第1話の3『やーと、追い付いたぜ』
超会議、行きたかったぜ!
人生の中で派手なアクションを取らねばならない時は何度あるだろうか。
ビルを跳ねて渡る。
火災から飛び出す。
銃撃戦をかい潜る。
俺にとって、今がその時だ。
警察の目から逃れるため、俺は陽稀を監視できて、尚且つ見つからないポジション取りをした。
もうかれこれ10分は見つかっていない。
握力は限界近いが、まだ大丈夫。日本男子には気合いと根性という名の”SuperPower”が標準装備されている。だから……、電車の外にしがみついててもへっちゃらだい!
いざとなったら、屋根に上がればいい。
「キャアア!外に誰かいるぅぅぅ」
ヤッベ、見つかった。
駅員に報告しに行くJKと思わしき者。JKと思わしき者。JKと思わしき者ぉ!おのれ、JKェ!!
一分後、駅員が急ぎながらJKと一緒に俺の方へ向かってきた。
俺は、ヤモリの如く、しがみつきながら、はいずりながら、必死で前へ進んだ。10秒経たない内に、汗が凄い出た。
こんなに必死なのは前世でもなかった。こんなに不幸なのは前世でもなかった。リリカルなのは。
そうこうしている内に、JKと子分が追い付いてきた。
ちくせう。お前ら、電車の中だからいいんだろうがな。こちとら、電車の外だぞ。電車の外にいる人の気分がお前らに分かんのかよ。アアン!
毎朝、チャリンコで通勤する貧乏な男の気分が分かんのかよ。
いーや、分かるはずないね。この”TRAINJK”がっ!
停車駅で駅員が、警察と一緒に待ち構えていた。電車をしばし止め、捕物劇を繰り広げる気らしい。
ごめんよ、みんな。
電車にいるみんな。
俺のおかげでお急ぎの方の遅刻は決定さ。
でも、悲観しないでおくれ。
人生にはよくある事さ。
今日はたまたま巻き込まれただけなのさ。
よければ、善き思い出として、Memoryしといてくれ。
罪悪感?ないない。俺、生まれ変わったばかりだし、この世界に愛情なんてないね。
さて、屋根に昇ると、周りの臆病者達が、「降りろ」を連発している。
「ケッ!腰抜け共がっ!悔しかったら、上がってこい!」
俺は、中指を立てたり、首をかっきるポーズをしたり、SexyPoseをとって挑発した。
「オオゥ」
挑発にのって、3人の人間が屋根の上に上った。
勇気ある駅員と勇気ある乗客と勇気ある『陽稀』だ。アレ?
「しまった!」
どうやら俺は、原作キャラを動かしてしまったらしい。原作にない展開だ。原作キャラもほっとけない男になっちまったか。フハハ、ハハハー!
じりじりと間合いを詰める3人。後がない俺。段々と足場は消えていった。
下を見ると、手錠を構えた警察官が、なんだかいっぱいいた。暇なのか、クソ。
まいったな。手詰まりだ。どうすりゃいいんだ。もう終わりに近いぞ。
《じゃ、じゃ、じゃ☆》
この声は。
《じゃー、じゃじゃじゃ》
「噛み様」
《困っておるようじゃの》
「ああ。困ってるぜ。最大級に」
《じゃっ、じゃっ、じゃっ。いぃーじゃろーうぅ!助けてやるぅおぉーうぅ》
「助けてくりゃれぇ!」
パアアッと音がして、隣の路線に電車が来た。すれ違うアレか。
《飛び乗れ!》
「マジか」
《マジマジマギコ!行くのじゃ》
俺は、その時だけ……時間を止めた。
全員が俺を見た。
みんな固まっていた。
ただ一人だけ動けるこの空間。最大級の優越感。俺は、勉強も運動も関係ない。最高のぶっ飛んだ男として、刻まれた。
「フハハ。あばよ、みなの衆ー」
電車はあっという間に、陽稀との距離を離していった。もう凄い距離だ。
「噛み様、陽稀はぁー」
《発信機を付けてある》
「おお」
《ただし、おぬしをどう思ってるかは分からんぞ》
「上等!」
発信機の信号をたどると、ようやくか。
学校に着いた。
「妖鬼です!」
陽稀の自己紹介イベントだった。
「そこのお前は?」
「エ?」
「お前だ、お前」
「え、えーと……」
「魑魅魍魎です」
「……魑魅魍魎。妖鬼といい、今年は名前だけはいい奴ばかり来たようだな」
「てへてへ。てへぺろ」
転入できそうだ。
実に簡単だった。
おめでとう、俺。
次回も、……面白カッコイイぜ!