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15.空から勇者様が

 何だかやたらと騒がしい、午後。

 ベルガさん達から聞き取りをされつつ、窓の外を何気なく見遣る。

 ああ、今日もそらがあおいなー…


 ………ついうっかり、現実逃避しちゃったじゃないですか。


 あまりの予想外ショッキング映像に、お茶を噴き出すかと思ったよ!!

 あるはずのないものを目にして、取り乱さずに済んだ幸運に感謝しましょう。


 ふと見遣った、窓の外。空の上。

 そこを飛んでいた、有り得ないモノ。

 それが気の迷いでも見間違いでもないと、自分で自分に確証が持てない。

 でもそれ以外には考えられない、あの目立つ姿は…


 私の知らない内、不在の間に何があったと言うんでしょう。

 何とも目立つ、恐らく私達のお迎え要員。

 だけどアレ(・・)を行使できるのは、現状1人だけのはずで。

 そしてその「1人」の性格を思うに、何とも不似合い。

 いや、映像的にはとっても目立つし、似合うんだけどね?

 

 あんな派手で注目して下さいと言わんばかりの目立ち様。

 それでもソレを敢えてする様な人じゃないから。

 どんな趣味の変革や価値観の崩壊があったかは、知りませんけれど。

 それでも、柄じゃないというか…

 …なんだか、なんとも彼の性格じゃない様な気がした。



 真偽の程を確かめる為、現在の私は潜伏中。

 兵士3人(騎士だけど)の追及をかわす為、調子の良いことを言って中座・退席。

 それからふらふらと、女性達が噂話でもしていそうな場所を求めて彷徨いています。

 だって、ね?

 ここは女性に話を聞きに行くのが確実だと思うんですよ。

 だってあの人は、私の推測が正しければお迎えのあの人は…

 ………どう考えても、女性が放っておきませんから。

 あの目立つビジュアルに加え、今回はドラゴンというオプションまでついています。

 それはそれは神々しかろう、眩く輝かしかろう。

 そんなモノを見るなり、噂にきくなりしたらじっとはしていられないはずです。

 物見遊山の面白がりでも、一目噂の真相を見ようとするはず。

 そして見たならば、それは女性の意思を悉く刈り取り、魅了せずにはいられない。

 大興奮した女性達のお喋りな口が、上方を拡散する様が目に浮かぶ。

 そしてその情報は情報をもたらした人達に還元され、再び凄まじい速度で飛び回る。

 この場合は、噂という土台を用いた女性達のお喋り交流で。




 こそこそ隠密行動という名の立ち聞きを繰り返すこと、小一時間。

 移動時間込みでの、決して長いとは言えない間に色々と集まっちゃいました。

 思わず地面に膝をついて項垂れたくなるけれど、それは勇者様の専売特許だ。

 確証といえるほど、確かな情報は集まらなかったんですけどね?


 例えば、空から黄金色に輝く光の竜が舞い降りたとか。

 その背には青年を乗せていたとか。

 その青年は神々しいばかりに光り輝く、人外級の美形さん達だったとか。

 美しいだけでなく大層な紳士振りで、物腰優雅に気品溢れる青年だったとか。

 あまりの貴公子ぶりに、取り乱すほど熱狂する崇拝者続出とか。

 その微笑みを目にして、200人近い女性が恍惚とした顔で気絶したとか。


 どれもこれも、荒唐無稽の眉唾物と言ってしまえばお終いだけど。

 ……なんだか、日常的にどっかで聞いた単語の羅列の様な。

 そしてそれは実際に起こった、本当の事かもしれないという気がしてなりません。

 だけどあまりの無茶無謀な噂や、現実味の薄いおかしな噂も中には混ざっていて。

 それを聞くだに、思ってしまう。

 それ、本当に人間ですか…?と。


 その噂を本当のモノとして実現させてしまう相手に、心当たりがあったから。

 そう、都合良く現実離れした疑惑も付きまとう。

 もしかしたらどんな荒唐無稽なことでも実現させるんじゃないかと、思ってしまう。

 その心当たりが、先程か頭に浮かんで仕方のない名前と完全一致してしまったから。

 私は無視することもできず、頭の中の推測が嘘であればとちょっと思った。


 確証にはならずとも、推測から断定に流れられそうな、故人特定の可能な情報で。

 ああ、これはもう、間違いないなと思いました。


 何やっているんですか、勇者様…。

 

 いや、私を助けに来てくれたんでしょうけれどね?

 とっても、とっても嬉しいんですけれどね?

 目 立 ち す ぎ です。

 キャラに合わないことは、止めた方が良いですよ、勇者様。


 

 空から舞い降りた大天使…もとい、絶世美青年の勇者様。

 彼の噂は、1日で国中に轟く如く波及した。


 その一方で私はと言えば…

 私は少ない荷物を纏めて、せっせと作業中です。

 王宮内にある兵舎から出て監督を申し出たベルガさんの家に移る様に言われました。

 だから、お引っ越ししないといけないんです。

 …え? 勇者様の所に行かないのかって?

 そんなそんな、無理に決まっていますよ。

 今、勇者様がどんな状態だと思っているんでしょうか。

 勇者様は王宮に招かれ、絶賛最上級の賓客として手厚く持て成され中なんですよ。

 おまけに勇者様という魅力の固まりみたいな珍獣ですからね。

 家柄良し、教養充分、性格良しの顔凄まじく良しですよ。

 女性達が放っておかないはずがありません。

 天然バリケードの女性という肉の壁が付きまとい、普通に考えて近寄れそうにありません。

 もしも近寄ろうと思ったら、伝手かコネを作って取り次いで貰うか忍んでいかないと。

 そして忍んでいこうにも、王宮奥深くにそう簡単に忍び込める様な潜入スキル…

 ………当然ですが、持っていませんね。胸張れますよ。

 だからといって取り次いで貰おうにも、やはり勇者様の状況からは難しい気がします。

 この数時間で、勇者様の自称「知り合い」が続出中だそうですから。

 今のタイミングなら、完璧に知り合いを装ってお近づきになることを狙うミーハー扱いされるのが目に見えています。なので、少し間を空けて機会を待とうと思いました。


 …そんなこと考えずに、さっさと強行突破しておけば良かった。





 何があったのか、知らないけれど。

 もしかしたらまぁちゃんが何か間違ったことを吹き込んだのかも知れないけれど。

 私はこの時、まだある程度の楽観がかなりありまして。

 

 まさかこの後、勇者様の魅了能力故にあんな騒動が起きるなんて…

 

 微塵も思っていなかったとは言いません。

 だけどそれが私の予想を遙かに大きく上回っていたのは本当で。

 目論見の甘さが出たと思うと、頭が痛くなりそうだけど。

 それでもこの時は、私はまだまだ楽観視していたんです。


 ………あんな騒動になる前に、乱入しておけば良かったですよ。本当に。

 




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