理解できない相手
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今回も刹那酷いです。注意してください。
突然のことに驚いて固まっていた華夜は自分がどういう状況なのか理解すると、必死に今の状態から脱しようと抵抗した。
「……っ、やぁ!」
「婚約者になるということはこういうこともあり得るということだ。俺は婚約者に何もせずにいられるほど聖人君子ではない」
「(だからっていきなり押し倒すなんて!)……ッ離して!」
華夜はじたばたと暴れたが、刹那はいともたやすく華夜の両腕を床に縫いとめた。そして、刹那が唇が華夜のそれに触れようしたその時、和室の障子が開いた。
「はーい、そこまで。それ以上はまだダメだよ」
「刹那、やり過ぎだ」
「明、康之、邪魔をするな」
「華夜ちゃんも今は急な話で混乱してるし、今日はやめておいた方がいいと思うよ。今よりも印象を悪くしたいなら止めないけどね」
「ちっ」
刹那は渋々、華夜の上から身体を退けた。すると、華夜は壁まで後ずさりして、刹那たちを睨んだ。
「どうしてっ、どうして、私なんですかっ?あなたたちの周りには私より家柄のいい子も綺麗な子もたくさんいるのに、どうして……」
「俺との婚約は嬉しくないのか?」
「す、好きな人との婚約じゃないのに嬉しいわけないじゃない!」
華夜の言ったことに刹那たち三人は軽く目を見張るとお互いに顔を見合わせて楽しそうに笑った。そんな三人の様子を華夜は困惑しながら見ていた。そして三人の気持ちを代表するように明が笑顔のまま言った。
「刹那の見る目は正しかったみたいだね」
「どういう、ことですか?」
「俺たちの周りには俺たちの顔とか家柄、金にしか興味のない女たちだけなんだ」
「……えっ?」
「だから、君みたいな女の子は珍しいんだよ?媚びを売ってくる娘たちがほとんど、刹那との婚約は彼女たちだったら二つ返事で受ける話なんだ。それを君はできるなら白紙にしたい、そうだよね?」
「当たり前です!こんなこと、今からでも遅くないです。この話なかったことにしてください」
華夜と明のやり取りを黙って聞いていた刹那は華夜の必死の訴えを淡々とした様子で却下した。
「断る。お前はもう俺の婚約者だ。俺の両親にも速水家当主の直政おじさんにも事前にそう伝えた。お前の家族にももう話は通っているはずだ。今さらなかったことには出来ない」
「…こんなの酷いです。私の夢は、素敵な人に出会って、その人を好きになって結ばれて、結婚して子どもが生まれて、そんな幸せな家庭を築くことなんです。好きな人とその人との間に生まれた子供と両親や兄たちに囲まれて笑顔で過ごすことが望みなんです!そんな夢も望んではいけないんですか?」
「そんなことは言っていない。夢を実現させたいならすればいい。ただ、その時お前の側にいるのは俺だ。それ以外は認めない」
「私は好きな人と叶えたいと言ってるじゃないですかっ」
「俺を好きになればいい」
「…はい?」
「俺を好きになって結婚して子供が生まれれば夢は叶うだろう」
「誰があなたを好きになるっていうんですか?私の家族を盾に婚約を迫って、その後すぐに婚約者を押し倒す人を好きにあるわけないじゃないですか?!」
「だが、俺はお前を手放す気は毛頭ない。それならさっさと諦めて降参したらどうだ?」
「…っ、あなたなんて絶対に好きにならない!大っ嫌い!!」
そう刹那に向かって叫ぶと、華夜は部屋を飛び出していった。
「刹那あまりやり過ぎると嫌われるぞ」
「いや、康之、あれはもうどう見ても嫌われてるよ」
康之の忠告に明がすかさず、突っ込みを入れていた。そんな二人のやり取りをものともせず、刹那は不敵に返した。
「今、嫌われようが関係ない。もうあいつは俺のものだ」
「そんなこと言って後悔しても知らないからな」
「そんなことにはならない」
「刹那、程々にしておけ。恋愛は自分が相手を好きなだけでは成り立たない。相手にも自分を好きになって貰えるように努力が必要なんだ」
「別に必要ない。今までだってそうだった」
「今までと同じような女じゃないから気に入ったんじゃないのか?」
「それは…」
「まぁ、刹那の当面の目標は華夜ちゃんに優しくすることだね」
「…は!?なんで俺が!!」
「優しくされて嫌な子なんていないだろうし、このままじゃあ、嫌われていく一方だよ。取り返しがつかなくなる前に少しでも印象を良くしておいた方がいいんじゃない?」
「ちっ、…わかった、考えておく」
刹那の素直じゃない返事に明は呆れた表情をしてもう一度言い聞かせるために再び口を開こうとするが、康之に腕を掴まれ、振り向くと無言で首を振られた。今、刹那に何を言っても聞かないであろうことは明にも康之にも長い付き合いの中で分かっていたが、それでも明は刹那の態度を不満に思った。だが、康之がさりげなく話題を変えたため、明も仕方なく話に入った。
「それにしても仙堂が逃げたのはいいのか?」
「確かに。大嫌いって叫びながら出て行ったし、もうすでに婚約解消になってたりして」
「それはない」
自信満々に言い切った刹那に明と康之は首を傾げ、明が刹那に訝しげに聞いた。
「なんでそんなこと言い切れるんだよ?」
「家族を盾に散々脅したからな。あの様子ならまだ大丈夫だろう」
「…鬼がいる」
「うるさい」
明の言葉に刹那は叱られた子どものような不満そうな顔をして、ついっと横を向いて言った。
***
その頃、部屋を飛び出した華夜は家族の待つ客間に戻るために足を進めていたが、頭の中はさっきの刹那とのやり取りでいっぱいだった。
(婚約者って何?なんで?どうしてこんなことになったの?)
学校で避けていた人間が突然目の前に現れただけでも華夜は混乱していた。だが、それ以上にその相手がいつの間にか自分の婚約者に決まっていて、断ろうにも断れないという現状にパニックになった。普通の人生を送ることが夢だったのにその夢はもろくも崩れ去った。
(どうしてこうなったんだろう?どうしてあんな人と…。しかもよりにもよって、あの人の婚約者だった人だなんて、もう、どうしたらいいの?わからない、わからないよ……)
そして、屋敷の中をどこをどう歩いたかはわからないが、華夜はいつの間にか家族の待つ客間の前の廊下に立っていた。そしてこれから家族に聞かれるであろうことを思って、襖を開ける前に深呼吸をして気持ちを落ち着けた。
いかがでしたでしょうか?刹那の印象は華夜の中で最悪です。今後の刹那の頑張りにかかってると思います。次回、またお会いましょう。