28.クリア!
私達が迷宮をクリアした時、とうに太陽は頭頂へと達しつつあり。
丁度良くも、お昼時でした。
何処かのお店に入ろうかとも思いましたが。
迷宮の中で入手した「野菜炒め」が沢山ありましたから。
迷宮出口近くの公園で、シートを広げて食べることにしました。
「ちょいちょい待つミミ! クリア証明出すミミ! 手続き終わる前に行くなだミミ~!!」
「あ、みぃちゃん」
「ミミッ君だミミ!!」
私達が迷宮の出口へと到達したとき。
其処には、箱がいました。
訂正、箱の頭のエルフ娘、みぃちゃんがいました。
相変わらずの、見事なマスコットキャラぶりです。
この撫でくり回したくなるミニマムサイズが、とっても和みます。
どうやら初挑戦の勇者様やむぅちゃんを気にかけて、出口で待っていてくれたようです。
あと、多分、まぁちゃんの従妹の私がいたので…
………諸々を考慮して、私達へ優先的に対応してくれることにしたのでしょう。
色々な意味で強い従兄がいると、特別待遇も毎度のことです。
だけど気を遣われて私が気に病まないように、みぃちゃんはそんな素振りを見せません。
こんなちみっこくてゼンマイ仕掛けのオモチャみたいなみぃちゃんだけど。
こっちに気を遣わせない対応を取る当たりは、やっぱり年長者。
100歳越えのお姉さんは、平素と変わらぬ様子で呆れた声を出しました。
「まったく…クロークに預けていた荷物、いらないミミか!?」
だから、私も気にした素振りを見せず、いつも通りに振る舞います。
「あれ、何か預けてたっけ」
「さあ? 覚えていないし、回収しなくても良いんじゃない?」
首を傾げたら、むぅちゃんも乗ってきた。
普段は物静かで大人しいけれど、むぅちゃんは付き合いも良い。
そして、そんな私達に勇者様のツッコミです。
「待て待て、お前達。あの馬鹿竜を預けっぱなしだ」
「「ああ、移動用アイテム!」」
「………せめて生き物だと認識してやらないか?」
お昼時だというのに、勇者様が黄昏れています。
黄昏れるなら夕方にしない、勇者様?
「それじゃあ、クリア証明の手続きをするミミ」
「お願いする」
「クリアタイムは…ふんふん、22時間39分ミミね。非常に優秀だミミ。評価は…アスパラ撃破◎、踏破率○、宝箱の回収率◎…流石に抜け目ないミミ…えーと、他に…」
出口側受付カウンターの席に着き、みぃちゃんは熱心に評価チェックを始めました。
私達から回収したメダリオンを調べつつ、ぶつぶつ呟いて記入用紙を埋めていきます。
私達が付けたメダリオン、あれ実はエルフご自慢の魔法具だったりします。
迷宮内部にいる挑戦者達を、律儀に1人1人監視なんてできません。
何時来るかも解らず、来たら来たで予め何人来るかも解らない挑戦者。
そんな人達を相手に、1人ずつ付きっきりで評価なんてできませんから。
事前にそれとは知らせず、評価する方法をエルフ達は編み出しました。
迷宮内にいる間は絶対に外せないメダリオンに、細工を施すという方法で。
このメダリオンに施された魔法が、身につけた挑戦者1人1人を監視役です。
その中には、迷宮内での行動の一部始終が記録されます。
そして出口受付にて、担当官がメダリオンの記録を解析して評価を付けていく訳です。
メダリオンを付けなければ迷宮には挑戦させてもらえません。
そしてメダリオンを付けたら、迷宮内では絶対に外れません。
この方法で評価を始めてから、1度の例外もなく正確な記録ができるようになったそうです。
そして自分の行動が正確に反映されてしまう為、挑戦者も己を顧みる様になりました。
2回目以降の挑戦者も迷宮内でのマナーが改善されるようになったとか。
安全安心平和的なご利用を、歓迎されています。
知らない人は、時々頭を抱えて後悔しているらしいけど。
そういう人は迷宮内で、一体何をやったんでしょうね?
「成績が出たミミ!」
みぃちゃんの声にはっと顔を上げ、私達は興味津々にカウンターに詰め寄りました。
「ち、ちかいミミ…」
「あ、ごめん」
我に返って、一歩引いて間を開けます。
「こほん。それじゃ、成績を発表するミミ」
「お願いします」
「Hardコース順路「グリーンアスパラマンの復讐」、挑戦者チーム「薬草狂い」の成績…」
「待て、なんだそのチーム名!?」
「迷宮内での振る舞いに応じて付けられる名前ミミ。……成績の発表、いらないミミか?」
「いや、すまない。続けてくれ…」
そう言う勇者様は、がっくりと付かれたように項垂れた。
愉快すぎる通称を付けられて、頭痛にでも苛まれたのでしょう。
深い溜息が1つ。
…やばい。本気でお疲れだ。
「それじゃあ続けるミミ。挑戦者チームの成績、総合評価A+だミミ! グラッチェ!」
「「「おお~!」」」
想像以上の好成績に、思わず声が出ます。
アスパラは全部倒したし、宝箱も開けまくりました。
迷宮クリアも何とか1日で終えることができて、これはと思いました。
成績も良かろうと内心期待していたのですが…期待、以上でした。
それもこれも全部、私以外の2人のお手柄でしょう!
血道を上げてアスパラ狩りに精を出してくれた勇者様と、むぅちゃんのお陰だよね!
私は嬉しくなって体がむずむずと疼くのを感じます。
衝動を我慢できず、今にも2人に飛び掛かってしまいそう。
私は2人の腕をしっかり掴み、言葉にできない感激のまま上下にぶんぶんと振り回しました。
「うわっ いきなり吃驚するなあ!」
「り、リアンカ、嬉しいの?」
「嬉しいの!」
そう、嬉しいんです!
楽しいと思ってしまえるほど、素敵で愉快で素晴らしい!
戦闘には全く関与していませんが、迷宮の探索は私も協力しました。
自分の力を合わせて迷宮をクリアした。
そしてその成績が素晴らしかったという結果に、胸の中が踊り出しそうです。
「ありがとうね、2人とも!」
「いや、むしろ俺の方がこっちの都合に付き合ってもらえてありがとう、なんだが」
「僕もそう。僕は僕の都合で頑張ったんだけど」
「それでも良いの! 嬉しいんです!」
確かに私は今回、自分の目的で迷宮に挑戦した訳じゃありません。
子供の命が、引いては一国の命運がかかっているので真剣に挑戦したつもりではあります。
でも自分としての目的ではありません。
それでも思った以上の好成績が出ると、嬉しいよね?
それが大事なお友達や、仲間と協力して得たものなら尚更に。
だから今、この時は。
私は素直に喜び、心の求めるままにはしゃぎ倒しました。
それはやっぱり、私がそうしたかったからです。
満面の笑み、自然と浮かびます。
声に喜色が混じり、どうしても高くなります。
笑い声、勝手にこぼれるよ。
そうするとやっぱり、2人も嬉しいし満更じゃないみたいで。
カウンターの向こう、みぃちゃんを1人ぼっちに置いてきぼりにして。
私達は大いに喜び、嬉しがり、笑いあいました。
「………くすん。いいもん。放置、慣れてるもん」
みぃちゃんの中の人の、割と本気な素の呟きも、今は私達の耳に入りませんでした。
そうして結構みぃちゃんをお待たせして。
落ち着いた私達に、みぃちゃんがそれぞれに紙を渡して来ました。
「それじゃコレがクリアの成績証明ミミ。あと通行許可書と、規約書、各施設の利用許可書、一部のアイテム使用許可書と…まあ、諸々の権利書、許可書、証明書ミミ。基本的に再発行はできないから大事に保管するミミ! 成績の上塗りや再発行をどうしてもという時は迷宮に再挑戦しないといけないミミよ」
「書類が膨大すぎて、許可の下りた行動範囲を把握に時間がかかりそうだな…」
「あ、心配無用ですよ、勇者様。説明書あるから大丈夫です」
「総合評価ごとに、アルフヘイムでの行動がどの程度許されるのか範囲分けして説明されているみたいだね。1人1つあるから勇者様も目を通したら?」
「ちなみに一々許可証だの証明書だの出さなくても、迷宮クリアの認定証を見せれば各種サービスは受けられるミミ。有効に使ってほしいミミ!」
そう言ってみぃちゃんが渡してきたのは、人数分の認定証。
手の平に収まる丸っこいデザインのそれは、ブローチの体裁を取っています。
クリアした迷宮のランクによって色が、成績によって意匠が変わる認定証。
見えるところに付けておきましょう!
目立つ部位に身につけないと、来訪者は不便を強いられることになります。
逆に言えば、見えるところに付けてさえ置けば成績に応じた扱いを受けられる。
それに迷宮の成績で扱いの左右される此処では、好成績であればあるほど一目置かれます。
私達のクリアしたこの成績は、有利に事を運んでくれるでしょう。
私達は早速ブローチを受け取り、目立つところに付けました。
勇者様は少し考えて、身につけた襟巻きに。
むぅちゃんはマント止めを外してそこに。
私は自分のドレスの開いた胸元に付けました。
ちなみに認定証の話ですが。
色はランクが低い方から順に赤銅色・銀色・金色・虹色。
刻まれた意匠は低い方から順に蛙・兎・猿・狐・猪・鹿・獅子となっています。
そして付属のチャームの数で+-がわかります。
この組み合わせで迷宮クリアの成績を表しているのです。
ちなみにまぁちゃんの認定証は特例で黒・竜の組み合わせだよ。
黒とか他に見たことないし、多分まぁちゃんだけなんだろーな…。
3人合わせて付けると、まるでおそろいのアクセサリですね。
金色の金属でできた認定証には、Aを表す鹿の意匠が刻まれています。
芸術に感性の鋭いエルフが作っただけあって、とても綺麗。
「皆の成績はA+だから、チャームを増やすことができるミミ。どの色にするミミ?」
そう言ってみぃちゃんが、私達にチャームの保管されているケースを開いて見せました。
中には色とりどりの雫型のチャーム。
デザインはみんな同じで、雫型にされた結晶が付いている。
どの色にしようかちょっと考えたけど、結局最後は無難な選択。
それぞれの瞳の色に合わせたチャームを選び取る。
認定証に付けて、私達は最後の確認を終えると受付を後に。
「またのご利用、お待ちしてるミミ~」
遠く離れる私達に、手を振ってくれる箱の姿がシュールだった。




