19.城内一斉強制避難訓練
いきなり召喚という掟破りの魔法で呼び出されたリーヴィル殿。
だけど彼は状況を察するや、大至急で子供の救命に努めた。
状況はかなり悪い。
それでも彼は、己の持てる全てを注ごうとしていた。
「おーい。様子どうだ?」
「芳しくありませんね。そちらはどうです?」
「ああ。抜かりなく城内から人間排除してきたぜぃ」
「その手段、あまり良い物じゃ無かったけどな…」
「まあ、何にせよ、これで暫く時間は稼げそうですね」
リーヴィル殿に任せている間、することがないからと俺とまぁ殿は席を外していた。
本当はまぁ殿だけで行くつもりらしかったが、無視できない不安がつきまとってくる。
なので、俺が同行した形だ。
しかし、動向を後悔するくらいには楽しくなかった。
治療はしているが、それでも安静にする為にも環境を整える必要があるとまぁ殿が言った。
まあ、その点については賛成できたんだが…
………まぁ殿は、静かな環境を作る為に城内から人間を退去させた。
おいっ!! と俺がツッコミを入れる隙もなかった。
ついて行ったもののあっという間にはぐれたと思ったら、その間に彼は謁見の間で一暴れ。
顔を見られるのは流石にまずいと思ったらしいが、心配する点が違うと思う。
もっと他に目を向けてくれ。
完全犯罪の実現の有無を考える前に、争いを避ける方向で検討して欲しかった。
どちらにしろ、人間はカーバンクルを大切には扱っていない。
どちらかというと所有物として過酷な環境下に置いていた。
それはあの檻の小ささを見ても明らかで。
人間が近くにいたら余計なちょっかいをかけられるとまぁ殿は断言した。
でも、だからと言って王族を全員石化の刑に処すとか。
挙句に姿を隠したまま、おどろおどろしい声の演出。
(→内容は城内からの退去を促すものだったらしい。)
…やり過ぎじゃないだろうか。
「城内の人間は権力上位者から順に石化していく呪いをかけた! って城内にアナウンス流したら、みんな蜘蛛の子だったぜ?」
「……………大混乱だったな。あの逃走騒ぎ」
俺も巻き込まれ、危うく人並みに流されそうになった。
特に女性陣がしつこく食いついてくる鰐みたいに、俺の服を掴んで離さない。
それを振り切り、人の波を泳ぎ切るのは大変だった…。
現在、城内には俺と魔族と、一部の逃げ遅れが数人と言うところ。
逃げ遅れた者達も、きっとすぐ退去するに違いない。
「しかし機転が利いたな、勇者」
「ああでも言わないと、本当に場外に引きずり出されていたから」
大国の王子であり勇者という肩書き故に、俺の身柄は何よりも優先された。
騎士達も俺に何かあっては大変だとわかっているからか、大臣達に指示されるまでもなく女性達と一緒に俺を城から連れ出そうと必死だった。
だけど俺まで連れ出される訳にはいかない。
連れ出されたら、城に入る口実が無くなってしまう。
だからまぁ殿のインチキ勧告「権力者から石化」という言葉を利用した。
俺は、「皆が避難する猶予を作る! 俺は神の加護のお陰で呪いが効きにくい。だがそれもいつまで持つか…皆が脱出したら俺もすぐに城を出る! だから先に逃げてくれ!」という演技臭い台詞を吐く羽目になった。
表面上はきりっと顔を引き締めていたが、内心は顔から火が出るかと身悶えていた。
そのくらい、逼迫した状況であの台詞を吐くのは恥ずかしかった。
なんか、どこかの英雄物語に出てくる登場人物(しかもすぐ死にそう)みたいで。
衆目が退去し、時間差で顔を真っ赤にしながら俺は思った。
なんだか最近、望まぬ状況に追い込まれることが多いなと。
いや、昔から多かったか…。
本当に自分に幸運の神の加護があるのか、疑いそうになる。
これが実は生来運が悪いのを神の加護と相殺してコレ、とかなら泣くしかないと思った。
城内を混乱に陥れておいて、「ふうやれやれ」みたいな顔のまぁ殿。
やっぱり魔王だ。
そんな魔王は自分のお目付役に真剣な顔を向ける。
「それでチビの容態は?」
「悪いですね」
まぁ殿の率直な問いに、リーヴィル殿はそれいじょうの率直さで答えた。
きっぱり言い切られすぎて、様子を窺っていた父親の顔が歪む。
痛ましい息子の様子に、父親は今にも泣き出しそうだ。
「どうにかなんねーのか?」
「彼らの種族にとっては致命的な弱点ですからね」
「死ぬしかねーのかよ」
…勘弁してくれ。
痛ましく、同じ人間の所行かと思うと無闇に謝りたくなるが、それも違うしな。
だけどそれで魔族に報復活動に入られたら、この国は堪ったものじゃないだろう。
兵を差し向けてまで捕獲しようとしたんだから、今更言い逃れはできないだろう。
しかし捕まえたカーバンクルを一部の人間(目がいっちゃってる王女とか)が己の独断で傷つけ、死なせそうになっている、この事態。
だけどそのことの責任をこの国全体に負わせるのは、なんだか違うと思った。




