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ここは人類最前線4 ~カーバンクルの狩り祭~  作者: 小林晴幸
エルフの迷宮(またの名をアスパラ地獄)
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26.グリーンアスパラマンの復讐4

 あれから更に散策を重ね、月が煌々と空を照らす頃合いになってやっと。

 簡易休憩所に辿り着いた時には、中ボスの間へ挑む為の鍵をコンプリートしていました。

 迷宮も隅々まで行ったとは言いませんが、中々に良い具合で踏破しています。

 晩ご飯は歩きながら食べたので、お腹は満ちています。

 後はもう寝るだけですね。

 今回も勇者様は紳士故か、私が一緒にいることに躊躇いを見せましたけど…

 此処は簡易休憩所、他に休む場所などありません。

 そもそも何処に魔物がいるか分からない此処で、分散するのも駄目でしょう。

 勇者様の紳士ぶりを思うに、本人もそれは拒否するだろうし。

 いざという時、私1人が犠牲になる様な道を選ばないところが、勇者様たる所以ですね。

 弱者の安全を守る為なら、己の倫理観やら何やらに目を瞑る勇者様。

 貴方のそういうところ、尊敬できると思います。


 簡易休憩所に天幕を張り、勇者様の強固な主張によって間仕切りとなる布を張って。

 私達は夜を越す為、各々で就寝を決めました。

 男女に分かれた就寝という訳で、私1人なのがちょっと寂しいけれど。

 それでも疲れていたのはどうしようもなく。

 気付いたら、私達は夢も見ずにぐっすり就寝やっちゃってました。

 

 そうして朝、目覚めてみれば。

 男女を分ける間仕切りなど、用を成さない物と成り果て。

 私と勇者様とむぅちゃんの寝床の位置なんて関係なく。

 むしろ私が乱入かましたようで。

 私は勇者様とむぅちゃんの間に身を沈め、ぐっすり眠っていた様です。

 私がすっきり目を覚ました横で。

 同じく目覚めた勇者様が両手で頭を抱え、呻き声を上げていました。

 隣に寝ていた私を発見してから、ずっとです。

 むぅちゃんは慣れた様子で全く気にしていないんですけどね。

 いや、前々から職場で完徹した時、3人で雑魚寝ってことも結構あるし。

 勇者様1人が責任もないのに自責の念で悶えている横で。

 私とむぅちゃんは何事もなかった様に朝ご飯の支度を進めていました。

 

 当然の如く朝ご飯はその辺で捕まえた玉葱やら人参やらです。

 取れたて新鮮、とっても美味しゅうございました。 

 

 

 どうにかこうにか、朝を迎えました訳で。

 朝日が目に染みるね☆

 いや、実際に目に染みるんですけどね。

 結局、昨夜はかなり遅くまで歩き回って行動していました。

 睡眠がちょーっと足りないかな、と。

 そんなことを思うのは、昨日一日動き回って疲れているからでしょうか。

 普段だったら、仕事での徹夜1晩2晩は大したこと無いんですけど。

 限界5日迄なら、徹夜に耐える自信があります。

 その甲斐あってかふらふらになる程じゃありません。

 それでもペースに狂いを感じたか、むぅちゃんが眉間に皺を寄せています。

 私達を気遣って、勇者様も心配そうにしていました。

「やだな、勇者様。そんなに心配しないでも大丈夫ですよー」

「そうかな…。そうとは思えないんだが」

「大丈夫、大丈夫。ちょっと動き回れば、目もちゃんと覚めるから」

 勇者様をいなして、私達は今日の散策を開始しました。

「好成績でクリアする為にも、今日はお昼にはゴールしないと!」

「昼!? まだ、中ボス1部屋に大ボスも残っているのに!?」

「そんなに焦って攻略する必要、あるの?」

「勿論ですよー! できれば24時間以内にクリアしたいじゃないですか」

「その為には、結構無茶なペース配分で移動しないといけないような…」

「昨日、大分稼いだから多分大丈夫だと思いますよ?」

「その根拠のない楽観視が危険なんだ…」

「まあまあ、これもエリクサーを入手する為! 今日も張り切って頑張りましょう!」

 苦い顔をする勇者様の顔を小突き、むぅちゃんの手を引っ張って。

 私達は野菜の襲撃をいなしながら先を行きます。

 それでも道々で貴重な薬草類を見つけた時は、ついつい採取しちゃう訳で。

 そこは私とむぅちゃん、2人ともばっちり気があっています。

 勇者様だけが焦らなくて良いのかと、心配そうですが。

 これは職業病の様なものなので、どうか勘弁して下さい。



 午前中の内に、攻略法を確立した中ボス共も撃破して。

 私達はそこらに散らばるグリーンアスパラマン(雑魚)を倒して回りました。

 戦闘に参加していない私が、数を数えます。

 まぁちゃんならナイフで一撃☆のアスパラ。

 でも勇者様やむぅちゃんだと2~3回攻撃する必要があるみたいで。

 射程距離に入るなり向こうから躍りかかってくるアスパラ。

 緑ののっぽさん達を、ちょっと手間取りながらも倒して回りました。

 レアのホワイトアスパラメイジが隠れて中々出てこず、ちょっと苦労したけれど。


「107匹目! 其奴で107匹目だよ!」

「よしっ これで残すは大ボスだけだな!?」

「…イレギュラーがなければ、多分」

「止めろ。こんな土壇場になって不安を残す様な発言は…!」

「勇者様って、結構心配性だね」

「むぅちゃん、今頃気付いたの? 勇者様はかなり心配性だよ」

「陛下の過保護と張り合えるんじゃない?」

「まぁ殿と同一視されるのは不本意なんだが!? 俺は彼処まで突き抜けてないから!」

「知らぬは本人ばかりなり、と」

「いやいや、むぅちゃん。まぁちゃんの過保護はかなりのものだから。勇者様可哀想だよ」

「陛下に庇護され勇者様に心配されてと、両方の保護対象に入っているリアンカが言うんだ?」

「私だから言うんだよ。まぁちゃんの過保護は私とせっちゃん限定。それに比べて勇者様のは弱者であれば相応に守ろうとする『勇者様』の職業病みたいな物でしょ。一緒にしたら可哀想だよ」

「ふぅん? リアンカが言うんなら、そうなんだろうね」

「お前達、俺が大層居たたまれなくなるから、その話題はそこまでにしないか…?」


 げんなり疲れた様子の勇者様。

 おやおや、大ボス戦に挑む前にこんなに疲れさせちゃマズイですよね。

 私とむぅちゃんは素直に勇者様をいじるのを止めて、表面上大人しく。

 取り敢えず協力的に、迷宮クリアを目指しました。


 そして、今。

 とうとう大ボスの間へと到着した訳ですが。

「金の鍵と銀の鍵、それから胴の鍵がある訳ですが」

「どこの昔話だよ」

「ああ、それって泉の女神が出てくる奴だよね。貴方が落としたのはどれですかって」

「全部です」

「リアンカ、それは全てを失うパターンだ」

「実際に私の手の中に全てがある訳で、泉の女神はお呼びじゃありません」

 私は中ボスの懐から手に入れた3つの鍵を、大ボスの間の扉に…

「………どの鍵穴が、どの鍵だろう」

「……………さあ?」

 全く解らず、30分ばかり立ち往生する羽目になりました。


 全ての鍵穴と鍵を確かめて見た訳ですが。

 3つの鍵を3つとも同時に回さないと駄目なんて面倒この上ありません。

 しかも間違えたら鍵穴が10分塞がるって、どんな嫌がらせですか。

 きっと、エルフの嫌がらせなんでしょうね…。

 後でみぃちゃんの箱に落書きしてやる。


 暗い情念を燃やしながら、私達は大ボスの間の扉を開けました。



 其処に、待ち受けていたのは…

 そう、大ボス。

 大ボスです。

 つまるところ、グリーンアスパラの親玉がいる訳で…


 その全長は、見上げるほど高く。

 具体的に言うなら、縦10m。横幅4m。

 見上げる程に巨大な…って、勇者様って巨大な敵に何か縁でもあるんでしょうか。

 私達の前に立ち塞がり、行く手を阻む、グリーンアスパラ。

 大ボス、グリーンアスパラ皇帝(エンペラー)が聳える様に立ちはだかっているのでした。


 対峙した私達にとっては、言うまでもないアスパラの特徴を上げましょう。

 見た目だけなら全身緑の大木…いや、大きすぎる青竹に見えます。

 そして両手に握った炎上アスパラで攻撃してきます。

 野菜の癖に炎を扱うあたり、死力を尽くしています。

 炎の精霊を使役したシャーマンとは違い、直接炎を扱う当たりは流石と言うべきでしょうか。

「おい、おいおい、仲間仲間! 身内じゃないのか、炎上アスパラ!」

「勇者様、あれはきっとアスパラマンじゃなくって、ただのアスパラなんでしょう」

「あんな非常識なサイズのただのアスパラがこの世にあるか!!」

「わかりませんよーぅ。勇者様も世界の全てを見た訳じゃなし。もしかしたらあるやも」

「そんな現実、俺は知りたくもない!」

「現実逃避ですか。駄目ですよ、目を逸らしちゃ」

「くっ…非常識な魔窟め……!」

「そりゃあ、魔境ですから」

「その一言で片付けられた!」

「それ以外のどんな言葉で片付けろって言うんですか」

 ツッコミどころも満載で、勇者様がぎりっと奥歯を噛み締める音がしました。


 そうして私達(主に勇者様)と、巨木アスパラの死闘が幕を開けたのです。

 私は入れたばかりのハーブティを片手に、勇者様の勇姿を応援しました。


「あ、このクッキー美味しい」


 頑張って戦う勇者様と、魔法を駆使するむぅちゃんの姿を、余さず見つめて応援しました。

 人はソレを、観戦という。

 




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