22.グリーンアスパラマンの復讐1
ハロウィンに因んで、「ここは人類最前線3」に番外編「Happy Halloween!」を投稿しています。
短くてさらっとした内容ですが、よろしければ其方もどうぞ見てやって下さい。
グリーンアスパラマンのルートは、道程平坦。
しかし至る所の土中から、根菜が襲ってきます。
道ばたに生えた草に偽装した野菜も襲ってきます。
Hardコースなので中ボス(×3)と大ボスもいます。
野菜です。
いずれも、野菜です。
むしろ全員アスパラです。
恐ろしいことにこのルートには、確か…合計108匹のグリーンアスパラが潜んでいます。
大ボスに1匹、中ボスに6匹。
それ以外は普通にその辺に潜む雑魚として出てきます。
雑魚のグリーンアスパラマン・ノーマルは大きさも180㎝ととっても不気味。
等身大の野菜なんて野菜嫌いには恐怖でしかありませんね。
彼らはエルフの里で野菜を品種改良していたら予定外に完成してしまったというクリーチャー…いえ、魔物です。
根本は野菜ですが………まあ、魔物です。
世界中で此処にしかいないレアな魔物ですが、誰もありがたがることもなく。
このグリーンアスパラ祭りに、暫くアスパラが見たくなくなる程うんざりする人続出です。
…と、説明したら勇者様もむぅちゃんも嫌な顔をしました。
2人とも野菜が嫌いではないはずですが…
「いや、等身大の野菜が襲ってくるなんて言われたら誰だって嫌だよ」
「野菜を食った恨みとか言われても、どう対処すればいいのか困る」
「あ、そのへんはご安心を」
「「?」」
「奴らはむしろ、食われまいと言うより食わせようと襲ってきますから」
「余計に嫌だよ!」
「………トラウマになって野菜が食えなくならないと良いんだが」
「ああ、それはとても切実ですね…同感です」
襲いかかる野菜の恐怖に怯えながら、私達は土道を歩き始めました。
以前とはコースの構造も多少変わっているでしょうし、紙にマッピングしていきます。
そうこうしている間にも、土中からぴょこ!
大根に見えるナニかが現れた!
→ むぅちゃんの火炎魔法攻撃!
大根は燃え尽きた!
人参に見えるナニかが現れた!
→ むぅちゃんの火炎魔法攻撃!
人参は消し炭になった!
ジャガイモに見えるナニかが現れた!
→ むぅちゃんの火炎魔法攻撃!
ジャガイモは焼きジャガになった!
バターを付けて皆で美味しくいただきました。
「凄いな…」
「むぅちゃんは普通の人より魔力が高いですからねー」
「僕は片親が魔族だからね」
「それは、つまりまぁ殿と同じ…?」
「…僕と陛下を同じにしないでよ。同じ半人半魔でも、親の格が違いすぎるんだから」
「あれだけ違うと、もう別種族みたいなものだよねー」
「そうそう」
「えーと、つまりムルグセスト君はより人間に近いのか…?」
「そういう事じゃないんだけど…説明が難しいし、いいや」
「いいやで済ませられる問題なのか? もっとデリケートな事なんじゃないか?」
「そんなに難しく考えなくても良いよ。ただ僕と陛下は別格なだけ。それで納得してください」
「魔境の感覚に疎い俺が考えても、すぐにわかる事じゃ無さそうだ」
殆ど接触のない相手との道行きです。
いや、ついこないだの観光旅行も、メンバーの殆どは初対面という難易度だったけれど。
それでも1度しか顔を合わせていない上、大した会話もしたことがない相手に、勇者様もむぅちゃんも若干の緊張が見えました。
でも、何とか打ち解けようという気持ちはあるみたいです。
歩み寄りを見せようと、むぅちゃんが切り出しました。
「僕のこと、名前だと呼びにくいでしょ。僕のことはムーで良いよ、ムーで」
「私もむぅちゃんって呼んでますしねー」
「元々はそこから来た愛称だしね」
「ムー…ムー君か」
「あ、呼び捨てで良いです。誰も彼も気安い村育ちですから。今更君付けって違和感凄くって」
「それならムーと呼ぶけど、俺のことは…」
「勇者様ですよね、わかります」
「………勇者と呼ばれるのは、本当は少し恥ずかしいんだが」
「それじゃあ、王子様?」
「……………止めてくれ。国元を離れた遠い地でそう呼ばれるのは、恥ずかしいと言うよりむず痒い感じがする」
「それじゃやっぱり勇者様で。他の皆もそう呼んでいるみたいだし」
「魔境に来てから、名前で呼ばれた覚えがそう言えば無いな…」
私を筆頭に、みんな勇者様のことを勇者と呼んでいます。
そういえば出会った頃に自己紹介を受けた気がしますけど…
あれ。勇者様の名前ってなんだっけ?
………気がついたら名前を忘れていること、言わない方が良いよね。
それを言ってしまえば、勇者様ががっくり膝をついて悲しみそうな気がしました。
和やかに話している間にも、野さ…魔物は次々現れました。
本当は走って切り抜けたい気持ちもあったのですが、初めての道行きですからね。
しかも迷宮です。
何があるかわかりませんし、どこで道を間違うとも知れません。
私達はどうしても慎重に進まざるを得ず、走ろうにも走れません。
お陰で表面上は取ってものんびりピクニックでもしているように見えるでしょう。
まあ、次々に襲ってくる魔物を勇者様が切り伏せたり、むぅちゃんが焼いたりしながらなので賑やかな道行きですけど。
大体の魔物は勇者様が反応する前に、あらかじめ術の用意をしているらしい用意周到なむぅちゃんによって焼き焦がされました。
魔力を節約せず、ばんばん使っているのに一向に衰える様子のないところは流石半分魔族。
魔力を押さえるつもりもないようで、とっても派手ですね。
疾風迅雷を地でいく勇者様も、魔法の発動速度には一歩遅れるみたいです。
まあ、むぅちゃんが発動直前まで事前に準備しているせいでしょうけれど。
「野菜炒めは火力が大事!」
纏めて襲ってきたタマネギ・ピーマン・人参・ホウレン草は、瞬く間に美味しく仕上がりました。
いつの間にか仮初めの連係プレーが型にはまってきたみたい。
1~2匹の少数はむぅちゃんがあっという間に仕留めるけれど、数が多い時は勇者様が足止めをかねて野菜を切り刻み、むぅちゃんが仕上げに魔法で焼き払うというパターンができてきたようです。
魔物の野菜炒めが沢山完成し、私はその中でも美味しそうな部分をお皿に回収しました。
うん。お昼ご飯はこれにしましょう。
主食とお肉も欲しいなと、私はきょろろい見回しました。
迷宮に入って、そろそろ30分。
ウォーミングアップゾーンもそろそろ抜けます。
よく見たら壁に掛かった照明の色が、黄色から橙色に変化していました。
今までは野菜しか出てこなかったけれど、これからが本番。
そろそろ野菜以外の魔物や罠も出てくるはずです。
そして、このコースの顔…グリーンアスパラマンも。
ちょっと注意が必要だと思ったので、私は歩く2人を引き留めました。
改めて、グリーンアスパラマンの説明をする為です。
「2人とも、そろそろ野菜以外の魔物やグリーンアスパラマンが出てくるから、注意して」
「結局グリーンアスパラマンって何なんだ…」
「この迷宮特有の魔物です。1匹見たら、108匹」
「ちょっと多すぎないか!?」
「煩悩の数だけ用意されました」
「そんなサービスみたく言われても、嬉しくないね」
「名前はアレですが、結構得体の知れない魔物なので注意してください。コース名にもなっていますけど、奴ら執念深いから」
「グリーンアスパラマンの復讐、だったか…復讐されるような何をしろと」
「彼奴らは基本、向こうから攻撃してくることはありません。物陰からこっそり覗いてきたり、鬱陶しくつきまとったり、苛々するような踊りを披露したり、小憎たらしい物真似をしてきたりします」
「それ、聞いただけでも充分に鬱陶しいんだけど。向こうから攻撃してこなくても、精神的に疲弊しそう」
「そして基本、雑魚です。ナイフで刺しただけで、緑色の汁を飛び散らせてびちびち跳ねた後、死にます」
「……………その表現が気持ち悪い」
「いや、本当にそんな死に方するんですよ」
「見たら、問答無用で燃やすから」
「あ、そこで注意です」
「「???」」
「グリーンアスパラマンは向こうから襲っては来ませんが、此方から1匹でも殴ると総力を結集して全員で殺しにかかってきます。近くにいるのから殺到します。それ以降も、順次遭遇する度に躍りかかってきます。ちなみに主な武器は ゴ ボ ウ です」
「ああ、それでグリーンアスパラマンの復讐…」
「いや、それよりゴボウ…」
勇者様の呟きは、私とむぅちゃんで流しました。
「そう、このルートの名前にもなっていますね。だけど彼奴ら、1匹1匹は殺しても大したポイントにならないんですよ。雑魚だから」
「迷宮はポイント制なのか…?」
「倒した魔物に対する成績として、重要な判断材料です。でもグリーンアスパラマンはちょっと倒しただけじゃ旨味も全くない正真正銘の雑魚です。むしろ10匹殺す事に-5Pされます」
「なにそれ。え、それって罠なの?」
「しかもグリーンアスパラマン(雑魚)を殺す事に、中ボスと大ボスが「怒りのパワー」とかいう謎の作用で強くなっていきます」
「一利もないな、そのグリーンアスパラマン。無視しろと言わんばかりだ」
「だけど迷宮内に潜んだ108匹を全部探しだし、1匹残らず殺し尽くすことに成功すると、BP10000点がもらえます」
「「!!」」
驚き、目を丸くした2人。
今までの話を聞くと、グリーンアスパラを殺しても良いこと無さそうに聞こえたでしょう。
でも抹殺し尽くすと、途端に美味しいグリーンアスパラ。
問題は鬱陶しいことと数が多いこと。
しかも中にはレアな亜種とかがいるんだけど、其奴らは何故か引きこもりの性質持ちです。
隠れて出てこない奴らを引きずり出すのは一苦労だけど、好成績を叩き出すには逃せない。
クリアタイムが短いだけじゃ、駄目なんです。
好成績を出さないと、エリクサーは手に入らない。
だから私は提案しなくちゃいけません。
グリーンアスパラの殲滅を。
「………迷宮を運営している人達は、グリーンアスパラマンを殺し尽くしたいんだろうか」
「何が憎いんでしょうね」
「不気味だからじゃないかなー…」
私の提案を受けた2人と、私。
3人は目を皿のようにしてグリーンアスパラの姿を探しました。
その姿は、まだ見えない。
グリーンアスパラに遭遇しないまま、更に30分が経過しました。
「そろそろお肉が欲しいなー」
お皿の中には、3人で食べるにも充分以上の量の野菜炒め。
私達に襲いかかってきた、野菜の末路です。
「香味野菜が沢山いたからね。匂いが香ばしすぎてお腹が減ったよ」
「わかった。すぐに獣を狩ってくるから、だからちょっと待て。その明らかに怪しげな魔物に狙いを定めるんじゃない」
私とむぅちゃんはお腹のすいた成長期。
いや、私はそろそろ成長期も終わりだけれど。
それでもお腹がすくの。
動物性タンパク質を求めてオークを眺めていたら、げんなりした勇者様に引き留められました。
流石にアレは止めろと。
まあ、同感ですが。
お腹がすいて、なんだか普通の豚に見えてきたんですよね…。
その後、私達に襲いかかってきたオークは勇者様の剣技によって土に還りました。
豚を土に還した後、約束通りに勇者様は獣肉を確保してくれました。
近くを通りがかった牛の魔物をざっくざく♪ 焼き肉ゲット!
更に遠目に見えた山羊の魔物をぐっさぐさ♪ マトンゲット!
丁度良い頃合いなので、お昼ご飯にしましょう!
迷宮各所には簡易休憩所があります。
文字通り、休憩と回復の為に作られた東屋がそれです。
休憩所には魔物が近寄れなくしてあるんですが…
お昼までに休憩所まで辿り付けなかったので、自分達で簡易休憩所を作りました。
「それじゃ、魔物の肉は僕が調理するから。リアンカは結界の補強をお願い」
「任されましたー」
「俺は?」
「勇者様は料理できるんですか?」
「………」
「それじゃあ、この敷物整えてお茶の用意をお願いします」
「あ、ああ…」
てきぱき用意を調えるむぅちゃんは、しっかり者です。
魔物肉の調理は魔力操作の上手なむぅちゃんに全面的にお任せして。
私は自分のできることをするのみです。
そうして私は、ポーチから粉末の入った薬瓶を幾つか取り出しました。
むぅちゃんの作った結界を補強する為です。
結界といってもむぅちゃんが作れるのは気休め程度の結界なので、用意していた薬から獣避け・虫除け・除草剤を選び、結界の線に沿うように周囲に蒔いていきます。
結構強烈なヤツなので、魔物にも効くでしょう。
魔獣には効くことが実証済みなので、多分大丈夫です。
「一応、念押しに魔除けも設置しておこうかな」
まぁちゃんに貰った魔除けの石人形(全長5㎝)を、四隅に配して出来上がり!
私は満足気に頷いて、敷物の上に移動しました。
………私は、知らなかったんです。本当です。
まさか、まぁちゃんにもらったあの魔除けが…
あの、魔除けの石人形が、ガーゴイルだったなんて…!
その後、私達の食事時間は守られました。
ですが食事中に近くを通りかかった罪もない生き物の悉くが、酷いことになりました。
その殆どは魔物だったんだけど…
………ごめんなさい、小鳥さん。
………ごめんなさい、ウサギさん。
罪もない小動物が犠牲になりました。
可哀想ですね、小さなふわふわの生き物たち。
亡くなった彼らのご遺体は、皆で美味しくいただきました。
放っておいたらごはんが無限増殖しそうなお昼休憩を終え、暫し。
とうとう私達の前に、グリーンアスパラが現れました!
「こ、コレがグリーンアスパラマン…」
初めて目の前にする、全長180㎝の野菜。
見ると聞くとは大違いというけれど、それにしたって聞くよりずっと異様に見えるでしょう。
両手にゴボウを握ったグリーンアスパラマンは、グリーンアスパラの胴体に直立不動の無骨な四肢を持った屈強な野菜です。
人間で言うと腹に当たる部分に顔があるんですけど…その人相は、厳つい。
今にも殺人拳法でも繰り出してきそうな人相です。
分厚い唇に四角い鼻。据わった目に太い眉。
熊でも一撃で倒しそうな、殺伐とした空気。
しかして、その実態は…
「…あ、よわ」
思わず勇者様が呟くほど、アスパラは良く燃えました。
だけど、これからです。
何しろアスパラは、全部で108匹。
「って、うわ!?」
驚きの声を上げるむぅちゃんの前、焼きアスパラがむっくりと起き上がりました。
死んだと思っていたアスパラの健常ぶりに、目を見張ります。
…雑魚アスパラでもしぶとさには定評があるんです、此奴ら。
焼き焦げて消し炭になっていく手元のゴボウを無言で見下ろす焼きアスパラ。
次に顔を上げ、私達を見た時…
「ベジタ・ブーッ!!」
怒りの鳴き声を野太く響かせ、焼きアスパラは飛びかかってきました。
「ッ!」
裂帛の気合いを込めた、勇者様の攻撃。
その手指が見えない速度で動いたと思った時には…焼きアスパラの眉間に、3本の小刀が突き立っていました。
びっくりして、咄嗟に動いたみたいですね。
普通、頭にあんな小刀突き立てられて、生きていられるとは思えないんですが…
焼きアスパラは、止まらない。
「ッ!?」
更なる驚きに包まれた勇者様の動きは、驚異の反射神経を発揮した。
抜きはなったのは、濡れたように光る銀の剣身。
注文した剣がまだ完成しないので、代替え品として新たにご用意した一品。
…魔王城の、宝物殿から。
何代か前の勇者の置き土産だという、それ。
謂われに偽りはないようで、光属性の強い勇者様には中々の親和性を発揮しました。
持ち出し先を聞いて、勇者様の顔は微妙になったけど。
剣の名前も、元の持ち主がどうやって手に入れたのかも由来として伝わってはいません。
しかしそれは正真正銘、聖剣の類なのだとしれます。
そんな物を平然と宝物殿に放り込んでいた魔王が何を考えていたのかはよくわかりませんが。
定期的に手入れはされていたらしく、威力は折り紙付きです。
勇者様の手が力を込めると、剣が眩い光を放つ。
剣に刻まれた古代の文字が、光の中に揺らめきながら浮かび上がると…その配列が勝手に変わり、何かの呪文を形成した。
つられた様に動いた勇者様の指が、光に浮かぶ呪文を指で掻き消す。
それが、合図だったのでしょう。
光が掻き消えるのと同時に、剣に新たな光が宿りました。
それは炎の光。
めらりめらりと燃え盛る。
剣は、神々しいまでに清浄な炎で包まれた。
常日頃、私が目にしているまぁちゃんの魔法とは、そこに宿る光とは真逆の輝き。
目が潰れるのじゃないかと思うほどの神聖性。
ああ、これはまさしく聖剣なのだなあと。
しみじみ思いながら、つい見物してしまいました。
むぅちゃんと2人、サングラスを着用して。
炎を纏った剣に切り刻まれ、焼きアスパラは今度こそ灰燼に帰した。
見事な燃えっぷりは、脂身に勝るとも劣らない。
物理攻撃以外の攻撃手段を禁じられた勇者様の、炎。
セーフかどうかギリギリ判定だなーと思いつつ。
もしも後々ツッコミが入ったら、武器のアイテム効果だと押し通そうと心に決めます。
その時の為に、今から屁理屈を練っておこうと思いました。




