表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここは人類最前線4 ~カーバンクルの狩り祭~  作者: 小林晴幸
エルフの迷宮(またの名をアスパラ地獄)
26/54

23.グリーンアスパラマンの復讐2

11/4 誤字を訂正

 燃やしたベジタブルな煙を嗅ぎ取ったのでしょうか。

 あの後、私達の前にはわらわらとアスパラが(たか)ってきました。

 その悉くを斬って燃やし、斬って燃やし、斬って燃やし…

 緑色が焼き焦げた丸太状の物体を、足跡代わりに転々と残して。

 私達はアスパラの猛威を潜り抜け、道を歩みます。

「食らえアスパラ、除草剤!」

「ベジタ・ブーッ(泣)!!」

 特に私の持ってきた除草剤が、とても良い感じに効力を発揮しました。

 持ってきて良かった、除草剤(植物系魔物専用)。

 希に出てくるドリアードにふらふら行ったり、冬人夏虫という見た目グロい魔物にふらふら行ったりもしましたが。

 私達は概ね順調に迷宮を踏破していました。

 とは言いましても、まだ全体の3割程度なんだけど。

 気長に、とは言えないけれど。

 先はまだまだ長いのだと実感せずにはいられません。

 このままじゃ、迷宮を制覇してしまう前に夜が来てしまいそうでした。


 夕闇迫る頃合いだったでしょうか。

 私達が、それを見付けたのは。

 野菜や動物の姿をもした魔物を撃退しながら、私達は順調に進んでいました。

 だけどその、私とむぅちゃんの足がぴたりと止まったのです。

「どうかしたのか?」

 怪訝な顔で足を止めた勇者様の声も、今は届きません。

 ただ、私達の視線は一点に注がれ、固定されていました。


 道なりに茂る草原の、ただ中。

 見覚えのある背の高い草が生えていました。

 ………こ、この、草 は!


   マンドラゴラが現れた。

   リアンカとムーの目の色が変わった!


 私とむぅちゃんは、無言。

 だけど手と体が、勝手に黙々作業に入ろうとしていました。

「本当にどうしたんだ?」

 困惑の勇者様に、耳栓を渡し。

 私とむぅちゃんが耳栓を装着し、じっと勇者様を見ると観念したように耳栓を付けて。

 それを見届けてから、むぅちゃんが呪文を唱えました。

「【沈黙のしらべ、サイレント】」

 それは風の精霊に作用し、効果範囲一帯の音という音を封じてしまう。

 今、この場では誰が何を言おうと聞こえない。

 その魔法が確かに作用しているのを確かめてから…

 合図を送ると、むぅちゃんが勇者様を連れてそろそろそろ…と距離を取りました。

充分な距離があること、目視で確認して…さあ、いざ!

 私は目標の草をがしっと掴むと、釣り上げ一本!とばかりに引っこ抜きました。


「………………………ッッッ」


 よっし、聞こえない!

 無音の呪いによって、死の叫びは無効化されたようです。

 呪いは音だけに頼る物ではないので、耳栓越しでも若干の効果が出たようですが…

 まぁちゃんの魔眼に耐性のある、私の敵ではありません!

 殆どの呪いを跳ね返し耐える体質で良かった…!

 だってお陰で、こんな収穫を逃さないで済んだんですから。


 引っこ抜いた草には、人間…に見える形状の根っこ。

 土から引っ張り出された根っこが、意志を持って動き出す。

 それは怨めしげにぎょろっとした目で私を睨んできました。

 次いで蠢くように体を縮めた後、勢いを付けて私の手から飛び出した。

 …ちぃっ 逃がしてなるものですか!


 まるで生皮剥いだようなむき身のピンク。

 生々しい躍動感溢れる肉の動き。

 人にそっくりな根っこは、それでも人のなり損ないにしか見えない。

 そんなこと気にしないように、肉々しい人間モドキは形振り構わず駆け抜ける。

 正に疾風迅雷という凄まじい俊敏さを発揮して。


 いっそグロテスクな程にリアルな草を見て、勇者様の目が濁る。

「………なあ、根っこが自律運動してるんだが」

マンドラゴラ(あれ)はそういう植物です」

 だけど私とむぅちゃんは、きっと抜き身の出刃包丁のようにギラギラと危ない輝きを瞳に宿していることでしょう。

「絶対捕まえるよ、むぅちゃん!」

「ああ! 野性のマンドラゴラの効能は、栽培マンドラゴラの8.5倍!!」

「しかも有する魔力は6.2倍!!」

「それにあの花! あの色、あの形!」

「葉っぱだって見落としちゃいけないよ、むぅちゃん!」

「ああ、紫の斑紋が美しかった…あんなの初見だ」

「これは、亜種だね」

「もしくは新種だ」

「「絶対に捕まえよう!!」」

 ごわあぁっと、胸の奥から熱い意欲が燃え出します。

 きっとそれはむぅちゃんも同じ。

 遠くにいるめぇちゃんだって、この場にいたら私達と共感してくれるでしょう。

 最早、誰も止められない…

 そんな気持ちでがっちり標的(ターゲット)、ロックオン!

 今にも走り出しそうな私達に、勇者様の顔が引きつっていました。

「なあ、細かくないか? 細かくないか、お前達」

「「全然細かくないから!!」」

 珍重な獲物を前にした時、私達ハテノ村の薬師は異様な迫力と威圧を醸し出していると、前にまぁちゃんが言っていました。

 きっと、今もそんな感じなのでしょう。

 私とむぅちゃんの異口同音を前にして、勇者様がちょっと圧倒されている模様。

 だけど今はそんなこと気にすることでもないです。

 私達は逃亡したマンドラゴラを追って颯爽と駆けだしたのです。

「ま、待て、お前達! 寄り道して良いのか!? 迷宮のクリア成績は!?」

「そんなもん、マンドラゴラの捕獲に成功してから考えます!」

「成績なんて後でつじつま合わせれば良いんだ!」

 他は目に入らないと言わんばかりでした。

 私とむぅちゃんは正に他のあらゆる全てを遠くにうっちゃり。

 魔境でさえも珍しい、野性のマンドラゴラを追い求めて暴走しだしたのです。

 勇者様が、途惑い顔で私達を追ってきます。

 それでも私達の目には、逃げるマンドラゴラの後ろ姿しか映りませんでした。


「むぅちゃん、牽制!」

「わかった!」

 しぴぴぴぴっ

 むぅちゃんの手を離れたナイフが、脇道にそれようとしたマンドラゴラの行く手を塞ぐ。

 あんな狭い道に入られて堪りますか!

 ナイフに刻まれた呪文が効果を発動し、怪しげな揺らめきを見せる。

 それを警戒してか、単純に難しい考えができないのか。

 進行方向を塞がれたマンドラゴラは、素直に此方の望む方へと足を運ぶ。

 まどろっこしくも回りくどく見えたのでしょうか。

 魔法を使わないむぅちゃんに、勇者様が疑問を向けた。

「魔法は使わないのか? さっきまで、野菜魔物は全部燃やしてたのに」

「火炎魔法? 絶対に使わない! 素敵なあの草を万一にも消し炭にしてたまるものか!」

「それじゃ、他の魔法で捕まえられないのか?」

「風を使ったら貴重な素材が切り刻まれて飛び散っちゃうじゃないか。土は植物系の魔物に効かないし、下手打つと逆に吸収される。水は成分が水に溶け出ちゃうから!」

「………わかった。ごめん、わかった。色々こだわりがあるのはわかった。悪かった。謝る。だから走るなら前を向こうな」

 勢いよく怒鳴り込まれて、勇者様たじたじ。

 普段は物静かで、さっきまで落ち着いた大人しさを見せていたむぅちゃん。

 そんな少年がいきなり熱血少年と化したら…まあ、驚きますよね。


 結局この日、私達はマンドラゴラを捕まえるまで諦めませんでした。

 あの野郎、意外にすばしっこくて始末が悪い。

 何度煮え湯を飲みそうになったか…

 無事に捕獲した時には、3時間が経過していました。

 勇者様の精神的疲労とむぅちゃんの魔力と私の体力をがりがり浪費して捕まえたマンドラゴラは、睨んだとおりどうやら新種。

 とても活きが良くって、私とむぅちゃんは大満足でした。

 無駄にした時間に、勇者様が頭を抱えたのは2人で黙殺かましました。






 さて、てってこてってこ歩いている内に、いつの間にやら距離を稼ぎ。

 歩いているからには当然ですが、迷宮内を進んだ結果。

「…と、言うわけで」

「え、何がどんな訳?」

「細かいことは気にせずに、此方にそびえます扉の向こうが中ボスの間にございまーす!!」

「って、えええぇぇぇぇっ!?」

「早っ」

 本当にいつの間にか到着しちゃいましたよ、中ボスの間。

 このポプラの木で作られた彫刻細工も緻密な扉。

 巨人以外のあらゆる種族に対応しているので馬鹿でかい。

 ですが、軽量化の魔法がかけてあるので結構簡単に開きます。

「覚悟は良いですか、お2人」

「とうとう、ボス(中)なのか…」

「後に他のボスが控えていることを思えば、そんなに早すぎることもない…の、か?」

「気にしすぎるとハゲますよ」

「突拍子も脈絡もなく酷いな、リアンカ!」

 異議申し立てをする勇者様を放置して。

 私は思う以上にあっさりと、軽い扉をぶち開けました。



 中ボスは平々凡々なグリーンアスパラマンの上司。

 その名もロバートグリーンアスパラ&グリーンアスパラシャーマン。

 奴らの大きさ全長2.5m…明らかに育ちすぎ。

 野菜の癖に青龍刀で襲いかかってきます。

 地味に痛いです。

 シャーマンの方は降霊術が得意ですが、精神系に効く術も使ってきます。

 特に「嫌いな野菜が襲いかかってくる幻覚」は………

 アレには、嘗てのチャレンジでまぁちゃんと共に大変苦しめられました。

 いえ、このコースで最も苦しめられたと言っても過言ではありません。

 当時、私6歳。

 そしてまぁちゃん、10歳。

 そこには筆舌にし難い壮絶な苦痛がありました。

 私はあの恐怖を、一生忘れない…!

 苦手な野菜そのものは、とっくの昔に克服しちゃってるけども!!



 ………幼い頃の私達にとって、グリーンアスパラの中ボスは強敵でした。 

 だけど、今。

 私は17歳、勇者様は19歳。

 むぅちゃんは野菜好き。

 …苦手な食べ物の悉くをとうに克服済みの私達。

 死角を無くした私達にとって、奴らは言うほどの敵ではありませんでした。

 まさに典型的な話ではありますが。

 幼い頃は恐ろしい強敵と記憶していた相手も、成長してみたら大した相手じゃなかった。

 そんな体験を今、私はしています…!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ