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31.カラス狩り2 ~鏡と首飾り~

 ナシェレットさんは私達に対し、偉そうに言いました。

「今から所持品検査を始める…ぴょん」

「語尾をスムーズに言えるようになってから出直してください」

「そんなことを言うのであれば、本当に戻るが良いのか?」

「そうしたら、永遠に素敵な語尾とお付き合いすることになるね」

 偉大な竜は、がっくりと項垂れた。

 うふふ…私に口で勝とうだなんて、3年早いのです。

「それで、なんだ? 所持品に何か?」

「使える物がないか確認する…ぴょん。良いから出す、ぴょん」

 問答無用とばかり、ナシェレットさんは例の蜥蜴人間もどきに姿を変えて。

 そして私達の荷物を強奪してきました。

 流石に体格差云々+元々の力量差は無視できません。

 竜はあっさりと、私と勇者様から荷物を奪い取りました。

「ああっ 危険な薬も入っているのに!」

 蜥蜴の肩が、びくっと震えた。


 荷物をごそごそ漁られた結果が出ました。

 竜だか蜥蜴だか何なんだかなナシェレットさんは、私達に2つのアイテムを提示してきます。

 それは、私達がエルフの迷宮で手に入れた鏡と首飾りでした。

 ええ、例のあれです。

 禍々しいまでに邪悪な得体の知れない首飾りと、勇者様が保管していた神々しい不思議な鏡。

 2つを一緒に置かれると、混沌という言葉が思い浮かびました。

 むしろ鏡に映されて、首飾りの邪悪さが増したような…

「これは、有用だ…ぴょん」

 使えると竜の断言する、その根拠がわからない。

 2つのアイテムの内、禍々しい首飾りを竜は手に取った。

「貴様達はこれが何か知っている…かだぴょん」

「それは知らないけど、ナシェレットさんの存在が口調と同じくらいうざいことは知ってるよ」

「一々会話の応酬にかこつけて……な、なっち、を貶すのはやめろ、だぴょん」

「五月蝿い、なっち」

「ぐぅ…っ」

 ぎりぎりぎりぎりと、万力で石を締め付けるみたいな音がする。

 ああ、ナシェレットさんの歯軋りの音ですね。

 歯、悪くしても知らないよ?

 …竜も歯茎から血って出るのかなぁ?

「こ、これは魔族の伝統的ジョークグッズ、だぴょん。呼び方は魔族が適当に呼ぶので様々ある…ぴょん、が、貴様達には『奴隷の首輪』とでも言えば理解できるのではないか? ぴょん」

「あ………もしかして、これが?」

 うわあ…初めて見た。

 これが、噂に聞く…。


 魔族は力のある種族です。

 闇だの呪いだのには馬鹿みたいに高い耐性を持つ種族でもあります。

 そんな彼ら基準に作られたアイテムはとんでもない物ばかり。

 彼ら用に作られた物は、他の種族にはえげつない呪いのアイテムと化します。

 それが例え、魔族にとってはジョークグッズでも…。


 この首飾りは、最近は流行らないらしいんだけど…

 一昔前、人間の国々に流出して一世を風靡した呪いの道具です。

 この首飾り…『首輪』をはめられた者は、他者に絶対服従の従順な奴隷にされてしまいます。

 これが魔族なら、あっさり自力で外せるんですが…

 魔族ほど呪いに耐性のない他種族にとっては、一溜まりもなく。

 元々は魔族の罰ゲーム用。

 魔族にとっては深刻なアイテムでもなかったそうですが…。

 人間が『首輪』を乱用し、獣人や妖精種といった他種族を次々と奴隷化していくという最悪の結果を呼び込みました。

 魔族が大慌てで人間の国々まで回収に走った時には、既に遅く。

 人間の裏社会では、独自の製法で複製を作る手段を確立していたとか。

 お陰で魔族は時々、他の種族に頭が上がらない。

 まぁちゃんは賠償は済んでると言っていましたが…

 現在進行形で苦しんでいる人も、いるので。

 まぁちゃんの頭を悩ませる、難しい問題の1つになっています。


「全然見なくなったアイテムだと思ってました。私もそれと知って見るのは初めてかも」

「これが、そうなのか…。噂以上の禍々しさだが…これをあっさり自力で外せるという魔族は一体何なんだ?」

 魔族の謎すぎる生態に、勇者様は口元を引きつらせていました。

「でもこの首飾り、魔境でも10年くらい前に一掃されたって聞いてたんだけど」

 何故、こんなところに…

 魔物が持っていたってこともあるし、回収漏れ?

「一掃されたのが10年前って…遅くないか?」

「いや、魔境では本当にジョークグッズの扱いなんですよ。奴隷云々の問題が出た後も、制作者系列の一族が大慌てで説明書を改訂・配布したそうで」

「……説明書」

「はい、取り扱い説明書です」

 アイテム自体を見たことはありませんでしたが、取説を見たことはあります。

 中々に制作者の愛が溢れる、情熱的な取説でした。

「それで何故、改めて10年前なんて最近に根絶されたんだ?」

「それはだな」

 ずいっと首を突っ込んで、駄竜が会話に混じってきました。

 あれ、ナシェレットさん、理由知ってるの?

「噂だが、10年ばかり前、事件があったそうだ」

「事件、ですか…?」

 あれ、一気に興味が湧きましたよ。語尾も気になりません。

 10年前、10年前…

 何か首飾りにまつわる事件なんて、起きたかな?

 根絶を命じたのは確かまぁちゃんとそのご両親だったはず。

 何かあったのなら私の耳に入っていてもおかしくないんですけど…

「現魔王に言うことを聞かせようと、溺愛する従妹に『首輪』と枷を付け、質に取ることを企んだ者共がいたそうだ…ぴょん。勿論、その者共の計画は魔王の手によって即座に瓦解し、極刑となったそうだが…魔王の従妹は、力ない人間と聞く。そのような身で『首輪』など付けられては、自力で逃げられようはずもない、ぴょん。再犯を危惧し、魔王家は『首輪』の根絶を命じたという…ぴょん」


「「……………………」」


 うわあっ 思いっきり、私関係の事件だった!

 というか、全然身に覚えがないんですけど!?

 あれかな…私が気づかないよう、極秘裏に処理してたんじゃ…

 その場合、きっと父さん達も共犯よね…。

「だけど、それはさておき」

 『魔王の従妹』、『人間と聞く』って、いけしゃあしゃあと…。

 当の本人(わたし)を前に、この物言い。

 …此奴、まだ私の素性と名前、覚えてないな?

 私はにっこり、怒りに笑った。

 我ながら物騒な笑顔だった自覚はあります。

 気遣うように私を見ていた勇者様の足が、僅かに後ろに下がりました。

 あれあれー…? なんで勇者様、後退り?

 ああ、でも、まあいいや。

 今はそれより、優先事項があるよね…?


 弁解の必要性すら気付いていないだろう、駄竜。

 本当にナシェレットさんってば、駄竜なんだから…。

 私は問答無用で、ナシェレットさんに濃硫酸をぶっかけた。


 度肝を抜くのには成功したけれど、流石に竜は頑丈だった。

 ………ちっ




 呪いのアイテムは、闇に強い耐性があればはね除けられます。

 光の強い属性持ちも、ある程度は弾いてしまうそうですが…

 私が魔物から手に入れた首飾りは、禍々しさに見合った特一級の品のようで。

 ナシェレットさんが言うには、光属性に呪いが浸透しやすくなるよう、ある程度の細工を施せば神獣相手だろうと問題なく使えるそうで。

 ………そんな物騒な物が、なんであんな所に…。

 ちょっと手直しした位で神獣にも効くって、よっぽどですよ?

 こんな危険物、その辺に転がしておかないでほしい。

 勇者様が(おのの)いた様子で、そう呟いていました。

 私もそれには同感でした…。


 首飾りと、そして鏡。

 鏡は一種の魔鏡だそうで、首飾りほど曰くのあるアイテムではありませんでした。

 神職者が長い間身につけて、力を持った物だろうとのことです。

 だけど『鏡』というアイテムの特殊効果の一つに、『物を映す』『光を増幅する』『光を跳ね返す』という物があります。

 竜は、この効果を使ってカラスを誘き寄せると言いました。

 勇者様の強い光の力は、光の神の加護による物。

 神聖な力を帯び、神獣であるカラスに近しい物です。

 光の神のポジションによっては、もしかしたらカラスよりも強く神々しいかも知れません。

 そして太陽の化身であるカラスは、強く美しい光に惹かれるのだそうです。

 …多分という言葉が、さり気なく付いていましたけれど。

 それでも太陽の光に負けないくらい、強く神聖な光を使えばと。

 そう言うけれど、そんな光、滅多に手に入らないと思うんですが…

 そこで竜は言いました。

 この鏡を使い、勇者様の光を増幅すると。

 勇者様を鏡に映しながら駄竜が鏡の力を調節することで、カラスがふらふら惹き付けられずにはいられない光を作ると。

 そんなことができるのかと、疑問はありましたが。

 できるやれると言うのです。

 だからここは、一つやってみることにしました。

 先刻も言いましたが、挑戦するだけならただなんですから。


 一応、物質的な熱を放射しないように気をつけるとは言われましたが。

 それでも太陽に劣らない神聖な光という前評判ですから。

 そんな物を発生させて、火事でも起きては大変です。

 私達はナシェレットさんを扱き使い、荒野に移動しました。


 さて、カラスはちゃんと召喚できるでしょうか?





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