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白兎の涙  作者: 佐倉ゆき
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呼び名

 訪問していただきありがとうございます。新しい話を待ってくださっていた方、お久しぶりです。投稿が遅くなり、すみませんでした。今後とも頑張って書いていくようにしますのでよろしくお願いします。

 無理やり引きずられるようにして、華夜が連れてこられたのは使われていない空き教室だった。そして、刹那たちはそれぞれ適当な椅子に座ったり、壁に寄りかかったりした。華夜は刹那に腕を掴まれたままだったので、刹那の隣の椅子に座らされた。そして、最初に口を開いたのは呆れた口調の明だった。


 「まったく、珍しく先に学校行ってると思ったら何やってんの、刹那?」


 「仕置きだ、仕置き。生意気なのも嫌いじゃないが、そんな奴を従順にさせる方が面白いからな」


 「仕置きって……、程ほどにしときなよ?」


 「嫌われない程度にな」


 「あぁ、分かってる」


 (えっ?ここは普通、そんなことするなって止めてくれる場面じゃないの?!しかも嫌われない程度も何も、わたし、もうこの人のこと嫌いなんですけど?!それに全然わかってないと思うんだけど、この人…) 


 三人の会話に心の中で突っ込みを入れていた華夜だったが、次第に突っ込むことにも疲れていった。そして、何故自分がここに連れて来られたのかわからない華夜は、この微妙な空間から抜け出すために会話が途切れた瞬間を見計らって割り込んだ。 


 「あの、そろそろ予鈴なので、教室へ行ってもいいですか?」


 「あ、もうそろそろホームルームの時間だね」


 華夜の言葉に明が左腕にしてる時計を見て呟いた。そして、刹那は特に時間を気にする様子もなくひとこと言った。

  

 「サボれ」


 「……」


 刹那の反論を許さない一刀両断に華夜は思わず沈黙してしまった。明が困った顔で刹那に進言した。


 「あのな、刹那、オレ達はともかく華夜ちゃんはダメだよ」


 「俺がいいって言ったらいいんだよ」

 

 (どこの俺様!?先輩たちもダメだと思うんだけど。でも一番の問題はそこじゃなくて、せっかく無遅刻無欠席だったのに早くもサボり!?不良の仲間入り!?ダメダメッ!みんなに心配かけたくないもん!!)


 「あの、友達が心配してると思いますので、話は昼休みに聞きま」

 

 「はぁ、仕方ないな。わかった、彼女の担任には後で伝えておくよ。と言うわけで、華夜ちゃん、ここでもう少し話そうか」


 「えっと、私教室に…」


 「うん、何の話をしようか?」

 

 (私の意見は無視ですか、そうですか…)


 華夜の話を綺麗にスルーしつつ、にっこりと胡散臭い笑顔で話しかけてくる明に華夜も抵抗する気が失せてがっくりと落ち込んでしまった。そんな華夜をよそに明が話しかけてきた。


 「そういえば、まだちゃんと自己紹介してなかったよね?それじゃあオレからね。改めてオレは速水明、明って呼んで?クラスは3-Aだよ。よろしくね」


 「俺は荻野康之、康之でいい。クラスは3-A」


 「…高崎刹那。刹那でいい。3-A」


 「(この人たちと仲良くなんてしたくないのに!でも、表面上だけでも友好的にしてないとお父さんたちに迷惑が掛かっちゃうよね)……仙堂華夜です、明先輩、康之先輩、刹那先輩よろしくお願いします。クラスは1-Cです」


 華夜の自己紹介を聞いて、刹那の眉間にしわが寄っているのに気付いた明が不思議そうに尋ねた。


 「どうかした、刹那?不満そうな顔してるけど」 


 「…ただの刹那でいい。それから敬語もいらない」


 明の言葉を無視して、刹那は不機嫌そうに華夜に言った。だが、華夜は刹那の言葉に戸惑った。


 「でも、そんなわけには」


 「俺がいいって言ってる。それにお前はもう俺のものなんだ。慣れておくのに越したことはないだろう」


 「(まだ、結婚してないもん。婚約だけだし、しかも強制的な…)あの、それじゃあ、刹那、くん?」

 

 「君もいらない」


 「えっと、刹那…、くん」

 

 「……」


 どうしても、君付けになってしまう華夜の刹那への呼び方に刹那の眉間のしわはどんどん深くなっていく一方だ。その不機嫌な様子を見て、華夜も必死に弁解する。


 「ごめんなさい…。男友達っていなかったから男の子の呼び捨てとか、ため口って慣れてないんです。あの、頑張って慣れるようにしますから(って、なんで私がこんなに謝ってるの?)」


 「それじゃあさ、華夜ちゃんの呼びやすいように刹那にあだ名つけてあげたらどう?それを華夜ちゃん以外に呼ばせなかったらいいじゃない?あだ名で呼んでたら、普通に話せるようになってくるだろうし」


 華夜たちの様子を見かねた明が助け舟として譲歩案を出した。

 

 「あだ名、ね。…好きにしろ」


 「ほら、刹那の許可も出たことだし、好きに呼んであげたら?」


 (好きにって、なんで私がそこまでしないといけないの?それに気に入らなかったら何されるかわからないのに無理だよ!?でも、『刹那先輩』じゃ納得してくれないみたいだし、どうしよう…)


 せっかくの明の助け舟だったが、華夜はさらに困惑してしまった。そして、十数秒沈黙の後、躊躇いながらも口を開いた。


 「……えっと、刹くんっていうのはどうで、…どう、かな?」


 「…別に、それでいい」


 「よかったね、華夜ちゃん。刹那、気に入ったみたいだよ」


 (とりあえず、よかった、の、かな?)


 どうにか納得してくれて、眉間のしわがなくなった刹那に華夜は、ほっと一息ついた。


 如何でしたでしょうか?少しは華夜と刹那の距離も近づいた気がしますが、道のりはまだまだ長そうです。これからも頑張ります。

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