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白兎の涙  作者: 佐倉ゆき
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隠していること

 いつも読んでくださってありがとうございます。いつの間にか、お気に入り登録数90件突破してました。ありがとうございます!これからも頑張りますのでよろしくお願いします!!

 今回は女の子三人の会話です。少しシリアスなのでご注意ください。

 華夜は刹那たちの前から逃げるように校舎の中に逃げ込み、近くにあったトイレに駆け込んだ。手洗い場のところに手をついて逸る心臓を深呼吸して落ち着け、それから鏡で自分の顔を確認した。鏡の中の華夜は真っ白を通り越して、真っ青な顔色をしていた。刹那たちと出会ってから、ずっと華夜の頭の中にはあの忌まわしい過去の出来事しかなかった。その過去を振り払うようにあの場から逃げてきたのだ。そして、その過去とは今も華夜を縛り続けている心の奥底に眠る闇だった。


 「なんでほっといてくれないの?私はもうあの人たちに関わりたくなんてないのに」


 どんなに幸せな思いになっても楽しい体験をしていてもいつも闇は心の隅にあった。少しでも気を抜いてしまえば、真っ暗な闇の中に引きずり込まれそうになる。当時は何も感じなかった心が最近になってひどく痛むようになってきた。その傷口は今だ癒えることなく血を流し続けている。


 「向こうだって、私のことなんてきっと忘れてる。もし、覚えてたとしても私に会いたいなんて思うはずがない。それなのに、なんで今さらっ・・・」


 華夜は泣き出しそうになるのを堪え、両手で顔を叩いた。パンッ、という乾いた音が夕暮れになって薄暗くなった女子トイレに響いた。華夜が鏡を見ると、少し頬の赤くなった自分が不安そうな顔をして鏡に映っていた。華夜はこれから先が不安で仕方なかったが、刹那たちのような人間がわざわざどこにでもいる自分みたいな人間と関わるような真似をするはずがないと無理やり納得した。


 「大丈夫、大丈夫。今まで関わらずにいられたんだもん。これからも、平気だよ・・・」

 

 華夜が自分に言い聞かせていると、遠くからパタパタと廊下を走る足音が聞こえてきた。足音が大きくなるに連れて、話し声も聞こえるようになってきた。


 「華夜、もう帰っちゃったのかな?」


 「だけど、帰る前に日焼け止め塗らないといけないから、校舎を出てる可能性は低いと思うけど」


 「じゃあ、校舎の中にはいるんだ」


 「そう思うんだけど、まずは本当に帰ってないのか下駄箱の靴を確認した方がいいね」


 「そっかぁ。じゃあ、まずは下駄箱だね!」


 それは華夜を捜している愛美と真子の会話だった。華夜は足音の主が自身の友人二人だと分かると、慌てて鏡で自分の顔を見て、顔色が戻っているのを確認してからトイレを出た。そして、辺りを見回して二人の姿を捜すと、調度トイレの前を通り過ぎたところだったらしく、華夜の気配に振り向いた二人と目が合った。


 「華夜、急に帰っちゃうから心配したんだよ?」


 「そうよ。いきなり走って帰ったら吃驚するでしょ?」


 「心配かけてごめんなさい」


 心の底から心配したという様子の二人の様子に、華夜は気が動転していたとはいえ、二人を置いてあの場から逃げ出してきた自分の行動を反省し、二人に頭を下げて謝った。華夜の謝罪に二人は微笑んだ。


 「反省してるみたいだから、駅前のカフェのチョコレートパフェで手を打ってあげる」


 「しょうがないなぁ。じゃあ、あたしはイチゴのミルフィーユね」


 二人の言葉に華夜は顔を上げて目を丸くした。そして、次の瞬間噴出して楽しそうに言った。


 「あははっ、うん、わかった。パフェとミルフィーユね」


 華夜の笑い声で、愛美たちも声を上げて笑った。一頻り三人で笑うと、真子が華夜に聞いた。


 「そういえば、ずいぶんと急いでたみたいだけど、さっき言ってた用事って、家の用なの?」


 「う、うん。実は今日、お兄ちゃんが久しぶりに家に帰ってくるから、早く帰らなくちゃいけないの忘れてたの

 (う、嘘はついてないよね。お兄ちゃんが今日帰ってくるのも、早く家に帰らないといけないのも本当だもんね。ただ、まだこんな風に慌てて帰らなくても大丈夫なだけで・・・)」


 華夜は友人たちに正直に話せないことへ後ろめたさを感じつつ、言い訳するように自分を納得させた。


 「華夜、お兄さんいるんだ?」


 「うん。結構年が離れてて、8歳差なんだ。今、離れて暮らしてるんだけど、昔からすっごく過保護で友だちと遊びに行くのにもついてきそうになったりとか、とにかく心配性なの」


 ((間違いなくシスコンだっ))


 華夜の話を聞いた愛美と真子の頭の中で華夜の兄について同じ感想が浮かんだ。愛美たちの様子に首を傾げていた華夜だが、気にせず話を進めた。


 「・・・?だからね、今日も早く帰らないとダメなの。せっかく誘ってくれたのにごめんね」


 「気にしなくていいよ。そういう家の事情なら仕方ないもん」


 「そうね。寄り道して帰りが遅くなったりしたら、今後の遊びに行く予定も行けなくなってしまうかもしれないものね」


 「うっ、それは嫌だな。一刻も早く帰らないと!ちょっと待っててね」


 そう言って、華夜は帰る支度をするためにトイレの中にUターンした。


 「分かったわ。紫外線アレルギーも大変ね」


 真子は華夜に了承を伝えると誰に言うでもなくポツリと漏らした。愛美も無言でうなずき同意した。華夜は普段長袖を着ていることが多く、外に出るときには日焼け止めクリームを塗って、尚且つ常に日傘を差していた。野外活動には参加せず、体育もグラウンドでの活動などは教室にて見学をしている。周囲にはその理由を紫外線アレルギーということで通している。本当の理由は別のところにあったが家族以外に知る人はほとんどいない。もちろん愛美たちもまだ知らなかった。


 愛美たちは華夜の姿がトイレの中に消えたことでどちらともなくため息をついて小声で話し始めた。


 「華夜、顔色悪かったね。それに様子も少しおかしかったみたいだし」


 「ええ。高崎先輩たちに会った時から挙動不審ね」


 「うん、特に高崎先輩に対しては関わりたくないって感じだった」


 「わたしもそう感じたわ。でも、高崎先輩と面識があったような感じではなかったし、どちらかというと彼の婚約者の名前に反応していたみたい」


 「華夜が隠していることと何か関係あるのかな?」


 「今、はっきりとは分からないけれど、間違いないと思うわ」


 「いつか理由を話してくれるのかな?」


 「華夜を信じて待ちましょう」


 「うん、そうだね」


 愛美と真子は華夜が抱えている秘密を打ち明けて貰えるのを華夜と友人になったその時からずっと心待ちにしていた。

 

 読んでくださってありがとうございました。如何でしたでしょうか?次回から事態が動き出してきますので、乞う、ご期待。・・・多分。

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