原佳菜子
「ねぇ私さぁ、やっぱ隼人じゃなくて亮也君にしよっかな…」
練習後のガヤガヤしたプールサイドを美奈と歩きながら言ってみた。
「ええー?!急にどうしたの?あんなに隼人一筋だったのに」
「だって今日の亮也君チョー優しかったんだもん♥」
「そっそーなの?!」
「うん!隼人はムカつくこと言うけど、亮也君は本当カッコいい♥」
「へぇー…」
「もー美奈ちゃん!もう中1なんだから恋しなよっ」
「いい人いないんだよっ」
「もー、来年から先輩なんだからさぁ、坂口先輩!!」
「だってかなちゃんの方が年上って感じだからさー」
えー!しっかりしてよー!って言いながら、やっぱり美奈ちゃんは優しいと思う。
美奈ちゃんが亮也君を好きなことはうすうす気付いている。だからなんとなく言ってみたのに…。優しすぎるんだよ…。
♦♦♦♦♦
次の日の練習。私は一人でボーッとしていた。最近は一人の時が増えた気がする。
美奈ちゃんは真未ちゃんと花希ちゃんと、男子達と騒いでいる。
最近の練習は苦痛だ。行っても楽しくない。
とりあえず、美奈ちゃん達と騒いでいる隼人を観察する。
(っ何その満面の笑み。なんか顔赤いし。何話してるんだろ…)
「えーっ、隼人そーなのかぁ?!」
急に伊吹の大きい声が聞こえてきた。
「ちげーよ!やめろよ!!」
隼人の声もでかくなる。
「あれー?はやちゃん顔赤いよー?!」
「違うから!俺がこいつを好きなわけないだろ!!」
隼人が指をさした先にいるのは、美奈だった。
「ゴメンなっ。泣くなよっ美奈。」
ムカつくー、美奈泣いちゃえ!、泣くわけないでしょっ!!とか騒いでいるのが聞こえる。
(いいな…。なんで美奈ちゃんは…。隼人と話せるだけじゃなくて、こうやって騒がれたりするし…。それに女子とも上手くいってるし。なんでなんだろ…)
ぼんやりしながら後半の練習は終わり、室内選手権の申し込み書持ってけよー!なんていうコーチの声が聞こえてきた。
もうそんな時期かぁっていう声があちこちから聞こえる。
(大会か…。もともと嫌だけど、今はもっと嫌。今も一人なのに一日一人でいることになったら…。)
ボーッとしてると寒気がして咳がでてきた。
風邪ひいたなら丁度良かった。練習休めるじゃん!そんなことを考えていた。
♦♦♦♦♦
次の日、佳菜子は熱を出して練習を休んだ。
だから自分の部屋のベットでぼんやりしていた。
はぁ…。いつからだろうな…。さえちゃんと話さなくなったの。
佳菜子はこのことについて本当に悩んでいる。佳菜子は昔から3つ上のさえと、とても仲が良かった。なのにケンカしたわけでもなく、突然話せなくなった。
女子にはよくあることだと思う。だけどさえと話せなくなったら、誰も話しかけてくれなくった。
佳菜子が話しかければ、さえとも話せるし美奈ともみんなとも話せる。
でも最近みんな固まって騒いでいることが多く、女子で一番年下な佳菜子はそうそう簡単に入れない。
もう本当に嫌…。練習行きたくない。前に戻りたい…。