第1話の2『待て、この野郎』
無双転生!
ウオオ!
「うあああっ!」
今、俺は自由落下をしている。噛み様が、随分と高い所から生まれ変わらせてくれたからだ。
気がついたら、空だったんだ。
「うあああっヘブッ!」
バアアン!という音が聞こえたと思う。目下に水を張ったプールが見えた。水は圧力をかけるほど硬質化するため、俺がぶつかった水面はコンクリートと同じ硬さのはずだ。
一回跳ねて、空中に投げ出された後に、もう一度水面にぶつかり、今度はゆっくり沈んでいく。
か、体が動かない。
意識も薄くなってきた。解けそうだ。
粉のようになっていくのを感じる。粉……、きな粉だ。
俺は、きな粉になるんだ。砂糖を入れて、甘くて餅に合うきな粉に。
いや、コッペパンもいいだろう。たっぷり塗して、油で揚げた『きな粉揚げパン』だ。
花のように散りそうだ。チリソースだ。
俺は、……くそう!
なんだって、こんな。
こんな、呆気なく。
色々やりたい事だって、あったのに。
まさか、自分に降り懸かってくるなんて。
数十年は先の事だと思っていたのに。
時間よ、戻れ。
『バイツァダスト』だ。
友情パワーだ。
ああ。
俺は、俺は……
「プールに突撃して、死ぬんだ」
な、涙が込み上げてきた。
「って、ち、がーう!!」
死んでたまるか、何なんだ。
転生して、10秒で死にそうだったぞ。
プールを上がろう。
髪が凄い濡れてるし、消毒液臭いが。
重たい体を水から引き上げると、纏わり付く水がアメーバのように最後まで粘りついた。一滴一滴が亡者の叫びのようにしがみつくんだ。
「どういう事だ、コラー!」
空に怒りを叫ぶと、天の声が聞こえてくる。
《じゃ、じゃ、じゃ!》
「噛み様、テメエこの野郎!」
《なかなか衝撃的じゃったろ》
「死ぬところだったぞ」
《普通じゃつまらんと思っての》
「普通でいけよ!」
《イヤーン》
「イヤーンじゃねえよ」
《バカーン》
(ムカッ!)
とりあえず、何故か置いてあるタオルで体を拭き、頭を拭き、体を拭き……
「真っ裸じゃねえか」
《イヤーン》
「黙れ!」
どうやら裸のようだ。
俺は、辺りを探索する。
すると、一つだけ鍵のかかってないコインロッカーを発見した。
中を物色すると、男物の下着に服が見つかる。
サイズも合う。
よし、いただこう。
俺は、服をいただいた。
《おやおや、後に、深い関わりになる男装女子の服を取るとは……面白くなったのぅ》
「だ、ま、れ」
どうやら、噛み様によると、ここは原作第一話らしい。
と、いう事は陽稀のストーカー行為をストーカーしなければ、俺はヨウカイザーの学校にすら辿り着けないんじゃ。
ウオオ!大変だ。陽稀はどこだ。
「風花。どこだー!」
いた。
(いきなりだが、奴を追わねば。原作キャラと接点を無くしたら、モブキャラ以下だ)
奴は、駅の改札をジャンプして越えた。
俺も同じ事をしよう。
「Jourンプ」
駅員が沢山寄ってきた。ゲームのように四方八方から。こんなん見た事ねえぞ。どうしよう……。
俺は、暴力を使った。
一人目を右肘でえぐり取り、二人目を首相撲からの膝蹴りで。三人目をややショーリューケーン気味のアッパーカットで仕留めた。鼻血ブーで。
血で、その空間が真っ赤に染まったのだ。
「レスマーさーん。無賃乗車をやろうとしているのはこいつでーす」
2メーター近い外人がきやがった。
こんなん前世でも体験した事ねえぜ。
俺は、知能を使った。
消化器を使ったのだ。
辺り一面にばらまきながら逃げ出した。
「警察、警察!」
なんて事だ。
転生して、10分で、俺はこの世界の警察に追われるはめになってしまった。
もう止まらねえぜ。
妖怪に会ってくるぜ。
偉大な作品に突撃だ。
体当たリンカーン!