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白兎の涙  作者: 佐倉ゆき
7/12

悪夢

 感想いただきました。ありがとうございます!これからもがんばって書いていこうと思います。

 さて、今回の話ですが、暴力的な発言が多いです。ご注意ください。

 華夜は薄暗い自室の真ん中に正座していた。華夜の他には五十代の男女と二十代後半の男女四人の大人がいて、五十代の男女の方が華夜に向かい合うように座り、二十代後半の男女の方は全体が見渡せる位置に座っていた。華夜は何の用があるのか、小さな体をさらに小さくさせてびくびくと怯えていた。何故なら、彼らの存在は常に華夜を傷つけることしかなかったからだ。華夜の正面に座る男が口を開いた。


 「久しぶりだな。今日はお前に良い報せだ」


 華夜は男の言ったことに、驚いて正面の男の顔を凝視した。そして、男の次の言葉を待った。


 「この部屋から出ることを許可する。今後は部屋に戻らなくていい」


 「ほ、ほんとうにこのへやから出てもいいのですか、おじいさま?」


 華夜の目には期待と不安が見え隠れしていた。生まれてからほとんどの時を、窓もなく入口の戸には常に鍵が掛かり、かび臭いこの部屋で過ごしていた華夜にとって、外に出られるということは不安も大きいが期待に胸を膨らませてもいた。だが、そんな様子の華夜に祖父である男は告げた。


 「あぁ、但し、出るのはこの部屋だけでない。この屋敷から出ていくんだ」


 「……えっ?ど、ういう、こと、ですか?」


 「これ以上お前のような気味の悪い子どもは屋敷には置いておけないということだ」


 「…お、じいさ、ま、わたしっ、何でも、します。おそうじもおりょうりも何でも、おてつだいします。だからここにおいてください!おねがいします!」


 祖父から告げられた言葉に華夜はぽろぽろと涙をこぼしながら必死に頭を下げて言った。だが、華夜の必死な願いにもここにいる大人たちは眉一つ動かさず冷めた目で見ていた。


 「泣けば出て行かずに済むと思っているのなら大間違いですよ」


 「…っ、おばあ、さま」


 「本当に馬鹿だな。お前のような人間が、少しでも愛されてたとでも思っていたのか?」


 「…おとうさ、ま」


 「そんなわけないじゃない。こんな化け物じみた容姿のあんたなんて産まなければよかったわ」


 「…お、かあさま」


 「さっさと泣き止んで出ていけ。目障りだ。それと、今後一切中条家に関わろうと思うな。命が惜しいと思うならな」


 ひたすらに泣き続ける子供に祖父母や父母という血縁関係に当たる大人たちは冷酷に言葉という名の凶器を投げつけて部屋を出て行った。しばらく先ほどの大人たちの言葉を反芻して涙を流していると、見知らぬ男が二人入ってきて華夜の腕を掴むと引きずるように部屋を出て、屋敷の塀の外に放り出された。あまりの出来事に華夜はしばらく呆然とその場に座り込んでいた。


 そこで華夜はフッと目を覚ました。起きるとそこは車の中だった。運転席には光晴、助手席には花苗、陽斗と紗枝はその後ろの座席に座って何か話していた。そして一番後ろの座席には華夜が横になっていた。自分が眠っていたのだと理解すると、華夜は静かに息を吐いた。昔の夢を見た。いつもと同じで過去に体験していたことだったが、見たのは捨てられた日のことだった。夢であったことに安堵と憂鬱な気持ちが心の中でごちゃ混ぜになる。そして溢れた気持ちは華夜の頬を静かに流れていった。今日は華夜の実家の仙堂家の本家である速水家に家族そろって訪問することになっていた。車は確実に一路速水家へと向かっていく。


 華夜は車から降りると大きな門構えを見上げて呆けた。華夜の家も一戸建ての中では大きな方で割と裕福といわれる暮らしをしているかもしれないが、一般庶民のカテゴリーの範囲内ではあるだろう。だが、この速水家は格が違った。速水家が明らかに自分たちとは違う世界の住人だと分かり、華夜は訪問する前から気後れしてしまった。光晴たちは何度か来たことがあるので慣れたものだが、華夜と紗枝はきょろきょろと辺りを見回しながら不安そうに門の中に入っていった。


 屋敷も仙堂家とは比べ物にならないほど大きくて立派な佇まいだった。純和風な庭からは鹿脅しが鳴っているのが聞こえてくる。到る所にある柱には細かな細工がして施してあり、一体いくつあるのかと思うほどの和室、長く続く廊下、一人で歩くとなると絶対に迷ってしまいそうだった。そんな屋敷の中を住み込みのお手伝いさんであろう女性に案内されて華夜たち5人は客間に通された。そこも何畳あるのかと思うような広い和室だった。その部屋にはすでに座布団が用意されており、光晴から順に座布団に座るとお手伝いさんはすっと頭を下げて去っていった。

 

 待つこと数分、足音が秘話に面した廊下とは逆の廊下から聞こえてきた。そして、この部屋の前で止まり、襖が開いた。そこに立っていたのは着流しの優しそうな男性だった。そして彼が華夜たちと向かい合うように置かれている座布団に座ると見計らったようにお手伝いさんによってお茶が運ばれてきた。彼女の姿が襖の向こうに消えると、光晴が口を開いた。


 「御当主、本日はお招きいただきありがとうございます」


 そう言うと光晴は頭を下げた。華夜たちも光晴にならって同じように頭を下げる。すると、柔らかな声が頭の上から聞こえてきた。


 「うん、よく来たね。頭を上げなさい。今日は遠いところご苦労だったね」


 そう言われて頭を上げると男性がにこにこと笑っていた。


 「いいえ、御当主仰せならばどこへなりとも」


 「そう言って貰えて嬉しいよ。ところでいつまでそんな喋り方してるんだい?」


 そう言うと当主はつまらなさそうな表情を見せた。光晴はそんな当主の顔を見ておかしそうに言った。


 「済まない。だが、最初の挨拶くらいしっかりしておかないとな」


 「とか言ってお前は放っておいたらずっとその喋り方だろう」


 「こんな時代いつだれが見ているとも限らないからな」


 親しげに話している光晴たちをぽかんとした様子で華夜と紗枝は見ていた。その様子を見て、当主は楽しそうに笑った。


 「花苗さんと陽斗君は慣れているだろうが、そちらの女性二人は初対面の私とお前のやり取りに驚いているようだぞ?さっさと紹介してくれないか」


 「やれやれ、相変わらずせっかちだな。陽斗の隣に座っているのが陽斗の婚約者の木村紗枝さん、紗枝さんの隣に座っているのが娘の華夜だ。紗枝さんは大学で経済学を専攻している。華夜は前にも言った通り、今年の春に星清学園高等部に入学した。華夜、紗枝さん、彼が速水家当主の速水直政だ。彼と私は高校の同級生なんだ」


 そう光晴が言うと、直政は華夜たちに視線を向けた。


 「初めまして。急にこんな場所に来てもらって済まなかったね。だが、華夜さんにも紗枝さんにも一度ちゃんと会っておきたくてね」


 「いえ、お会いできて光栄です」


 「今まできちんとしたご挨拶ができずに申し訳ありませんでした」


 にこにこと人のいい笑みを浮かべて直政が言うと、紗枝は同じように微笑みながら返した。だが、華夜は今まで必死に理由を作ってここに来ないようにしていた手前、少し後ろめたくて伏せ目がちに言った。


 「いやいや構わないよ。今日も無理に誘ってしまって悪かったね」


 そんな直政の言葉に華夜ははっと顔を上げて否定した。


 「そんなことありません。今日お会いできて嬉しいです」


 「そう言って貰えてよかった。二人とも今日はゆっくりしていきなさい」


 「「はい、ありがとうございます」」


 紗枝と二人声を揃えて言って華夜もほっとしたように笑った。華夜たちとの会話が終わると直政は花苗と陽斗にも声をかけた。


 「久しぶりだね、花苗さん、陽斗君。元気そうだね」


 「はい、ご無沙汰しておりました」


 「お久しぶりです。直政おじさんも元気そうで何よりです」


 直政たちの会話が弾む中、庭に面した廊下からすたすたと数人の足音が聞こえてきた。一番近くにいた華夜が足音に気がついて、障子を見ると同時に障子が開いた。

 如何でしたでしょうか?今回は刹那たちは出すことはできませんでしたが、次の回こそご期待ください。(たぶん…)刹那君ゴーイングマイウェイを突っ走ります…。

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