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ここは人類最前線4 ~カーバンクルの狩り祭~  作者: 小林晴幸
エルフの迷宮(またの名をアスパラ地獄)
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20.お城はきっと阿鼻叫喚

今回から、視点がリアンカに戻ります。

ああ、やっぱりリアンカちゃん視点が一番動かしやすい(笑)。

 お久しぶりです、リアンカです。

 思わず呟いてしまいそうになったのを、ぐっと堪えた。


 眼前に、何故か勇者様。

 思いがけないタイミングでの再会に、私はびっくり目を丸くしました。




 お城で戦慄の石化祭りが行われているとは露知らず。

 私はのんびりまったり過ごしていました。

 場所は兵士Bの実家。

 なんかお城では大変なことが起きているとかで、家主は殆どお屋敷にいません。

 代わりに兵士Bの年老いたご両親に猫の様に可愛がられています。

 なんでも兵士Bは一人っ子だそうで。

 女の子がいなかったご両親は大はしゃぎ。

 ついでに私の身元を聞いて、なんだかとっても同情して下さって。

 …いや、本当は同情して貰うような辛い思いはしたことないんですけどね?

 そのことを内心秘めているので、可愛がられると時々罪悪感が疼きます。

 それでもお優しい老夫婦のお膝元、楽しく過ごさせて頂いていました。

 愉快で楽しくて、賑やかなご夫婦です。

 特に奥さんが笑い上戸。

 実は息子さんのこと、内心で兵士Bって呼んでるんだー。

 そう言ったら涙を流して大爆笑してたよ。

 以来、本人がいないところでは、3人揃ってベルガさんのことを「B」と呼んでいる。

 

 そんな感じで、勇者様の大変さを耳にしながらものんびり時を待っていました。

 人はソレを放置と言う。

 ちょいと後ろめたさを感じたりもしながら。

 耳敏い奥さんから噂を拾う度に、「うわー勇者様大変そーだなあ」と。

 そう、他人事全開でいた訳ですが。

 

 その勇者様が、何故か今、私の眼前に。


 時は昼前11時。

 場所はベルガさんのお屋敷玄関先。

 普通に考えて、そんなところにいるはずがない人です。


 だけど勇者様は、全力疾走でもしてきたのか汗ダラダラの様相で。

 焦りまくっているのか、何かを恐れているのか。

 緊迫感を前面に押し出した真剣さで、出会い頭に私の両肩をガッチリ掴んできました。

 鬼気迫るほどの厳しい顔で、勢い込んだ様子で。


「リアンカ!!」

「はいっ!」

「エリクサー、持っているか!?」

「エリクサー…!?」


 そうして、私に問うてきたのです。

 まるで、持っているのなら今すぐ出せと言わんばかり。

 勇者様、これってカツアゲですか?

 そんな勇者様は手慣れていないだろう所業を、なんで私に…。

 一体何があったんですか? いきなりどうしたと言うんですか。

 大体エリクサー?

 魔境でもそうそう滅多に手に入らない、最高位の霊薬じゃないですか。

 投与したら虫の息でも一瞬で蘇りますよ。

 そんなご大層な薬を、なんで私に持ってないか聞いてくるんでしょう。

 持っていると思っているんでしょうか。

 いや、むしろ持っていて当然みたいな顔してません?

 でもね、勇者様。


「その薬でしたら、持っていませんが」

「っ!!」


 私、本当にその薬、持っていないんです。


 勇者様が、全てが終わったと言わんばかりに真っ白に燃え尽きた。


 

 私は、勇者様のその固まりきった表情を3秒ほど眺めた後で、こう切り出しました。


「でも、手に入れる方法なら知っています」

「っ!!」


 あ、勇者様が一瞬で息を吹き返した。

 私の肩を掴んでいた手にも、ぐっと力が入る。

 その目は、「それを早く言え」と言っていた。

 あはは。勇者様の心、(もてあそ)んじゃった☆

 笑って許しを請う訳じゃないけれど、つい笑ってしまいます。


 私はなんだか凄く、こんなに和めたのは久々な気がして。

 のんびりしていた気になっていましたけれど、どうやら見知らぬ環境に私も少なからず緊張と警戒が高まっていたようです。

 私の本来のあるべき場所に繋がる、久々の遣り取り。久々の相手。

 私は勇者様という本来の友人を相手に、自分の心が伸びやかになっていくのを感じました。

 私も緊張からか、無意識に猫を被っていたみたいで。

 本来の自分であれることの、開放感。

 それで思わず勇者様の反応で遊んじゃったんですよ。

 だから許してくださいよ、勇者様?


 私の思ったことを、顔から読み取ったのでしょうか。

 勇者様って顔色読むのが上手いですよね。

 他人の顔色を窺って生きてきたのかと問いたいほどです。

 自分の常識外のことにはとことん鈍いのに、こういうことは驚くほど察しの良さを発揮していて。

 時々、思わずその勘を全方位に発揮すればいいのにと思ったりもするけれど。

 私の顔色から思うところを拾い上げた勇者様は、深い溜息。

 ………実は、私が自分で思う以上に感情が顔に出る性だってことはないですよね?

 ですよね?

 そうだと信じたい…。


「それで勇者様はエリクサーなんてとんでもない代物で何をしたいんですか?」

 その使い道は、誰かを救うのか取引か…

 何にしろ、私にエリクサーを求めてくるあたりにまぁちゃんあたりの作為を感じます。

 ん? もしかして、誰か来てるの?

 まさかと思いつつも、内心で何故かそれが当たっている気がする…。

 私の眉が難しげに寄るのを見て、勇者様は口を開きかけますが…

「やっぱり、今は良いです。何か事情があるのなら歩きながら離しましょう。こんなに慌ただしく来て、いきなりエリクサーですし。どうせ時間がないんでしょう?」

「…ああ、助かる」

「今すぐ手に入れに行きましょう」

 私は急いで屋敷の中にとって返し、お世話になった老夫婦に誠心誠意頭を下げました。

 迎えが来たから帰る旨を伝え、本気で名残を惜しんでくれる夫婦と別れを交わします。

 この2人は本当に良くしてくれましたから…

 私も少し寂しくなって、ちょっとだけ泣きそうになりました。


 別れが済んだら、急げとばかりに飛び出します。

 律儀に玄関先で私を待っていた勇者様が、飛び出してきた私に驚き目を丸くしました。

 でも、構うことはありませんよね?

「何処へ?」

 勇者様が、簡潔に尋ねてきます。 

 それに、私は同じぐらい早口に告げました。

「まずは、ハテノ村へ!」

 …私の荷物、結局没収されたまま薬品関係は戻ってきませんでしたからね。

 今すぐエリクサーを手に入れる為に出発とはいきません。

 向かう先には危険もあるし、最低限の準備は必要です。

 それに、拾っていかなければいけない相手がいます。

 それは私の同僚、むぅちゃん。

 中級以上の攻撃魔法を覚えたらしいので、近々挑戦する事になっていたんです。

 都合が良いので、連れて行きましょう。


 そうして私達は、ひとまず村へ。

 勇者様が壷を擦ると、中から光り輝く竜の姿。

「ナシェレットさん、足役が板に付いてきたね」

「………………………」

 軽く嫌味を言ってみるも、無反応。

 いえ、軽く顔を引きつらせ、何か物言いた気です。

「言いたいことを溜め込むのは体に悪いよ?」

「………………………………」

「あ、そう言えば挨拶が未だでしたね。おはようございます」

「……………………………………………………」

「ナシェレットさん? 挨拶を返してはくれないんですか?」

「…………………………………………………………………………………………………………………お、おは………………」

「聞こえませんよー」

「………リアンカ、ナシェレットをいじめるのは程々に。今は急ぐから」

「仕方ありませんね」

 私がそう言うと、竜はあからさまにほっと安堵の息を吐いた。

 そう。そんなに喋りたくないの…?

 後で絶対に、公衆の面前で会話する状況に追い込んでやろうっと。

 底意地の悪いことを考えながら、私は竜の背に乗った。

 そうして竜の背の上、空を移動中に受けた説明は…


「額の石が、取られた…?」

「正確には、まだ魔石化する前の眼が、だな」


 想像以上に、深刻な事態が到来していたようです。 

 勇者様の苦労が、ひたすらに偲ばれた。



 前にも言ったことですが。

 カーバンクルは額に自分の持つ全魔力を集め、蓄積する構造を持っています。

 魔力を溜め込んで、額にある眼球は特別な魔石に変わる。

 魔族は体内の魔力が枯渇すると生命の危機に陥ります。

 けれどカーバンクルは、体内の全魔力を額に溜め込みます。

 そして魔力を溜め込んだ額の魔石を奪われると死んでしまう。

 だから額の石を取られたカーバンクルの運命は1つ。

 それが、大人のカーバンクルだったのなら。


 カーバンクルは額の眼球が完全に魔石化したタイミングで大人と認められます。

 子供の頃というのは、つまり体内の魔力がまだ額に集まりきっていないということ。

 そのことが、子供に一命を取り留めさせたのでしょう。

 カーバンクルが額の石を取られて死んでしまうのは、全ての魔力を奪われるからだし。

 被害者は子供だったから、額に魔力は集まりきっておらず、体内…体中に魔力が残っていた。

 それこそ、普通の魔族のように。

 だけどカーバンクルは体の構造上、体内の全ての魔力が額に集められるようになっている。

 そしてその額には、石を取られてできた大穴。

 このままでは、額に開いた穴から残った魔力も全て体外に流れ出してしまう。

 そうなれば、死ぬのも時間の問題。

 単純に傷を塞げばいいと言う話でもない。

 額に魔力を導いてしまう、カーバンクルとしての生き方を強引に変える方法なんて無い。

 そして額の石という、魔力を吸収する物もない。

 額に開いた穴を肉体的に塞いでも、霊的な領域で開いた穴は塞がらない。


 実際に子供を見たりっちゃんが、命を助けるにはエリクサーが必要だと判断した。

 そうして勇者様に言ったのだという。

 リアンカ(わたし)にエリクサーを持っているか聞いてこい、と。

 …その、もしかしたら持っているかも知れないという根拠のない信頼がちょっと怖い。

 持ってない物は持ってないし、過剰な期待はとても重いよ。

 まあ、持っていなくても手に入れる方法は知っているけど。

 だから、完全に間違いという訳でも無いのかも知れないけど…。



「――と、そんな訳でエリクサーが必要になった」

「子供の命を助ける為なら、仕方ないですね」

「城の方は邪魔が入らず子供を安静にできるよう、まぁ殿とリーヴィル殿が工夫している」

「………わあ、お城大変たいへーん☆」

「ああ、大変だった…」

 何となく想像付くけど、絶対に大事になってるよね?

 逆に兵士が突撃ー☆とかしてきたらどうするんだろう…ちょっとどころでなく、心配になった。

 特に、兵士Bのこと。

 あの人に何かあったら、可愛がってくれた老夫婦に申し訳がなさ過ぎる!

 額ずいて詫びを入れる事態になったら、どうしよう…。

 不安が高まり、恐る恐る聞いてみる。

「具体的に、どんな事になってるんですか? あの2人のタッグで」

「………………聞きたいのか?」

 ……なんでしょうか、その間。

 やけに間を持たせるお陰で、緊張が高まります。

「まぁ殿は城内から人間を一掃する為、王族の悉くを石に変えた挙げ句に「城内にいる権力上位者から順に石化していく呪いをかけた!」と宣言。お陰で皆、凄まじい速度で退避した」

「………りっちゃんは?」

「リーヴィル殿は演出的な意味合いを込めて城を取り囲み、警備するアンデットを召喚。ここ5年の、城内に関係ある死因で命を落とした者達だ。勿論罪人もいるが、中には権謀術数に巻き込まれ、陰謀によって命を落とした者も、いる。特に後ろめたいらしい高官達が、冷や汗だらだら流しながら怯えていた」

 ああ、どうやらアンデットの中にお知り合いを見付けちゃったんですね…。

 どろどろに腐って判別が付かない場合でも、意外と服装やアクセサリ、紋章なんかで誰か一目瞭然ってことがありますからね。元々紋章って、死体判別の意味合いもあるらしいし。

 りっちゃん、狙ってやったな…。

 アンデットを前に泣き叫んで許しを請う老人達と、それを見てほくそ笑むりっちゃんの姿が鮮明に想像できてげんなり。

「それで、勇者様は何をしていたんですか?」

「何かをしていたというか、何もできなかったというか…俺は、強いて言うなら貞操の危機と闘っていた」

「ああ、勇者様の健闘ぶりは耳に伝わっていますよ」

 しっとりと同情したくなる、そんな悲しい哀☆戦士。

 前々から勇者様の女難ぶりは片鱗が見え隠れしていたので、余程だろうとは思っていたんです。

 伝わってきた噂だけでも想像以上でした。 

 きっと噂になっていないあれこれもあるでしょう。

 だから、勇者様に実状詳しくどんなだったかを聞くのは止めてあげようと思いました。

 まぁちゃんが同行していたなら、後でまぁちゃんに聞けば済むし。

「人波に揉まれて、1人になるのも大変だったんでしょうね…」

「そこは逃走手腕の見せ所かな。逃げる隙を見逃さず、コツさえ掴めば何とかなるものだし」

「今回はどうやって抜け出して…いえ、それ以前に私の所在がよくわかりましたね?」

「ああ、それはな…」


 そう言って、勇者様の語ることには。

 今回は「城にかけられた魔王の呪いを解く為」という口実で出てきたそうです。

 危険もある上、常人では足手まといになるので伴は入らないと言い置き、すたこらさっさと離脱したとか。

 あながち間違いじゃありませんね?

 そして私の所在に関しては、まぁちゃんと協力して掴んだそうです。

 めぼしい者の1人1人を、まぁちゃんが路地裏の物陰に引きずり込んでカツa…じゃないや、尋問して情報を絞りこんだとか。

 状態異常:魅了を駆使してまで尋問したというまぁちゃん。

 御苦労おかけします。

 私が騎士の誰かの家に引き取られたと聞き出すと、勇者様が騎士団長に頼み込んだそうです。

 今回の一連の騒動、城の呪いを解くのに私の協力が必要なので、引き取らせて欲しいと。

 それもまあ、間違いじゃないですよね。

 ただ、実は呪いが身内の犯行ってだけだし。

 カーバンクルの子供を癒さないと、お城の開放はないし。

 そうこうして何とか勇者様の信頼を盾に、こうやってお迎えに来てくれたとか。

 勇者様、まぁちゃん、お疲れ様です…。

 もういい加減面倒になって、実はこっそり自力で家に帰ろうかと思っていたことは内緒にしようと思いました。

 流石に彼らの労力を思うと、無情すぎて口にできません。

 だからここは、素直に感謝だけして終わらせようと思いました。





 そうして私は数日ぶりに村へと戻り、仕事場へと飛びこんだ。

 其処には予想の通り、むぅちゃんとめぇちゃん。

 いきなり駆け込んできた私に、2人は目を丸くしていて。


「むぅちゃん! アルフヘイム行くよ!」

「藪から棒に、なに!?」

「良いから行くの!」

「ちょっ 引っ張るのは止めてよ!」


 唖然としためぇちゃんを置いてきぼりに。

 私は小柄なむぅちゃんの体を引っ張り、勇者様と共に再び空の人になりました。



 目指すは最上位の霊薬エリクサーの生産地。

 つまりはエルフの里、「魔境アルフヘイム」に出発です。





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