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18.局地的血の雨

 まぁ殿は言った。

 王の娘3人が、俺を狙っている。

 長女は黒魔術、次女は脅迫、三女は貢ぎ物。

 それを聞いた時、俺は三女が一番まともだなと思った。


 ………前言を、撤回しても良いだろうか。


 三女が、一番まともじゃなかった。



「ライオット様! わたくし、ライオット様の為にとびきりの贈り物をご用意致しましたのよ? とっても珍しく、滅多に手に入らない貴重な品で、幸運の力があると聞きます。きっと魔王退治に赴かれるライオット様のお役に立てる品ですわ」


 そう言って差し出されたのは赤い紅い宝せk………

 ………って、石じゃない! これ石じゃない!

 これは何の試練だ。俺は何に試されているんだ。

 俺に差し出された三女の手にあるモノ。

 それは赤い血に染まった真っ赤な…


 赤い紅い、石の様にも見えるソレ。

 カーバンクルの額に埋まる、紅いソレ。


 …真っ赤な目玉が、そこにあった。




 完全に魔石と化す前の、目玉。

 持って来るにしても、何てエグい選択を彼女はするのか。

 カーバンクルの額にある魔石は、第三の瞳を核に魔力が凝り固まったモノだと言っていた。

 子供の内は魔力が集まりきらず、目の原形を残している。

 それは俺も見たから確かだ。

 そこから判断するに、子供のカーバンクルから奪われたのだろう。

 カーバンクルは魔族だ。

 もしかしたら大人のカーバンクルからは奪えず、子供を狙ったのかも知れない。

 だが、それにしても。

 もう少し、後先を考えてくれないだろうか(泣)!

 子供の額からえぐり取るとか、残酷以前に人倫にもとる行為だと、心は痛まないのか!?

 

 怖い。

 目の前で血塗れの目玉を握ったまま、うふふと可憐に微笑む三女。

 可憐なのに異様なその姿が、ここ近年では最高に恐ろしかった。

 あれだ。

 11歳の時に俺を拉致監禁した嘗ての許嫁に通ずるモノを感じる。

 身の危険以前に、頭の中でけたたましく警鐘が鳴り響いた。


 額の石を失うとカーバンクルは死ぬって言ってなかったか?

 ということは、カーバンクルの子供が死んでしまうのか?

 誰の責任で?

 三女の? それとも…俺の?

 ぶわっと、滝の様な汗が全身から噴き出した。


 狩り祭とか、自業自得の傍迷惑な遊びだと思う。

 それでも。

 力なく弱い子供を虐げたとなったら、まぁ殿はどうするのか。

 魔族はか弱い女子供への庇護欲が強く、弱者ほど保護して大事にする習性があると言う。

 その、魔族の子供が死の危機に瀕している訳だが。

 ………この国、終わるんじゃないか?

 未だまぁ殿に及ばぬ俺の身では、到底滅びは止められそうにない気がした。

 恐ろしすぎて、まぁ殿がいる筈の背後に振り返ることができなかった。

 …ら、横に来た。

 まぁ殿が。

 それはそれは麗しく、にっこりと笑った。

「……………っ」

 瞬間総毛立つ、全身の鳥肌。

 ああ、わかる。わかってしまった。

 今、まぁ殿の全てが全開だ。

 瞳に込められたという、状態異常:魅了も含めて。

 渦巻く魔力が、俺の目には台風の目に見えた。

 流石に何か感じ取る物があったのだろう。

 どうやら魔力がないらしい三女すら、取り巻く状況の変化に恐怖を宿す。

 探るような目が異変の中心を求め…


 まぁ殿に目を遣った瞬間、ピキッと固まった。


 ………物理的に。


「まぁ殿!? 王女が石に…っ」

「それくらいで済まそうってんだから感謝して欲しいね」

 しれっと言い放つが、石化を解く気は無さそうだ。

 やばい。皆殺しにされるか…!?

「取り敢えず、子供の責任は親の責任だよな。この箱入り温室育ち、自分で自分の責任取れそうにねーし。こんな後先考えない甘ったれに育てたのは、絶対に親の責任だろ」

 まぁ殿の目は、本気(マジ)だった。

 ざーっと、これ以上は青ざめまいと思っていた顔から更に血の気が引く。

 俺の顔は今きっと、空のように青いに違いない。

 俺は何とかまぁ殿を止めようと、両肩に手をかけ前後に揺さぶった。

「まぁ殿、まぁ殿! 親を石にしたら大問題だ! 彼女が石にされてる時点で充分問題だけど!」

「おいおい、全力で揺さぶるなよ。心配しなくても加減したから解石薬与えりゃ元に戻るって」

 解毒薬ならぬ、解石薬とは…というか、薬があるのか。

 どうやら魔境では薬が普及するほど石化するのも一般的らしい。

 相変わらず相容れない常識を感じる。

「それでその、解石薬は!?」

「俺は持ってねーな。だって俺が石にされる事ってねーし。」

「それじゃ意味無いじゃないか!!」

 はっ 待てよ!?

 薬なら、もしかしたらリアンカが持っていないか!?

 そして彼を止めるのも、彼女でなければ…

「仕方ない」

 もう、形振りなんて構っていられない。

 手段を選ぶのも止めよう。

 まぁ殿を野放しにするのは不安だが…。

 考えてみれば、俺がいても止まるとは思えない。

 被害の拡大を抑える為に命を賭けるよりも、被害を改善できるよう対策に走る方が得策か。

 俺は一つ頷くと、まぁ殿の横をすり抜けて駆けだした。

 まぁ殿は、止めなかった。

「勇者、そっちじゃなくてこっちな?」

 …逆に、俺を何処かへ引っ張って行った。

 走り出した勢いに強引に逆らい、俺の襟首を引っ張って逆方向へ。

 まぁ殿、首絞まる! 絞まってる!!

 しかし残念、俺の声は襟首が絞まっているせいで音にならない。

 抵抗しようとするも、それもまぁ殿が相手だと虚しいばかり。


 俺は、意志とは関係なく連れて行かれた。

 何処に行く気なのか…

「ひとまずは、チビ共の状態確認だろ」

 俺の疑問に気づいたのか、まぁ殿が言う。

 …どうやら、俺が思っているよりは冷静なようだった。

 だからといって、安心は、できないんだが。



 リアンカの居所はまだ掴めていないそうだ。

 だがカーバンクルの囚われた場所なら既に割り出していたらしい。

 だったらなんでさっさと助けなかったんだと思っても、とうに後の祭り。

「肝心のリアンカがまだ見つかってねーのに、暴れたら台無しだろーが。先に助けて変な警戒されたらどーする」

 というのが、まぁ殿の主張だ。

 その意見にはまあ、頷けないこともない。

 だが後々暴走する羽目になるなら、そんな気遣い問題にならないように思う。

 巻き起こされる混乱の度合いを比べて、今だからこそ言えることだけど。


 辿り着いた場所は、局地的に血の雨だった。


 まぁ殿が見張りをはり倒して昏倒させて縛り上げる。

 後に残ったのは、子供でも身動きできないような小さな3つの檻。

 その中に、それぞれ一匹ずつ、ぬいぐるみのような獣が入っていた。

 獣形態の、カーバンクルだ。

 少し大きめの、真っ白で艶々した毛並みの一匹。

 その半分もない程に小さな、クリーム色の二匹。

 しかし幼獣の片方は、血の海に沈んでいた。

 檻の中、憔悴した様子の他の二匹がちぃちぃと鳴いている。

 だけど獣はまぁ殿の姿を見ると、様子を一変させた。


「まおーさまぁぁぁぁぁあああああああっ!!」

「せがれが、倅がぁぁぁあああ!」

「落ち着け獣共っ!」

 

 それまで普通の獣っぽく振る舞っていた獣(←表現がおかしい)。

 それがまぁ殿を見るや、いきなり人の言葉で叫び出す。

 おい、演技か。


 挙げ句の果てには、取り乱した挙げ句に檻の中で人型になろうとして…

 みちっと、檻に詰まった。

 大人の方は特に悲惨だった。

 衝撃的な血の海映像に現実逃避しかけていた俺も、正気を取り戻す。

「戻れ! 獣に戻れ!」

「おまっ 見た目にも見苦しいぞ!?」

「いたたたたたたたっっ」

 傍目にも、とんでもない混乱だった。


 慌てて獣に戻ったカーバンクル。

 元々狭い檻の中、少しでも動きやすいように獣になっていたという。

 その事実をすぱっと忘れていたらしい。

「ま、魔王様、うちの倅は…!」

「うわー…予想以上にチビの状態酷いな」

「そんな…」

「こんな風にされる前に、止められなかったのか?」

「………魔封じの札が貼ってあるんです」

「今時こんな紙っきれに封印されてんじゃねーよ!」

「魔王様の基準で言われても困ります! 俺だって、自分の倅のことですよ!? 死に物狂いで抵抗したに決まってるでしょうが!!」

「抵抗したんならきちっと止めろよ! それでも魔族か?」

「この札さえ無ければ…っ」

 ぎりぎりと奥歯を噛み締め、悔しげに顔をしかめる獣。

 こんな時になんだが、本当にぬいぐるみのようだ。

 だからこそ、外見と態度と口調のミスマッチ具合に気色悪く見える。

 生後1ヶ月の子猫みたいな声で、口調は成人男性。

 これも所謂ギャップなのか…?

「兎にも角にも、この札剥がすか。重傷のチビにも悪影響だしな」

 そう言って、まぁ殿はカーバンクル達を苦しめたという札に手を伸ばす。

 そして花でも摘むような気軽さでべりっとあっさり引き千切った。

「……………流石、魔王様で」

「言いたいことがあるなら、ハッキリ言え?」

「おじさん、僕たちのあの抵抗は一体なんだったんだろうね…」

 あまりのあっさり具合に、カーバンクル達の背中は哀愁で煤けていた。


 札が剥がされると、カーバンクル達の動きは速かった。

 まぁ殿が重傷の幼獣が入った檻を壊している間に、自力で檻を破って脱出を始める。

 …文字通り、紙のように鉄の棒を破って。

 さっきのまぁ殿と同じくらい気軽に、獣達は鉄の檻をへし折った。

 異様な外見に、内心で肝が冷える。

 外見上は平然とした態度を保ったが、ちょっと度肝を抜かれた。


 後々、リアンカに聞いた話がある。

 カーバンクル達は魔族。それは知っていた。

 だがその能力は、エルフみたいな術者よりの外見とは大きく異なる。

 彼らは(やさ)い外見とはウラハラに、細身の外見からは嘘の様な怪力がデフォルト。

 肉弾戦が得意な武闘派魔族なのだというから驚きだ。

 こんなに細いのに、肉弾戦が得意なのか…。

 いや、それ以前に武闘派種族の魔族の中でも、更に武闘派と呼ばれるくくりなのか。

 色々と、驚かされることが多すぎた。


 

 カーバンクルの子供は、弱りつつあるがまだ息があった。

 だけどまぁ殿ではできることに限りがあるという。

「俺、どっちかって言うと戦闘特化だから治癒系の術下手なんだよなー。よし、仕方ないからリーヴィル呼ぼうか」

「待て、決断早すぎないか!?」

 ここ、人間の国だぞ!?

 子供の状態はかなり悪く、移動は危険だ。

 だから呼ぶしかないというのはわかるが…ここ、人間の国だぞ!?

 俺の顔が引きつっている原因もわかっているだろうに、まぁ殿は憂慮もしない。

 決断力があるのは結構だし、時を急ぐのもわかる。

 だが…

「じゃ、召喚するから」

「っ!?」

 俺が何をするより早く、まぁ殿は事態を動かしていた。


 こうして、いきなりまぁ殿が召喚なんて大技を繰り出した結果…

 …勇者としては、あってはならぬ事としか言えない。

 だけど俺自身としては何とも言えないが人命救助的な思考に置いては反しないことに。

 急を要するカーバンクルを見ると、頭ごなしに反対はできないけれど。

 

 人間の国の、城のど真ん中に。

 見るからにあからさまな角とか生やした魔族の青年が光臨した。




どさくさに紛れた一幕


カーバンクル父が、まぁちゃんの前で頭を垂れる。

「申し訳ありません、陛下。わざわざご足労頂きましたのに………あのような雑魚しか食いつかせられませんで。(エサ)役としてあまりにも不覚でございます」

 どうやら、今回の狩り祭で囮として誘き寄せた国のレベルが低いことを気に病んでいるらしい。

 鷹揚に頷くまぁちゃんの隣で、勇者様が頭を抱えた。

「……本当に、魔族って徹底してるな」



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