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白兎の涙  作者: 佐倉ゆき
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動き出した事態

お久しぶりです。長々と更新をせずにいてすみませんでした。これからはもっと頑張って更新していきますので、長い目で見守ってください。

 華夜は駅前のカフェによるという愛美たちと別れて一人家路についていた。電車に乗って三つ先の駅で降りて十分ほど歩くと青い屋根に白い壁の一戸建ての見慣れた家が見えてきた。いつものように門扉を通って、玄関を開けると、台所から良い匂いが漂ってきた。


 「ただいまーっ」


 靴を脱ぎながら家の中へと声をかけると、キッチンに繋がる扉からエプロンをつけた母の花苗が姿を現した。


 「まぁ、早かったのね。お帰りなさい、華夜ちゃん」


 「お母さん、ただいま。夕飯作るの手伝うよ?」


 花苗が華夜の言葉を聞いてニコニコと笑顔で言った。


 「そう?ありがとう。じゃあ、お願いしようかしら」


 「りょーかい!着替えてくるからちょっと待っててね」


 「先に行ってるわね」


 「はーい」


 華夜は靴を脱いで廊下の側にある階段を上がって二階へ行き、階段を上がってすぐのところにある自分の部屋へと入った。そして、扉から近い場所にある勉強机の横に鞄を置いて、クローゼットから普段着を適当に取り出して制服を手早く脱いでそちらへと着替えた。脱いだ制服をハンガーにかけてクローゼットの中へと片付け、机に向かって腰掛け、机の一番上の引き出しから鏡と櫛、バレッタを引出しから取り出し、鏡を机の上に立てかけて置いた。華夜は鏡を覗きこみ、慣れた仕草でまず最初に自分の目に入れているカラーコンタクトを外した。次に頭に手をやった。外から髪に隠れて見えないように止めていたピンを全て外して、自身の頭からウィッグを取った。ウイッグの下に纏めていた髪を解いて、改めて鏡を見ると、黒髪黒目ではない、白銀の髪に紅の瞳の見慣れた自分になっていた。


 白銀の髪は背中を隠すほどの長さで、窓から差し込む光を反射しながらキラキラと輝いていた。紅の瞳はルビーのような美しさを持って鏡を覗く華夜自身を映していた。これが華夜が隠しておきたい秘密の一つだった。華夜はアルビノという先天的なメラニン色素の欠乏により日本人としては珍しい色の髪と眼、透き通るほどに白い肌をしていた。櫛で髪を軽く梳いてから首の後ろで一つに括って、邪魔にならないように頭へ纏めた。準備が整うと櫛と鏡を一番上の引き出しへ、ウィッグとカラーコンタクトを一番下の引き出しへと片づけた。それから、母の待つ台所へと急いで向かった。


  ******


 華夜が高崎刹那と出会ったあの日からひと月ほど経った。最初は華夜も近いうちにまた刹那と会ってしまうのではないかとびくびくしていたが、学年の違う二人は意外と接点が少なく、教室も学年ごとで校舎が分かれているためにまったくといっていいほど顔を合わせることはなかった。数少ない接点のうちである愛美も幼馴染で刹那の友人でもある康之に会いに行くときには放課後に一人で行くことが多く、たまに誘われた時などは華夜も何か理由をつけては先に帰っていた。そして、そんな生活を続けて華夜の警戒心も薄れ掛けていたところに事態を大きく変えることが起こった。


 それは8歳離れた兄の陽斗が自分の婚約者である紗枝と共に実家に帰ってきた時に、華夜と陽斗、それに紗枝と華夜たちの両親の五人で食卓を囲んでいた時のことだった。陽斗の婚約者である紗枝は仙堂家では家族の一員として過ごしていた。華夜と紗枝は実の姉妹のように仲が良く、紗枝は華夜の秘密を知る数少ない一人だ。その日は休日で陽斗が紗枝を伴って実家に帰って来るという連絡を受けたことから、母の花苗が張り切って昼ごろからご馳走を作っていた。華夜もそんな母を手伝って台所に立っていた。そして、陽斗たちが夕方ごろ家に到着して、昼ごろから出かけていた光晴も同じころに帰宅し、料理も出来上がって、五人で会話をしながら料理を口に運んでいた時に、唐突に父の光晴が口を開いた。。


 「そういえば、陽斗、華夜、来週の土曜日は空いてるかい?」


 「うん、空いてるけど、どうして?」


 不思議そうに聞き返す娘の疑問に答えず、一先ず頷いてから息子と息子の婚約者に聞いた。


 「そうか。陽斗はどうだ?もし良かったら、紗枝さんもどうかね?」


 「私は大丈夫ですけど」


 「俺も来週の土曜日は空いてるけど、なんでそんな事聞くんだよ?」


 光晴は息子の問いを受けて、彼の妻と息子と娘、そして将来の義理の娘の顔を見渡してから彼自身も困惑した様子で答えた。


 「それが私にもよく分からないんだが、今日速水の御当主に将棋の相手をしてほしいと呼ばれていったら、久々に花苗や陽斗に会いたいと仰られてね。それにまだ顔見世をしていない華夜ことも話に出て、それならいっそのこと家族揃って遊びに来い、と言われたんだ」


 「父さん、それってまずくないか?俺や母さん、紗枝はともかく、華夜が会いに行けば中条に華夜のことが知られてしまう可能性があるんじゃないか?」


 華夜は光晴の言葉に一瞬何を言われているのか放心してしまったが陽斗の言葉で我に返り、脳内に光晴の言葉が浸透してくると、手に持っていた箸を皿の上に置いて両手を膝の上で固く握った。ついにこの時が来た、と頭で理解しながらも華夜の心は拒否を示していた。


 「私も華夜は高校に入ったばかりで環境に慣れていないから、今回は花苗と陽斗にお会いするだけにしてほしいと言ったんだが、どうしても華夜に会ってみたいと仰られて断りきれなかった。すまない、華夜」


 「ううん、今まで本家への集まりとかパーティーとか無理やり、全部欠席にしてもらってたんだもの。これ以上お父さんたちに迷惑なんてかけられないよ」


 「私たちに迷惑が掛かるとかそんなことは考えなくていいの。華夜ちゃんは私たちの大事な娘なんだから、行きたくなかったら素直に言っていいのよ?」


 父親に心配かけまいと無理に微笑む華夜に、それまで話を黙って聞いていた花苗は無理はしなくていい、と諭すように言った。花苗の言葉と周りの家族の心配そうな顔に華夜は心が温まるのを感じた。

 

 「…ううん、私決めた。本家に行くよ」


 「無理はしないでね、華夜ちゃん」


 「ありがとう、紗枝さん」


 「本当に大丈夫なのか、華夜?」


 「うん。いつまでの逃げられないのは分かってたことだもん。今回の本家からの呼び出しはいい機会だと思う。私、行くよ」


 兄の念を押すような声に華夜は決意の感じられる顔でしっかりと言った。

 

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