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ここは人類最前線4 ~カーバンクルの狩り祭~  作者: 小林晴幸
序:絵師のもたらした騒動
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カリスマ絵師の帰還 ~by ハテノ村~ 

これは「ここは人類最前線3 ~リアンカ嬢の観光案内~」に番外編として設置されている物と同じ物です。

もう読んだよ!と言う方は読み飛ばしても問題ありません。

 今日もこんにちは、太陽。

 燦々照りつける陽射しはちょい熱いけどさ。

 今日も絶好の畑日和だよな。


 ども、こんにちは。

 我等が人類最前線、ハテノ村の一村民サムソンっていーます。

 先日なんでか玄関先に雷が落ちて肝が冷え冷えだったけど。

 変わったことっていえばそんくらいで、誰も何にも脅かされずに明るいし。

 今日も元気に畑仕事、絶賛張り切り中です!






 その日は、のんびりした村がいつも以上にのんびりまったり。

 ゆる~い空気が流れてるのは、空気をぴりっと引き締める奴らが不在だから。


 例えば、顔は中々可愛いのに中身は容赦のない村長さんの娘だとか。

 例えば、魔王を討伐に来たものの目的を達成できず二の足踏んでる勇者だとか。

 例えば、肩書きに似つかわしくなく畑を耕す為、度々脱走してくる魔王だとか。 

 例えば、若い男衆の暴走を鉄拳でもって諫める、感性独特な自警団副団長だとか。


 そいつらみ~んな、今は村にいない。

 なんか勇者の潰れたスライムみたいに情けないうじうじ感を晴らす為に?

 村長の娘(リアンカ)の奴が憂さ晴らしだか気分転換に連れ出したんだと。

 ざっと、6泊7日計画で。

 そのことを置き手紙で知った時の、村長さんの怖い顔を思い出したくない。

 即座に指令を受けてダッシュで追ってった副団長さんの速度はマッハだった。

 村外れにあるうちの畑耕してたから知ってるけど、村の入り口側で合流に成功してた。

 あの副団長さん、いつ人間やめるんだろ。それとももう、止めてんのかな?


 村の若い奴らの中心的な人物はみ~んな不在。

 だからもー、空気が揺るんで揺るんで。

 やる気もなく、娯楽もなく、みんなでだるだるしてた。

 そんな時、

 …畑を耕していた、俺は見た。

 ハテノ村に住む多くの野郎が待ちかねた、あの人が戻ってきたのを…!


 畑から、村に近づいてくる人影を見つけ。

 俺は衝動のまま、大きな興奮と共に叫んでいた。

「が、画伯っ! エロ画伯が帰ってきたぞおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」

 俺の発した声は村の遠くまで響きわたり。

 各所にて、反応した野郎の雄叫びが上がる感触がした。


 リアンカも居ない。勇者さんもいない。まぁちゃんもいない。副団長さんもいない。

 ついでに言えば昨日ドラゴンに攫われて、せっちゃんもいねぇし、りっちゃんもいない。

 若い奴をとりまとめる目立った奴らは悉くいない。

 だけど今。

 今、この時。

 村に異様な空気を孕んだ、おかしな熱気が充ち満ちて、溢れかえる。

 俺は、『闇市』の異称で知られる『祭り』の到来を肌で感じていた。


 その、興奮凄まじく。

 『祭り』の到来を告げるのは、何時だってあの御方。

 野郎共の尊敬と崇拝を一身に受け、魔王城&ハテノ村では一部で有名な。

 その特殊性を的確に表す、『エロ画伯』の異名で知れ渡った、彼。


 魔王城所属武官、セイレーンの血を引く魔族のヨシュアン(にぃ)

 のんびりとした足取りで向かってくるのは、確かに彼だった。


 

 男共の尊敬を一身に受ける、ある意味男気溢れるヨシュアン兄。

 尊崇を込めて彼のことを、俺達は画伯あるいは兄と呼んでいた。

 呼びたくなるくらい、その一貫性を貫く姿勢は…

 ………まあ、真似はできないし、したら終わりだとも思うけど。

 それでも羨望してしまうくらい、上手く言えないけどどっかが格好良い。

 まあ、誉められた格好良さじゃ、ねーんだけどな。


「生きてたんすか、画伯! もう4ヶ月も見なかったのに」

「本当っすよ! どこ行ってたんすか?」

「画伯が不在で、俺らも辛かったっす。俗物的な意味で!」

 村を激震させた(音響的な意味で)知らせを受けて、次々に画伯を慕う野郎共が集まる。

 口々に殊勝なことを言っているけれど、潜む望みはちっとも可愛くないやつだ。

 画伯の不在=闇市の延期

 そのことで飢えてた野郎共が、新作を求めて群がってるよーなもんだ。

 かく言う俺も、その1人も同然だけど。

 ま、仕方ねーよな。

 画伯は寂しい独り者の野郎共にとって、救世主(メシア)にも等しい御方だし?

 その恩恵は、女っ気のない男所帯に大いなる潤いをもたらすオアシスだ。

 潤いを与えてくれる相手として、本当に画伯の来訪を待ち望んでたんだからさ!


 それでも4ヶ月も顔も見せないで何をやっていたのか気になったから。

 まあ、取り敢えず聞いてみることにした。

「それでヨシュアン兄? 数ヶ月も顔出さないで何やってたん?」

「あーもーっ よく聞いてくれたよ、サムス君!」

 サムソンです。

 サムスって誰だよ、サムスって。

「もーさ、全然つまんないの! 北方辺境で獣人の少数民族を狙った人攫いが度々横行するから、その調査及び人攫い組織の殲滅とついでに少数民族の分布図再調査してこいって北に追いやられたんだよ、サムス君!」

 いや、だからサムソンだって。

「へえ、でもそんな大仕事の割には短期間で帰ってきたね」

「だって期待してたのに、可愛い女の子が全然いないんだよ!? みんな攫われたか、攫われるのを警戒して隠れてるとかで、全っ然女っ気がないの! そんなん耐えられる!?」

「それで早く帰ってきたって…仕事放り出すのは最低じゃないの?」

「仕事なんて速攻で終わらせたよ!!」

 画伯が叫んだ。

 マジか。

「え、本当に?」

「追跡調査で女の子達が何処に売られたか突き止めたから、陛下に裁可もらって救出部隊の編成終わらせたら、もうやること無いよ。でもその陛下がいないみたいだから、ここで足止め」

 だから本当に、やること無いのってヨシュアン兄が言う。

 おお、それは

「それは凄い」

「女の子の居ない環境で、黙々お仕事とか拷問だったよ! 何あの地方、女の子が1人も見当たらないし。居るのはなんか白くてやたらでかくてふさふさした熊ばっか!」

「えー、白い熊? そんなんがいたの?」

「ホント、熊しか居ない! 腹いせに満足するまでもふもふしてやったよ!!」

「結局は動物と戯れて、満喫した、と。楽しかった?」

「楽しかったよ!! 悲しくなって白い熊モチーフで擬人裸婦画書いちゃったよ!」

「おおっ新作!」

 『新作』の言葉に反応して、一斉にわらわらと増殖する野次馬。

 皆で取り囲んで目に焼き付けた新しい絵は、なるほど。

 画伯の本領発揮とばかりに色っぽく、艶めかしく。

 悩ましいまでに良い出来だった。



 さてさて、久方ぶりの闇市は大盛況。

 みんなほくほく顔で、飢えた欲望も大満足。

 だけど最後まで、俺達は画伯に打ち明けることができなかった。

 そう、どうしても言うことができなかったことが、一つ。

 

 画伯がいなくて、4ヶ月。

 いつもよりも開催期間が空いて飢える気持ちも高まったけど。

 だけどみんなの心が乾燥していった原因は、それだけじゃなくってさ。

 やっぱり、どうしても言えないよなー…

 うん、言えなかった。


 まっさか鬼の形相のまぁちゃんが現れて、


 …自警団詰め所にある画伯の作品専用の本棚ごと、バックナンバー灰にしたなんて。


 あの鬼神の形相含め、どうしても言えやしなかったんだ。


 何しろ、俺達だって我が身が可愛いし?

 まぁちゃん、超こえーし。

 それにこれから魔王城で画伯に待ち受ける、苦難を思うと…

 ………あの様子じゃ、確実にまぁちゃんに何かされる。


 次にハテノ村に来る時、画伯は果たして五体満足でいられるだろうか。

 その命は、ちゃんと残っているだろうか。

 俺達は次の闇市の開催を…

 それより何より素晴らしい神の手を持つ、画伯の無事を…

 彼の武運長久を祈り、檜武人の廟にお供えに行くのだった。


 リアンカやまぁちゃんが帰ってくる予定日まで、あと3日のことだった。




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