坂口美奈
今日は珍しくかなちゃんが休みだ。さっき突然メールが来た。
前まではかなちゃんがいないと話す人がいなくて困ったけど、今は大丈夫。ってか逆に最近のかなちゃん嫌だから良いわ、なんて思ってスイミングのドアを押した。
入口を入って正面にはフロント、左側に大きい机が置いてある。そこで宿題をやっている金沢美帆がいた。
「みほ♪」
「おー!みな〜♪」
美帆は女子で唯一の同い年で、選手で一番仲が良い。
「ねぇみな、今日かなちゃん休みだってね」
「そうだってね!」
「ねぇかなちゃんウザくない?!」
「ちょーウザい!年下のくせに調子乗ってる!」
「本当!みな結構キツイこと言われるでしょ?」
「うん。なんか上から目線だし!!」
「みな大変だね。」
「本当だよー!みほも早く選手コース来てよ〜!」
選手育成コースの中でもジュニアコースと選手コースに分かれていて、ジュニアコースで選手コースの練習がついて行けるようになれば、選手コースに来れる。
美奈は最近選手コースに上がったが、美帆はまだジュニアコースなのだ。
「じゃ、そろそろ行こ?」
「あっもう6時かぁ…。ちょっと待って〜」
美帆と更衣室へ行くと、珍しく佳菜子以外の女子はみんないた。
「おー!みなにみほ♪あれっ?かなちゃんは?」
「今日は熱出して休みだってー」
「えっそうなの?!私さぁ、ハッキリ言ってかなちゃんそんなに好きじゃないんだよね〜」
さえがニヤッと笑いながら言う。
「さえこわ〜!でも分かるわ!!」
そういう花希も笑ってる。
「ねぇ分かるでしょ!?だってすぐ真似すんじゃん!」
真未も入ってきて
「それにかなちゃんの隣で泳いでるとさぁ、勝手に競争してくるよね!」
「あー、分かる!それでお母さん関係で聞いたんだけど、祐樹君もかなちゃんのとこ嫌いらしいよ。」
祐樹君とは亮也の兄で高校2年生だ。
花希のお母さんはいろんなお母さんと仲が良いからありえる。
そんなに関わんない祐樹君からも嫌われてるって…どうよ、なんて考えながら美奈も笑ってしまった。
それから練習開始ギリギリまで悪口大会は続いた。まぁよくもこんなにってくらい悪口は沢山出てくる。
改めて女子は怖いと思った。こりゃかなちゃんだけじゃなくて私の悪口も言ってんのかな…。まぁかなちゃんほどではないと思うけど。
♦♦♦♦♦
次の日。美奈がスイミングに着くと、まだ佳菜子がいなかった。
「今日も休みかな?まぁ別にどーでもいーけど」
「やー、さえちゃんこわ〜い!」
美奈がふざけて突っ込んでいたその時、更衣室のドアが開いて佳菜子が入って来た。
「あー!かなちゃん風邪大丈夫?」
すっと切り替えてさらっと笑顔で言ってしまう。やっぱり女子は怖い。自分もそうなんだけど。
さぁ今日も練習が始まった。一ヶ月後に室内選手権があるから今はとてもキツイ。
今日のメインは50mをスタートから10本ダッシュ!!
みんな疲れ切っているが、間の時間にみんなとおしゃべりをして気を紛らわす。
「あー!28秒出したい!!」
「速いなー真未は。練習で29秒出てるだけでも良いと思うけど」
「本当だよ〜!私なんて大会でも29秒出したことないのに…」
美奈は本当に自分の遅さが嫌になる。
「美奈は今伸びてるからそのうち出るって!」
励ましてもらってヤル気が出た時に、入って来たのは隼人だった。
「美奈が29秒なんてムリムリ♪」
「うるさいー!!!」
「じゃあ今度の大会で俺に勝って29秒台出したら、ジュースおごってやるよ!」
「言ったね!絶対隼人に勝つから!!」
周りのみんなはヒューヒューとか、はやちゃんやる〜♪なんて騒いでいる。
美奈は本当に嬉しかった。
ジュースより、隼人が私だけにおごってくれる!と思って、とてもヤル気が出た。