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白兎の涙  作者: 佐倉ゆき
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興味

 「・・・っな!おい、刹那!!」


 刹那は自分を呼ぶ明の声に鬱陶しげに視線をやって応えた。


 「なんだ?」


 「なんだじゃないよ。ずっと、上の空で何回呼んでも返事もしないし、どうしたんだよ?」


 「別に」


 「・・・っ」


 刹那は視線を明から外して目を閉じた。そんな刹那にイライラを募らせた明は康之に矛先を変えた。


 「なぁ、康之。刹那なんとかしてよ」 


 「どうすればいいんだ?」


 「どうって・・・。だって、刹那の奴さっきからこの状態なんだよ。明らかにおかしいでしょ」


 「まぁ、確かにそうだが。・・・刹那、彼女、仙堂のことが気になるのか?」


 「あぁ、あんな態度取られたの初めてだしな。ほとんどの奴は金や権力、容姿に目が眩んで俺に媚を売ってきやがる。だが、仙堂華夜は俺に興味すら示さなかった」


 (俺を見ているようで、俺じゃない何かを見ていた。こんなこと初めてだ)


 普段良い意味でも悪い意味でも注目を浴びている刹那にとって、華夜のとった行動は新鮮なものであった。そして、無性に彼女の瞳に自分を映したい気持ちになっていた。


 「確かに。刹那よりも中条家のことの方が気になってるみたいだったよね」


 「あぁ、明らかに知っている風だったのに知らないふりをしていた。そして、まるで関わりたくないとでも言うように逃げるように去っていったからな」


 華夜が逃げ帰ってしまった後、華夜を追って愛美と真子も昇降口に走って行ってしまった。取り残された三人は予想外の出来事に驚いてはいたが、何事もなかったようにいつも通り街に遊びに来ていた。だが、先ほどの事が気になっていた。最終的に康之の部屋に落ち着き、様々な話をしていたが、結局先ほどの話になっていた。


 「うーん、中条と何があったのか気にはなるけど」


 「仙堂華夜が中条の情報を握っていて、それを聞き出すことができれば中条菖と結婚せずにいられるんだから万々歳なんだけどな」


 刹那の婚約者である中条菖はスタイルが良く、目鼻立ちの整った気の強そうな印象の顔だった。物言いなども甘やかされて育ったことが想像できる高慢な言葉が多かった。刹那や刹那の親の前では多少の猫はかぶっていたようだが、刹那は一回会っただけで辟易してしまった。高崎家としては特に政略結婚をする必要はないのだが、中条家の熱心な誘いで成り立っている話だった。会った時のことを思い出したのか嫌そうな顔をしている刹那に明が呆れたように言った。


 「そんなに嫌なら婚約の話が出た時点で断ればよかったのに」

 

 「中条家の本家にあたる速水家の息子がそれを言うのか?…特に想う相手がいないなら婚約すればいい、と割と乗り気だったからな、うちの親。特に母さんの方が。それに押し切られたんだよ」


 「お前でも押し負けることがあるんだな。でも、なんでお前の母親、紅葉さんはそんなに乗り気なんだ?」


 「母さんはずっと娘が欲しかったんだ。俺が小さかった頃は女装させて遊んでたぐらいだからな。それに実の娘がダメなら将来の義理の娘と早くウィンドウショッピングや色々なことをしてみたいっていつも言ってる」


 「そうなのか?でも、あの中条家のご令嬢じゃ無理だろう。紅葉さんが言ってるのは友達親子みたいな関係だろ?」


 「あぁ、多分な。けど、義理でも娘ができるってテンション上がってるからな。あれじゃあ、向こうが猫かぶってる今の状態だと、さすがの母さんでも見抜けないだろうな」


 普段の紅葉だったら、菖が何枚猫を被っていようが今までの経験から何事もなく見抜いていただろうが、たとえ義理であろうが念願の娘という存在に盲目的になってる今の状態では無理難題な話であった。心底今回の婚約を後悔しているであろう刹那の憂鬱そうな表情に明は励ますように言った。


 「それなら、すぐにでも刹那が好きな相手を家に連れて行って親に紹介すれば、婚約解消で解決だね」


 「それができたら苦労はしねぇよ。だから、中条の弱みが必要なんだよ」


 明の気遣いも刹那は意に介さず、不機嫌な顔になった。康之は刹那の言葉を聞いて、難しい顔をしながら言った。


 「確かに、全く無関係の娘を連れて行っても本家の速水とも要らぬ波風が立つかもしれないからな」


 「速水とも波風が立たず、母さんが気に入るような相手なんていないだろ」 


 「いや、第一条件は刹那がその娘のことを好きかどうかだからね」


 「俺の容姿や金にしか興味のない人間をどう好きになれと?そんなことしたら、中条菖の二の舞だろう」


 「お前の外見や家柄じゃなくて、中身を知って好意を寄せてくれる相手か」


 「まぁ、そんな相手がいれば苦労はしない」


 「速水の分家の中にそんな娘がいればいいのにね」


 明の言葉で刹那の頭の中にふっ、と先ほど会ったばかりの華夜の怯えた顔が浮かんだ。


 「・・・明、仙堂家とお前の家の仲は良いのか?」


 「速水と仙堂?悪くないと思うよ。仙堂は速水家の分家の末端って言われてるけど、父さんと仙堂の次期当主である光晴さんって気が合うみたいでさ、よく一緒に酒飲んでるみたいだし、光晴さん、弁護士なんだけど、速水の顧問弁護士の一人なんだよね。母さんも花苗さん、光晴さんの奥さんなんだけど、この二人もよくお茶してるみたいだし」


 明は刹那の突飛な問いを訝しげに思いながらも自分の知っていることを告げた。


 「そうか、仙堂華夜については何か知っているのか」 


 「仙堂さん?彼女のことについては俺もよく知らないんだ。会ったのはさっきが初めてだし、本家と分家の集まりとかも彼女、出席しないから。ちょっと聞いた話だと養子かもしれないっていう噂を聞いたことはあるけど、本当のことかまではわからない。父さんだったら本当かどうか知ってるかもしれないけど」


 「おい、刹那、中条菖の代わりに仙堂華夜と婚約するつもりか?」


 康之は先ほどよりもさらに難しい顔をして、刹那に対して責めるような口調になっていたが、刹那の表情は憂鬱そうな顔から一転して、何かを企むような顔になっていた。


 「良い案だと思わないか?家は中条と同じ速水の分家で、中条よりも関係は良好で、仙堂華夜本人は俺の容姿や家に対して興味も示さず、逆に避けていた。今までにないタイプだからな、面白そうだ」


 「面白そうってだけで、婚約する相手を選ぶな。お前もそうだが、相手にとっても一生の問題になるかもしれないんだ」


 康之は諭すように刹那に言い聞かせた。それに明も賛同する。


 「そうだよ。それに彼女が婚約したくないって言ったらどうするのさ?」


 「承諾させて見せるさ。どんな手を使ってもな」


 そう言って刹那は不敵に笑った。


 

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