことをこんなに真面目に応援するのは、この世に生まれて初めてですよ!


「さて、それでは勇者様」

「なんだろうか」

「トドメの時間です」

「随分と直球だな!」

 勇者様が驚きの顔をするのも構わず、私は勇者様にまぁちゃんようの痺れ薬を渡した。

「今なら視界も効かず、胸に傷を負い、カラスはボコにし放題ですよ」

「リアンカ、女の子がボコとか言っちゃ駄目だ」

「あ、ごめんなさい」

 ぺこりと頭を下げて、そして薬を押しつけた。

 ボコ云々よりもずっと、私の言動は酷い気がするんだけど…

 勇者様、気付かないのかなぁ…。


 存外素直な勇者様はカラスに向かって駆けだして。

 そして私はそんな勇者様を囮に背後からカラスへと忍び寄った。


 勇者様が構えた剣で、カラスをずばーっと殺っちゃおうとした刹那。

 私は背後から踊りかかり、その首へと奇襲をかける。

 魔族のアイテムは、相手が誰であろうと通用する。

 例え、どんなサイズの相手でも。

 相手に合わせてサイズの自動調整くらいはアイテムが勝手にしてくれる。

 だから。


 私はカラスの首を、鎖で締め上げる。

 赤い石の連なった、首飾りの金鎖で。

 自然と鳥に合わせて、広がる鎖の輪。

 太い首を一周し、首飾りの留め具が勝手にかちゃりと繋がった。


 私の奇襲に勇者様は目を見開き…勢い余って、前方にずっ転ける。

 ぼふっと。

 ぼふっと、カラスのふかふか柔らかい…

 …けれど、今は血まみれグロ注意/中身がはみ出しそうな予感…な胸に突っ込んで。

 赤く染まった血染めの羽毛に、勇者様の体は受け止められた。

 酷い結果だった。


「……この怒りは、一体どこにぶつければ…」


 勇者様が、何か怖いことを言っていました。

 私はすっと目を逸らし、無言でナシェレットさんを指差すことしかできませんでした。




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